最近は引っ越しの準備をしている。

 

 

 両親は離婚はしていないものの、15年前から別居し、母は元々住んでいたソウルに、父は首都圏内の会社近くに住んでいる。私は2012年に父の会社で働き始めてからずっと平日は父の家を、週末は母の家を行ったり来たりしている。韓国は未(非)婚の子供が親と一緒に暮らす場合が多いけど、流石にもう直ぐ四十路に入ろうとしている娘がずっと実家にいるのは不自然かも知れない。独立を考えたことが無い訳ではないが、両親も離れているし、私の家族って一緒に住まないと他人と同じような関係になるだろうと思って諦めた。結婚願望が無いから、これからも暫くは同じ生活が続くと思う。

 

 

 

 今度引っ越しするのは父の家だ。別居し始めてからずっと間借り生活だったけど、もう70歳になるから最後まで住める自分の家が欲しいとのことで、今回は近所にある新しいマンションを買い入れることにした。韓国はマンションに住むのが基本で、私も小学生の頃からずっとマンション暮らしだ。日本語でマンションだと豪華なイメージがあるようだが(良く分からない)、韓国はハイツ、アパートなどに比べれば高いけど、地域や大きさによって値段が異なるからマンション=豪華ではない。日本のような一階建て、二階建ては田舎にはよくあるけど、都市にはあまりない。恐らく土地が狭いのに人口は多いからだろう。

 

 

 

 いつものように3DKのマンションを探して契約し、支払いまで済ませた。しかし、今住んでいる所が問題だ。

 

 

 

 韓国の賃貸には2種類があって、一つは日本と同じように月ごとに家賃を払うものだ。もう一つは「伝貰(チョンセ)」というもので、借り手が敷金として住宅価格の5~9割程の大金を一括で払う。その代わりに追加の家賃はない。契約が終われば支払った敷金が全額返ってくる。昔は預金金利が年に1割もしたので、チョンセだと家の大家は家賃の代わりに高い利子が貰えた。でも現代、少なくとも2000年以降からは長らく低金利時代だ。今韓国の預金金利は3%程で、それもコロナ以降少し上がったものだ。

 

 

 

 だったら何でチョンセが未だに存在するのか?お金が無くても家が買えるからだ。

 例えば一千万円の物件があるとする。その中800万円を払ってくれるチョンセ間借り人さえいれば、購入者=貸し手は200万円しかなくても家を手に入れられる。200万円がなくてもローンを組んで購買する。こんな形で沢山の家を買って、相場が上がるのを待つ。韓国の不動産の価値は何十年もずっと上がっていたので、不動産はまるで宗教みたいになっていた。

 

 

 

 でも、最近ローンの金利も大分高まった。それに幾ら何でもそういう風に何百軒も家を買ったら問題が生じる。第一契約が終わったら間借り人にお金を返さなくてはならない。そのお金が無いと破産してしまう。家主が破産すると借主は(全財産かも知れない)お金を貰えない。それにこういう大家って当然ながら借金が沢山あって、住んでいた住宅が競売にかけられることが多い。借り手は敷金も返ってこないのに住んでいた家から強制的に退去されるのだ。これが「チョンセ詐欺」と呼ばれるもので、被害者、つまりお金を返して貰えなかった借り手(主に若い人達)が1万人を超えた。その中何人かは自殺した。今韓国の深刻な問題の一つだ。

 

 

 

 今父が住んでる家もチョンセで借りている。大家が詐欺師だとまでは思わないが、4年も前に貰った敷金を使わずに貯金する人はまずいない。お金を払い戻して貰うためには、新しい借主か買収人が現れるのを待つしかない。もし家主が破産したら、家の権利が父に来るように処置はしたので、最悪のことは無いだろうが、いつ引っ越しができるのかは分からない。

 

 

 

 取り合えず私が先に新しい家に入ることにした。7月末までは必要なものはある程度備わって、生活するには問題ないが、今の家がいつどうなるのか、心配だ。