不必要な抗菌薬の使用 死者増加の試算も
そもそも抗菌薬(抗生物質や抗生剤)とは、
細菌が原因の感染症に使う薬です。
肺炎や膀胱炎、中耳炎などで処方されることがあります。
この薬の成分を分解したりブロックしたりできるように、
遺伝子を変化させてしまったものが「薬剤耐性菌」です。
抗菌薬を服用すると、病原菌や体内にいる多くの菌が退治されます。
一方、その薬に耐えられる病原菌が生き残ったり、
生き残れるよう変化したりすることもあります。
その薬剤耐性菌が増殖し、ヒトや動物・環境を通じて広がることも。
免疫力が落ちている人や子ども・高齢者がこの耐性菌に感染して悪化すると、
もともとの薬が効かず、治療が難しくなります。
抗菌薬を不必要に使いすぎれば、このサイクルがどんどん進んでしまいます。
国立国際医療研究センター病院・AMR臨床リファレンスセンターの日馬由貴さんは
「街中に耐性菌が広がり、その耐性が高度化している」と指摘します。
過去には院内感染で問題となることが多かった耐性菌ですが、
近年になって、入院もしていない健康な人が保持するようになったといいます。
健康な妊婦が薬剤耐性のある大腸菌をもっていて、
赤ちゃんが感染してしまったケースもあるということでした。
このまま対策をせず耐性菌が増え続ければ、2050年には、
アジア・アフリカを中心に年1000万人が耐性菌によって亡くなるという
イギリスの試算もあります。
どうすれば耐性菌の増加をゆるやかにできるのでしょうか。
センター長の大曲貴夫さんは
「処方された抗菌薬を正しく服用することが大切」と呼びかけます。
大曲さんや同センターの具芳明さんたちが、
今年3月に3390人にインターネット調査した結果では、
「風邪やインフルエンザに抗生物質が効果的だ」と答えたのは、40%もいました。
風邪を治してくれるのは自身の免疫力ですし、どちらも抗菌薬は効きません。
正しく知られていないことがうかがえます。
また、「自己判断で抗生物質を調整・中止したことがある」は23%、
「自宅に抗生物質を保管している」は11%いました。
自宅に保管していた人のうち、4分の1が「家族や友人にあげたことがある」
と答えています。
たんなる風邪で受診した患者が、「抗生物質が効く」という誤解から
「薬をのまないと不安」と訴え、医師が安易に処方してしまう実態もあるそうです。
国は適正使用の手引きを出して、不要な抗菌薬の処方をやめるよう呼びかけています。
大曲さんは、「風邪で薬を出さない医師は、むしろ耐性菌の広がりや
医療経済についてきちんと考えている良心的な医師かもしれません。
医療関係者に適正な処方を呼びかけることはもちろんですが、
受診するみなさんも、自分の出された薬についてきちんと知ってほしいと思います」
と話しています。