【クレーマー登場】


「おい、浮かない顔してどうした?」

S夫が大きな声で話しかけてきた。

「いやー、お前は元気でいいな。オレなんか、悩みが多くてさ。」

Y男はいつになく暗い表情で、かけそばをすすっていた。


「オレのエビフライ、一つやるからさ、元気出せよ。」

「いいよ、いいよ。あまり、油っこいものは、食いたくないんだよ。」

「なんだ、情けないな。男たるものが、エビフライの一つくらい食えなくてどうする。

ひょっとして、仕事の悩みかよ?」

「うん、当たり。悩みと言えば悩みなんだけど。それほど、深刻でもないんだけど。

でも、ちょっと気になるんだよな。」

「なんだよ、はっきりしない奴だな。いつものお前らしくないぞ。オレに話してみろよ。

スッキリするぞ。」


もう、休憩時間も終わり近づいているせいか、社食の中は、人もまばらであった。


Y男はポツリポツリと話し始めた。


「実はな、最近、客相からの問い合わせが多くてな。時間を取られて困ってるんだ。」

「客相、、?なんだそれ?」

「なんだそれ、って。お前、メーカーに勤めていて客相も知らないのか?」

「客層、ってか?」

「そうじゃないよ。客相。お客様相談室」

「なんだ、略して言うから、、、。」

「いや、とにかくね。客相のオペレーターでは手に負えない、技術的な問い合わせは、

こっちに回ってくるんだよ。」

「それで、何が困るんだ?」

「いや、それがね、最近は、やたらとクレーマーが多くてね。ほとんど趣味の領域だね。」

「へー、暇な奴がいるんだね、世の中。」

「そー、そのとおり。時間を持て余してるから、客相のオペレーター相手に暇つぶしをしてるんだね。」

「あまり、いい趣味じゃないね。」

「でね、だいたい、リタイヤした叔父さんが多いんだよ。しかも、元技術屋みたいな人ね。

結構、知識は豊富だから、やれ、責任者出せとか、技術的な説明しろ、とか、うるさいんだよ。」

「そうか、でもね、そういう輩には、いい方法があるよ。」

「えっ、いい対応方法があるのか?」

「つまりね、逆療法って言うらしいけど、どっかで聞いたことあるよ。」

「へー、教えてくれよ。」


S夫は、得意げに話だした。


「クレームで、技術的な詳しい説明しろ、って言われたらね。分かりました、詳しく説明させていただきますが、電話では限界がありますから、お宅に伺って、詳しくご説明させていただきます、って言うんだよ。」

「へー、でも、いちいち、出かけるのは大変だな。」

「大丈夫だよ、どうせ暇つぶしなんだろ。来てくれ、なんて言わないよ。」

「そうかな、大丈夫かなー。」


Y男はやや不安げな顔していたが、ちょうどその時、チャイムが鳴ったので、それぞれ職場に戻っていった。


しばらくして、社食でS夫が一人でカレーを食べていると、Y男の方から話しかけてきた。


「おい、この前の作戦、見事に当たったよ。」

「えっ、なんの話だよ。」

「忘れたのかよ。お前が教えてくれたんじゃないか。クレーマー対策」

「あっ、そうか。お宅へ伺います、作戦ね。」

「そうだよ、見事はまったよ。結構、うるさいクレーマーでも、お宅へ伺いますって言うとね、

みんな、いいよいいよ、って、電話切っちゃうんだよ。これはいい方法だね。」

「だろーー。オレの読みがあたったな。今度、おごれよ。」

「あー、いいよ、お前のおかげだからな。」


しばらくして、Y男の姿を見つけたS夫は、


「おい、まだ、おごってもらってなかったな。今日あたり、どうかな。」

すると、Y男は怪訝な表情で、

「そんな気楽なこと言って。お前の、作戦な、途中までは良かったんだけど、

まさか、、ほんとに、内に来て説明しろって、いう客が出て来ちゃったんだ。」

「えーー、まさかだよな。で、そうした。」

「いやー、こちらから提案したんだから、行かないわけにはいかないだろ、

今日、午後から出かけるんだよ。気が重いなー」

「そうか、まー、いい勉強になるかもな、頑張れよ。」

「お前、、、他人事だから、気楽に言いやがって、、、。あんな、作戦、やるんじゃなかった。」


Y男は重い足取りで、お客の玄関前まで来ていた。


「ごめんください、B社のものですが。」

「あー、遅いじゃないか、待ってたよ。早く上がって、説明してくださいよ。」

「お邪魔します。」

「これが、おたくの製品だよ。全く動かないんだよ。どうしてくれますかねー。」


Y男の目にとまったのは、見事に分解されたプリンターだった。


「うわー、ここまで分解されちゃうと、、、困ったなー。」

「困ってるのは、こっちの方だよ、だってちゃんと動かないんだよ。」


Y男は一応、基盤ごとに波形チェックもしてみたが、原因はよくわからない。

仕方がないので、一応、組み立直して見ることにした。

上カバーを持ち上げてみると、その時、、、


「あれっ?」

Y男が、カバー上のロゴを、よくよく見てみると、そのプリンターは、、、、



「あのー、これ、、、、、ライバル会社の、C社のプリンターなんですが、、。」

「あ、っそう。お宅、C社の人じゃないの。じゃ、明日は、C社の人に来てもらうよ。」

「おーーーと、、、負けました、、、。」


(END)