「一本刀土俵入り」、歌い方に品の良さがある
一本刀土俵入り
歌手 三橋美智也
作詞 高橋掬太郎
作曲 細川潤一
今でこそ演歌は「コブシ入り」が普通ですが、これは三橋美智也が初めて導入した歌い方です。民謡歌手だったので当然といえば当然ですが、それが日本人の琴線に触れたのでしょう。
レコード販売「1億枚以上」は歴代歌手でダントツの一位。北島三郎、細川たかしらが「上京のきっかけ」になったとか、小椋佳も「発売されるたびにレコードを買った」といわれています。
この歌は150万枚も売れ、YouTube の再生回数からもその人気度がうかがえます。”高音の伸び”がいかんなく発揮され、やくざものでありながら”品の良さ”で嫌味を感じさせません。
歌い方の強弱を色でしめしました。
「ふつうの黒」は普通の声量で発声します。「青」はふつうよりも弱く、「黒太字」は最も強く発声します。
三橋美智也のバイブレーションの特徴は後半です。「オーーーオオオ」と3バイブです。高い方を強く、低い方は弱く」です。
3番の「土俵入り」の発音は「どひょおおー」と「う」ではなく「お」と発音しています。「力強さ」を表現しているのでしょう。
①
相撲名乗りをやくざにかえて
今じゃ抱き寝の一本刀
利根の川風まともに吹けば
人の情けを 人の情けを
思い出す
②
忘れられようか十年前を
胸に刻んだあの姐さんを
惚れた脹れたというてはすまぬ
義理が負い目の 義理が負い目の
旅がっぱ
③
見せてあげたい男の夢も
いつか崩れた一本刀
悪い奴なら押さえて投げて
行くがおいらの 行くがおいらの
土俵入り
あらすじ
利根川の渡しに近い取手の宿。酌婦お蔦は、土地のやくざが若夫婦に因縁をつけ、仲裁の町人らにも暴力をふるうのを宿の二階から眺めていた。通りがかった茂兵衛も喧嘩にまきこまれ、江戸相撲の巡業先で見放され一文なしの水腹ではあったが、やくざを追っ払う。
お蔦は茂兵衛に身上話をさせる。生まれは上州勢多郡駒形で親兄弟もなく「母の墓の前で横綱の土俵入りをしたいと」話す。お蔦は情にほだされ、故郷の越中小原節を唄って「きっと横綱になっておくれ」と、巾着・かんざしを帯にくくって茂兵衛に投げ落とす。
それから十年後。
流れ者職人は我が子を育ててきたお蔦と身を固める気になるが、賭場でイカサマをして追われるはめになり逃げようとしている時、背中におぶった子が生みの母親から聞かされていた唄を口づさむ。
お蔦の行方を尋ね歩いていた茂兵衛は、唄を頼りに木戸を叩く。やくざ姿で名乗られてもお蔦には判らなかったが、茂兵衛は恩返しといって金を差し出し立ち去ろうとする。やくさの親分らが家を取り囲み乱闘となる。
相撲上りの親分は茂兵衛も相撲上がりと気づき勝負。その姿にお蔦は十年前を思い出す。「横綱になるという夢」もやぶれた茂兵衛は悪い奴らを押さえては投げ、「十年前、櫛巾着ぐるみ意見を貰った姐はんへせめて見て貰う駒形のしがねえ姿の土俵入りでござんす!」と涙声で見送るのだった。