みなさんはイコライザーを使ったことがありますか?
ポータブルプレイヤーやPCオーディオで当たり前のように使う人、部屋の音響でうまくコントロールできない低域のために使う人、アナログのチャンネルデバイダしか使わない人、いろんな方がいらっしゃると思いますが、
制作現場でも使われているようなDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使うと、とても綺麗なイコライジングをかけることができます。
その機能を使って2wayスピーカーの音がどうなっているか、耳はどうなっているか、面白い実験をしてみましょう。
はじめにこの音源を聴いてみてください。
この音楽のスペクトラムは、このような周波数分布になっています。横の目盛りは周波数で高さは音量です。安定している音楽の周波数分布はこういう感じになっています。
と、タモリ倶楽部に出演したレコーディンク界の巨匠、内沼映二さんが解説しておられました。自分の作品でこれは出来がいいなと思うものを分析すると
LOW:500Hz以下が50% MID:500Hz~4kHzが30% HI:4000Hz~20000Hz以上が20% というバランスになっていたそうです。この音楽も60Hz以下を切り捨てて面積で見比べると、なるほどちょうどそんな感じになってますね。

それでは2wayスピーカーのツィーターから出ている高音のつもりでイコライザーをかけてみましょう。これは2kHzでクロスさせるためのハイパスフィルターです。-6dB/oct特性のハイパスフィルタがあればよかったのですが、-12dB/octしかありませんでしたので、これを使います。厳密にしないでかなりいい加減に設定しています。

このフィルタをかけて再生するとこんな音になります。想像していたよりも、か細い音になりました。ベースの音がほとんど聴こえません。
次はウーファーから出ている音のつもりで聴いてください。同じく2kHzクロスでローパスフィルターです。

2wayスピーカーはツィーターを逆相(プラスとマイナス端子を入れ替える)にして同時に鳴らすのが基本です。そのように合成して再生してみましょう。
どうですか?元の音楽と同じに聴こえますね。
半分に切り離して繋いだだけだから当然じゃないかって? いえいえとんでもない!ツィーターからの音は位相が逆なんですよ?不思議だと思いません?私は不思議です。
何故かというと音にフィルタをかけると低域は高音にむかうにつれ、高域は低音にむかうにつれ、位相がゆっくりと回転するのです。真ん中でちょうど繋がるのですね。
もう少し正確に言うと-12dB/octのフィルタは位相が180度回転するので逆相にしてぴったり合います。-6dB/octのフィルタでは90度ですのでクロス周波数の波長の1/4の距離だけツィーターの設置位置をずらして合わせます。2kHzの場合は42.5mmになります。実際にやるといろいろな要因が重なって結構ズレてしまいますのでその都度聴感で合わせ込みます。
では2wayスピーカーからの音とオリジナルの音、どちらも同じように聴こえますが、同時に再生してみましょう。どうなると思いますか? 音が大きくなるだけ? ずれなくピッタリ同時に再生させます。
このようにウーファーだけの時と同じような音になります。分割してから合成した時の高音は逆相なので高音だけオリジナルと綺麗に打ち消し合って全く聞こえなくなり、ウーファーだけの時と同じような音になります。不思議ですねぇ、どちらも全く同じように聞こえるのに。
人の聴覚はこんなにも位相に鈍感なんですね。全然違う位相と波形なのに同じように聴こえているのですから。
では位相がつながってない場合はどうなるのでしょうか?今度はツィーターを逆相にしないで正相で合成しましょう。なにか不思議な感じがしませんか?元の音に比べて少し音の広がりが抑えられているように聴こえます。実際に2wayスピーカーの中の配線を正相につなぎ替えても、同じような変化が得られます。
では、どんなスペクトラムになっているのか見てみましょう。

このようにクロス周波数前後にディップ(周波数の谷)が現れます。
ところで見た目はかなり激しいのに、聴いた感じでは意外と変じゃないなと思いませんか?
それとも充分に変ですか?だったらそれはあなたが元の音と聴き比べているからですよ。初めから正相の音しか聴いていなかったとしたら「これ、おかしいよ」とはなかなか言えないはずです。だってこういう音を出すオーディオって沢山ありますよね?
それでも変だ!言い切れるなら、あなたは立派なオーディオマニアです、誇りましょう!
人の耳はピークが出て、HIでシャリついたり、MIDでキンキンしたり、LOWでボンつく感じには敏感なんですけど、ディップが出た時の変化には弱いんです。
ところがディップや位相の変化には鈍感でも、聴いて下さったように音と音が干渉した結果現れた細かな周波数の乱れは、音楽の広がりやちょっとした雰囲気の違いとして、ちゃんと聴き分けられるんですね。
私はこの聴感の弱さが、良くない電源やケーブル、アンプやスピーカーで元の波形が乱れまくっていても、それがどんなに悪いのか、どういうふうに悪いのかが良くわからないという原理になっているのじゃないかと思うのですよ。音は音とだけ干渉するのではありません。回路、ケーブル、電源、スピーカーのエッジ、ダンパー、至る所に非直線性があって、それとも干渉します。
良い音を追求していくと「あぁ位相が揃ってるなぁ」と実感するような音を聴く機会があります。それはちょうど正相に対する逆相のような感じで、広がりがある、より自然な音です。人には位相を聴く能力はありませんが、位相が揃っている時の美しさは、オーディオっぽい色づけのない聴き疲れしない音として、明確に聴き分けることができます。
それでは最後に正相の周波数特性のディップを読み取って、オリジナルの位相を変えずにEQだけでディップを再現してみましょう。

元のスペクトラムと正相のスペクトラムの差のEQカーブはこんな感じになりました。
このフィルタをかけて再生します。
正相と聞き分けできない音になりました。イコライザを使って帯域バランスを変えるということは、位相を崩しているのと同じ事だと言えるのかも知れませんね。このへんの数学的な理解は苦手なので、もし間違っていたらすみません。
周波数帯域の位相の連続性がなめらかであればあるほど自然な音になりますが、スピーカーには最低共振周波数という厄介なものがあるので、その低域部分では位相がどうしても崩れてしまいます。
最低共振周波数を可聴域外に追いやることに成功した稀有なスピーカーの場合は低域の位相が全部揃うので、プロフェッショナルな音響をしても実現できない圧倒的な実体感のある、すごい低音を聴くことができるでしょう。市販品では例えばこういうスピーカーです。
http://www.accuton.de/media/datasheet/Datasheet%20S280-6-282.pdfアンプの場合も、電源周波数という厄介なものがあります。コンセントの電気は0Vになる瞬間があって、その瞬間はスピーカーを正確に動かす力が弱まるのです。チョークやコンデンサがあるので、全くのゼロにはなりませんが、駆動力が一定ではなく。常に乱れているということですね。
では理想アンプというのはどんなものでしょうか?
私は去年ついに聴くことができました。
遊音工房さまのアンプです。
よろしかったらのぞいてみてください。とっても地味なんですけど、現代オーディオのフロンティアだと思います。お近くなら是非のご試聴をおすすめしたいです。