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同じ町に住む、どこか冴えない日々を送っていると感じている人たちを主人公にした、短編集です。
角田光代さんの作品は、これで3冊目。全てに共通して言えるのが、ここではないどこかへ逃げ出したい、という気持ちがあること。
先に読んだふたつは、実際それを実行し、波乱に富んでいました。しかし今回は逆に、実行する気すら起きないような、そんなリアリティーな作品です。
物語として突拍子もない展開があるわけでもなく、激しく浮き沈みがあるわけでもない。ありふれた、刺激のない、でも読む誰もが、登場人物の誰かと似た感情を抱いたことがあるような、そんな物語。
今の生活を愛することはできない日々、はっきりとした不満は少なくても満足がいかない日々、生活を変えたい・変わりたいという欲求すらもはや起きない日々。そんなふうに過ごしている人は、やはりありふれていると思う。
むなしさを感じる瞬間があったとしても、そんな平穏な日常を、嫌ってはいない。むしろこれがいいんだと、これこそが自分の生きやすい生活であり、大切にすべき日々なんだと、気付かせてくれる作品です。
個人的に印象に残ったのは、法に触れる薬を常用している主婦の話。薬による幻覚などの表現が、すごいと思った。
薬が作り出す、幻の世界、快楽。それが文学的でありながら、薬を飲むと本当にそうなるんだと感じてしまう。
何より、作者は絶対そんなものを飲んだことなんてないでしょうに、表現できてしまうこと。
薬の幸福な世界と、子育てに忙しくて夫に不満もある現実世界とのギャップが良かった。
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