#あなたの本命サンダル | 伊藤 禎高

伊藤 禎高

たまに書きます



​うちの寮に住んでるiさんがね、怒鳴り込んで来たらしいんですよ
温厚そうな人なんですけど、そうとう腹に据えかねたんでしょうね
彼は、プレゼントでもらったナイキのサンダルを大事にしていて、外で履かないで内履きだけで大事に使ってた。
ところが、ある日それがなくなって、総務に訴えに来た。
総務としてはどういうワケだと、監視カメラを調べたんですね。
そしたら、派遣で来ているミャンマー人が、玄関の下駄箱をあさって今日はどのサンダルにしようかなあ、みたいに選んだ結果、iさんのナイキのサンダルを履いて出て行くところが写ってたわけなんですよ。
しかも部屋に持ち帰っちゃった。
総務はそのミャンマー人を呼んで、事情聴取した。
すると、ただその日に履くサンダルを選んだだけで、何が悪いのかわからないっていう感じなんでさ。
さんざん話をして、勝手に他人のサンダルを履いて行くのはダメなんですよ、ということを納得させて、ちゃんと返させたんですけど、
iさんは納得しない
絶対に外には履いて出ないで大事にしていた物なんだ、洗って返せ、って言う。
ミャンマー人にそれを伝えたら、
水道で水かけて洗ったんでしょうね、
ビチャビチャなサンダルが下駄箱の他の靴も濡らして返してあったらしいんです。
iさんは怒髪天をついたらしく、また総務に怒鳴り込んで来た。
総務はまたミャンマー人を呼んで、ビチャビチャで返したらしいですね、と聞いたんだが、
濡れてたのは洗った証拠でしょう、置いておけばすぐ乾く、何が悪いのか、って感じだったらしいですよ。
いや、ミャンマー人を悪く言うわけではないですよ
文化の差っていうんですかねえ、
ミャンマーって前ビルマって言ったでしょう
その頃、僕バイト仲間にビルマ人いたんですよ
コリさんていう
当時日本に留学して来る外国人てエリートですよ
コリさんの弟はビルマのジュードーチャンピオンだそうですよ。お父さんは警視総監だ。
講道館に連れてってって言うので待ち合わせをしたんだが、
二日酔いで僕、行かなかったんですね
起きたら待ち合わせ時間を何時間も過ぎてたんで、バックれたわけです
んで次のバイトの日に会って謝ったわけですが、
オーケーオーケー、あの日はとっても寒かった、だからあなたは来なかった、当然でしょう、大丈夫ですよ、あんな寒い日に来ませんよね、問題ないです、って言うんですよ
ええー、寒い日だったから、で納得しちゃうの
でもビルマではそんな目に何度も合っているのかもしれないし、許してもらえたならいいか、って思って、
後日、ちゃんと講道館へ連れて行きましたけどね。
売店に寄って、スポーツバッグに講道館のロゴの入ったやつとか、タオルとか、色々売ってて、弟に何か買って行ってやるんだって言うから、僕はタオルを推したんですけどね、コリさんは、デザインがイマイチというんですよ、
んで、結局買ったのは、50円とかで売ってた紙石鹸ですよ
帰り道に、吉野家に寄ってこうよ、って言ったら、宗教上ダメだっていうんだけど、ポークじゃないよ、ビーフだから、って言ったんだけど、お腹空いてないみたいなこと言っていて、しょうがないなあ、イッツオンミー、って言ったら、嬉々としてついて来て、バクバク食べてたんだけど、
いや、おとしめてるワケじゃないですよ、留学生は経済状態良くないでしょうからね、まあ僕も当時学生でそんなに金持ってたワケじゃない。
腹割って話せてなかったってのが原因かな。
遠慮とか出ちゃう仲でしかなかったと。
国に帰る時に、コリさんから、ビルマの高級な織物なんだと、スカーフをもらったけど、僕が身につけるようなデザインでなかったので、いつの間にかどこか行ってしまったなあ
当時はケータイとかラインとかなかったんで、僕たちの仲はそれっきりだ
今なにしてるかなあ
警視総監とかなってたらびっくりだよな
他にもアラムさんとかハッサムさんとか、ラッシードとか、面白いバングラデシュ人なんかいたんだけど、あの頃ケータイとかあったら今でも友達だったかもな
もう40年近く前の話さ





あなたの本命サンダル