【恐怖の3分間】
階段を踏み外しそうになり、
「おっと いけない」
Y男はつぶやきながら、いつものように最寄りの地下鉄の改札口に
向かった。
昨日の盛り上がった飲み会のせいでアルコールが抜けきらないのか、
まだ頭がふらついている。
「やっぱり、ウコンの力を飲んでくればよかった」
そんなことを考えながら、おぼつかない足取りでホームにたどり着くと、
タイミングよく電車がやってきた。
「うっ、」
確か、階段を下りるところで足を踏み外しそうになったところまでは
覚えているが、今はホームにいて電車に乗り込もうとしている。
その間の記憶が飛んでいる。
「これは、ヤバイな」
それでも、ちゃんと電車に乗れるんだから、
「俺ってすごいな」
というか、習慣というものはありがたいもので、意識が無くても体が
覚えているようだ。訳のわからないことを考えながら、Y男は満員の
電車に最後尾から乗り込んだ。
いつものことながら、この電車は混んでいる。かなり強引に押し込んで
乗らないといけないが、今日の体調では自ら力を出すことはできない。
人の流れに身を任せ、周りの力で自然に電車の中ほどまで進むことが
できた。さすがサラリーマン生活13年目、会得したテクニックはダテでは
ない。
「どんなもんだい」
ひとり感心しながらも、目はうつろで周囲も良く見えないまま、吊り革に
つかまろうと手を上げた瞬間、隣の女性のお尻に手が触れたらしく、
「きゃー、触らないで」
と大きな声が、途端に
「あっ、男よ」
「えー、なんでー」
「どうしてー」
と、一斉に女性の声が。周りを見ると女性ばかり。一斉にこちらをにらみ
付けている。
「あっ、えっ、、、おーーっと」
そうだ、これは女性専用車両だ。いつもはひとつ後ろの車両に乗っている
のだが、寝ぼけていたせいか、今日はひとつ前の車両に乗ってしまった
ようだ。ようやく事の重大さに気付いたY男は、
「すみません、間違えました、次の駅で降りますから」
と、誰に言うともなしに、独り言のように話していた。そう、次の駅まで3分間、
我慢しよう。
「時間よ、早く動いて」
、と祈る思いでいると、次の瞬間車両ががくんと揺れた。その反動で、
Y男は上半身が大きく後ろにのけぞり、思わず吊り革から外れた手を
再度握り直そうと手を差し出したが、目標が定まらず、すぐ前の
女性の胸をむんずと握ってしまった。
「きゃーーー、エッチーー」
「あぐヤ、、あガ、、ガ、、、いやいや、いや、、 はずみ、、、で、でー、、」
言葉にならない、Y男に向かって、後ろの女性から、
「この人、痴漢よー」
「い、いや、、イヤ、、、、ちかん、、じゃなく、、ちがい、、まう、、す」
慌てふためくY男に、女性たちから一斉に、
「痴漢は、早く出て行け」
「やっつけちゃえ」
「なぐりとばしたら」
容赦の無い言葉の攻撃に、Y男は思わず身をかがめて、急場を凌ごうと
したが、運の悪いことに、しゃがんだ弾みで右隣の女性から足で押され、
その勢いで左隣の女性に倒れ掛かってしまった。その瞬間、女性の
髪の毛をつかんでしまい、これはいけないと手を離すと、今度は体が
揺れた反動でスカートに手がかかり、こともあろうにスカートを半分
ズリ降ろしてしまったのだ。
「きゃーー、ちょっとー、、なにやってるのー」
「うっぎゃーー、、、、ご、、ご、、、ごめんな、さいーー」
もう、完全に修羅場と化したその車両では、痴漢退治とばかり周りの
女性から、Y男はふんずけられるは、なぐられるは、とんでもない状況に
追い込まれていた。
「は、、はやく、次の駅についてくれ!」
祈るような気持ちだったが、ようやく次の駅に電車が滑り込むと、
早く降りたい一心のY男はドアに急ぐあまり、あわてたのも手伝って、
前につんのめりそうになり、目の前にいた女性のお尻を両手で
つかんでしまった。
「ぎゃーーー、、ばっかー、、、もう」
「どひゃーー、す、、すいませーーーん」
もう、むちゃくちゃな状況だが、とにかく、後ろにいた数人の女性に
押し出されるようにして、やっとの思いでドア付近までたどりついたY男は、
車両から転がり落ちるようにして押し出された。
「どっすーーーん」
大きな鈍い音とともにY男はベッドから落ちて、頭をしたたか床にぶつけて
やっと目が覚めた。
