いーちゃん2年生の12月。

近隣の学校で学級閉鎖が相次ぐなか、なんとか持ちこたえていた我が家に、ついにその日がやってきた。

今季初インフルエンザ――
その栄えある(?)トップバッターは、まさかのいーちゃんであった。

その日は、本人が何日も前から楽しみにしていた
「おいもクッキング」当日。

発熱で休まざるを得なくなった彼は、
布団の中で小さくつぶやく。

「…おいもクッキング…」

その声はまるで、遠い地平線に沈む夕日のように儚かった。

病院では程なくインフルエンザA型と診断。
火曜までのお休みを言い渡され、薬をもらって帰宅。

念のため、妹たちから隔離して過ごしてもらっていたのだが、
昼過ぎ頃にその部屋の方から、
「ぐふぐふ……」と、何やら怪しい音が聞こえてきた。
インフルエンザに関連する異常行動か!?
と一瞬身構えつつ様子を見に行くと、
―ただYouTubeを見て笑っていただけであった。
おトーさん、盛大にズッコケる。

幸いにも熱は一日で下がり、
夕方にはクラスのみんなが作った“茶巾包み”のお裾分けを前に目が輝く。

「これは絶対Eくんが作ったやつだ!」

と断言しつつ、普段はなんでも“一口で行く”男とは思えないほど、
やけに大事そうに少しずつ食べ進める。
しかもその茶巾包みの作者、Eくんで合っていたらしいと判明。
なんでわかるんだ?

その後、母のスマホに届いた同級生の女の子からのLINEに返信するときには、
毛布にくるまり、プーさんがはちみつを食べるような姿勢で、

「Aガタだったんだよね?Aってどうやって打つの!?」
と質問しながらぽちぽち入力。

しばらく打ったところで、
「そのAガタだった、ナントカエンザってなんだっけ?」

…そこから!?
そんな初歩的すぎる質問を飛ばしながら、顔は真剣。

いーちゃんはじめてのインフルエンザは、
彼にとって“おいもクッキング欠席”と
会ってないのに友だちとの絆が深まった、
なんとも"らしい"一日になったのであった。