こんにちは、詩人オウィディウスです。

また間があいちゃって申し訳ない。

前回は、サビニ族の集団結婚の話をしたね。

今回から、もっと実践的な恋愛テクを紹介しよう。

前に、僕らの時代では戦車競走をよくやってるという話をしたと思うけど、

それを見に来た女の子と仲良くなる会話術だ。

 

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それから、血統のいい馬たちの競争も見逃さないように。

人がたくさん入れるキルクス(競技場)は、チャンスでいっぱいなんだ。

指で秘密の会話をすることもないし、

合図を受け取ったしるしにうなずく、なんて必要もない。

目当ての女性のすぐ隣に座ろう、何も邪魔なんか入らないんだから。

できるだけ脇腹と脇腹をぴったりくっつけて。

席の並びのせいで、どうしてもくっついちゃったり、

場所の条件のおかげで彼女の体にさわれるから好都合。

ここで、親しくなれる話の糸口を探すんだ。

まずは、あたりさわりのない会話から始めることだね。

誰の馬が出場するのか、ちゃんと聞くんだよ。君はレースを見たくて来てるはずなんだから。

どの馬でも彼女が応援しているというなら、すかさず君も応援するんだ。

だけど、象牙でできた神々の像が並んだ行列がやってきたら、

君はウェヌスにこそ、わが女神よと拍手を送ること。

(『アルス・アマトリア』1.135―148)

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馬の競走っていうのは、競馬じゃなくて戦車競走だ。

戦車っていっても馬に引かせた車だから、馬の方が話題になるんだよ。

レースをやるのは、キルクス・マクシムスといって、

競走用のコースがしつらえてあるローマ最古の競技場。

ちなみにキルクスというのは、もともと「円」っていう意味なんだけど、

そこから円形の競走コースをさすようになったラテン語で、

英語の「サーカス」の語源なんだ。

サビニ族の話の中では、劇場の観客は男女に分かれて座っていたけど、

こういう競技場の観客席は、男女別なく座れるので

気に入った女の子を見つけたら、まずは隣に座ろう。

こういうところのベンチは、一応席の区切りを示す線が一人分ずつ引いてあるんだけど、

幸い(?)狭苦しいので、自然とくっつきあって座れちゃったりする。

 

野球のサインみたいに、指を使った無言のコミュニケーションっていうのは

僕ら詩人が飲み会なんかでよくやるんだけど、ここではそんなことはしなくていいんだ。

周囲に聞かれてもかまわないようなことから、会話を始めよう。

君のほんとの目的は恋人探しだろうけど、

まずは、レースが見たくてやってきたんだという姿勢を見せよう。

そのためにも、「今日は誰の馬が出るの?」っていう質問がいい。

で、彼女が「私〇〇を応援してるの」って言ったら、

「あ、俺もそうなんだ!」っていうノリでね。

レースの前には、神々の像をかついだパレードが通るんだけど、

みんなそれぞれ、自分を守ってくれる立場の神さまの像に拍手をするんだ。

船乗りなら海の神ネプトゥヌス、兵士なら戦いの神マルスっていうふうに。

恋を探してる君なら、もちろんウェヌスに。

 

どうかな?少しは参考になったかな?

次は、さらにこの場面で使えるテクニックを伝授しよう。

それじゃ、また次回。