ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール/草薙素子


ルイズは朝倉涼子から襲われてから当てもなく林の中を歩いていた。
(サイトォォォ……どこー……?)
その表情は彼女のこれまでの人生の中でもっとも暗かった。
それは、彼女を守るガンダ―ルヴである平賀才人がいないだけではない。
数十分ほど前に遭遇した朝倉涼子によって心に植え付けられた”種”が原因である。
(誰でもいい……何でもいいから、どうすればいいか教えてよぉぉぉ)
そのまま、ルイズは歩き続けた。
そして……






(いた、人がいた)
ルイズは道を歩く剣を抱えた見慣れぬ露出の激しい服装の女性の姿を発見した。
「お………………」
そして声をかけようとしたとき、あの声が思い出された。


『約束破ったら……嫌だよ?』


ルイズの心をゾクリとその声が撫でる。
すぐさま後ろを見たが誰もいない。
だが、確実にその言葉は確実に心を犯す。
そして、女性の後を付けながらルイズは決断した。

(そうよ、あんな女殺しちゃえばいいのよ。見たところ貴族が着る服じゃないってことは、平民だし。
 平民ってことは貴族である私がどれだけ消費してもいいってことよ。なによりあの胸が気に入らないわ。
 なによ、あのメイド並にでっかい胸して、しかも私よりでっかい図体して出るとこ出てて、引っ込むとこ
 引っ込んでて、綺麗な髪してて、平民のクセに生意気よ。コロシチャエ)

確実に見ず知らずの女性に対して確実に殺意を抱いていく。
そして、ピタリと女性が足を止めた。
(チャンスだ)
ルイズはそう思い、もぐらてぶくろを両手に嵌めて地面の中に潜る。
そして掘る。掘り続ける。
(ヤッテヤル!ヤッテヤル!)
掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘る。掘り続ける。
(ヤッテヤレバいいんでしょ!)
女性がいると思しき地面の下に辿り着く。
そして、剣を付きたてようとしたが一瞬躊躇した。



それは、女性が移動していないかという根本的な問題であった。
(馬鹿!私の馬鹿!あの女が移動しているならヤレナイじゃないの!)
そう頭を抱えていると天井から何かの音がした。
(!?ばれた!)
ルイズは一瞬そう考えたがすぐに考えを改める。
(いや違う!ばれていたのならあの剣で串刺しよ。いける。私はあの女をヤレル)
そして、呼吸を整え剣を勢いよく天井に突き刺す。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その勢いはとてもルイズの出せる力とは思えぬほど強く、勢い余ってルイズも外に出てしまった。






だが、










「…あれ?なんで誰もいないの?」
そこには誰もいなかった。辺りを見回しても女性の影どころか猫一匹すらいなかった。
「まさか……幽霊?」
地面から這い出しながらそう思い背筋に寒気が走る。
「そうよね、こんな所だから幽霊の一人や二人出るよね。先刻の女がもうすでに誰かヤッテイ…」



「奇襲をかける基本は決して叫び声を上げないこと」
突然声がかけられ、ルイズの頭が状況を把握するのに0.5秒の時間を有した。
その間にルイズの持つ剣に強い力が働き、剣が宙に弾き飛ばされる。
「な、なんで!?」
とは言ったもののルイズは状況判断をするより先に本能的な危機感から再び地面に潜ろうとした。
その判断は素早く正しかった。彼女を相手にしなければの話であるが…

「遅いわよ」
「ひゃあ!?」
二本の剣が地面に落ちると同時にいきなり右足に妙な力が加わりルイズが宙に吊り下げられる。
まるで透明人間に吊るされるが如く。
「この魔法の手袋で地面の中を掘り進んだのかしら?没収」
そして、手袋も外されデイバックも放り捨てられた。流石にルイズもどういうことが起こっているかは
検討がついたが、時既に遅かった。
ルイズにとっては聞き慣れない音が聞こえると同時に吊り下げている人物の姿が顕になる。
「先刻の女…」
「あなたの尾行バレバレだったわよ」
女が無表情のまま呟く、彼女にとってはこの程度は児戯にも等しい。
「さて、どういう理由で襲ったのかぐらいは教えてほしいわね」
「………」
だが、ルイズは一言も声を発するつもりはなかった。
それは朝倉涼子への恐怖がこの状況下でも続いており、あのことを喋っただけでも殺されると信じていたからだ。
だが、そんなことなどルイズを捕まえた女には関係がない。
ルイズの左手の中指を見ながら女が唇を吊り上げる。
「お前は、おそらくこう言われた」
女が一拍置く。
「お前の命運はもらおう。でも、すぐには殺さない」
「!?」
そして、呟く。ルイズにかけられた呪いの言葉の再現を、




「お前には、私の手助けをしてもらう。影ながらな。八十人という数はやはり多い。
 だからお前は、私のサポートのために多数の人物を殺してもらおう。約束を守りさえすれば、ここでは殺さないでやる。
 まぁ一人でも二人でもいいから、できるだけ人数を減らしてね。ちょっとでも負担が軽くなればいいから。
 そういえばあなた、人を殺したことはある? ないよね? でも大丈夫、これあげるから、役立てて。
 日本刀にしては軽いし、切れ味だけはいいから。たぶんあなたでも簡単に人が殺せる。どう、この条件のむ?』


ルイズの脳裏に再び朝倉涼子の言葉が思い出され、それが女の言葉と重なる。

『でもね……もし、私との約束を破ったら……』
左手の中指に女の手が伸ばされる。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
今度は暴れることが出来た。
そして、足を掴まれていた手が離れルイズは駆け出そうとする。

だが、すぐに取り押さえられた。それは左手を左手で、右腕を右足で押さえられるという奇妙な拘束の仕方であった。
女の豊乳がルイズ頭を圧迫するが今はそれどころではない。
「さて、私からすれば爪一本は手ぬるい。やるのならば、もっと徹底的にやるべきだ」
「……」
「五指を一本一本丁寧に切り離すか」
喋りながら空いた右手でデイバックの中から奇妙な形のナイフを取り出す。
「奥歯を時間を掛けて歯茎ごと取り出すか」
「……ぁ」
「全身の皮膚という皮膚を一片残らず剥ぎ取るか」
「…やぁ」
「眼球を抉り出すかを、するのが相手を正直にさせるのに都合がいいな」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫が響く。
「いやか?なら、正直に話してもらおう。お前が、誰に何をされて、何を言われたかを」
「そ、それは……」
そして、この状況でもルイズは躊躇した。自分を捕まえた女が朝倉涼子以上にクレイジーな存在と知らずに。


「そうか、ならゲームをしよう」
「げ……ぇむ……?」
ルイズはオウム返しに聞き返す。それは開放への期待ではなく純粋な恐怖であった。
「なに簡単なことだ、お前はただじっとしているだけでいい」
そのまま女は自分の左手をルイズの左手に添え、計十本の扇形の手が出来上がる。その間隔は僅か1cm。
「私がこのナイフで指と指の間を順に連続して刺す。もし、どちらかの指が傷つけばお前の勝ちだ。
 開放してやろう。ただし、一分間傷つかなければ先刻言ったことを喋ってもらおう」
「…やめてよぉ」
力なく呟く。
「お仕置きだ……Game Start!」
「助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!サイトォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

だが、ルイズの願いは聞きいられず、また体を固定され動かすこともできずに、僅かな時間の悪夢が始まる。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

ナイフは両人の左手の指と指の間を左から順に縫うように突き刺し、右端に辿り着くと左端に戻っていく。
その間隔は0.1秒、少女の目でも捉えられる速度である。


「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」

だが止まらない。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!



「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」

止まらずにさらに速度が増す。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」

ルイズは現実を認めたくないがために目を瞑る。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

だが、聞こえ続けるナイフが地を刺す音は、容赦なくルイズの耳に入る。


「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
ドドドドドドドドドドドドドドドド!!

「やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!やめ!?……?」

突然ナイフの動きとそれに伴う音が止まり、ルイズはやっと止めてくれたかと自身の左手の無事を確認し安堵する。




ドン!!

「ヒッ!?」
「ジャスト一分!」

だがその瞬間を狙って、ルイズと女の中指の間にナイフがこれまでより深く突き刺さる。
それを見たルイズは朝倉涼子以上の恐怖を、女に植え付けられ完全に意識を闇に落とした。










「少しやり過ぎた……か?」
気絶した名も知らぬ少女を左手の中指にハンカチを巻き、デイバックを枕代わりにさせて横たえ女、草薙素子が呟く。
「これではバトーのことは責められんな。私の方がよっぽどサディストだ」
そう、つまらなそうに呟きながらも、少女が持っていた装備を調べる手を休めない。
あらかじめ自分の装備を調べる過程で分かっていたことだが、少女や彼女の持つ支給物は、そのほとんどが量子力学すら
無視したものであり、現代の技術では説明できない物が殆んどであった。まるで、魔法の品物である。

ゆえに、過剰に少女を責めたてた。





実際に短剣とロングソードは魔法の品であるらしく、ロングソードの方は特定の人物、名簿にも名前が書いてあった
獅堂光以外の”人”が触れたら対象を燃やす、と書かれた説明書が同封されてあった。
嘘か真かは義体化率100%のサイボーグである素子には判らなかったが、後をつけていた少女が飛行機事故に遭うまでは
見ていた魔法少女に似ており、殺気を自分の”ゴースト”が知覚したため相手を魔法とやらを使える相手と仮定して
服従させるほどの尋問を執り行った。


無論、マルコ・アモレッティやクルツコワ・ボスエリノフ等ほどではないが、このようなおきまりの手段を
用いる殺し合いに乗った人物の情報を吐かせる目的や、自分にとっては暗闇や雑音など問題にならないため
もし近くにいた場合は、隙だらけに見える不利を偽ってカウンターを仕掛けようとも考えていたが。


「さて、どうするか?」
とりあえず、都合のいいことに代えの服があり少女の濡れたスカートやショーツを、取り替える作業を
しながらこれからのことを考える。
元々、彼女はギガゾンビの言うことをまったく信じてはいないため、殺し合いに乗るという
選択肢は最初からに電脳に存在しない。


まずは、当初の予定どうりに九課のメンバーや、あのギガゾンビのことを知ってそうな人物を探すのは
当然として、一つ気になったことがあった。
(サイトー……ねぇ)
少女の体を拭きながら、メンバーのことを考える。
それは九課の中でもトップレベルの狙撃技術を持つ男のことを。

自分は状況把握をするために、あの場にいたすべての人物の容姿のデーターを確認することを優先した。
その中にはサイトーはいなかったはずである。
とはいえ名簿のデーターを浮かべると他の九課のメンバーと同様に”平賀才人”の名前が連なっている。
理由は不明だが、知り合い同士が名簿では近くに書かれていおり自分の”草薙素子”も偽名である
ことも考えると、違うとは断定できない。
「考えていても、仕方がないか」
少女の体液を拭き終わり、ぶかぶかのバニースーツを着せながらそう呟く。
この少女が、ルイズかタバサか獅堂光かその他の人物かは判らないが、後で聞けば判ることでもある。





それに、先に首輪を何とかするのが先決でもある。自分達は爆弾解体も可能ではあるし、
力が及ばなかったが、あの少女の首輪が爆発する前に受信装置にハッキングを行い、爆発を阻止しようと
したためある程度の構造は把握できた。結果的に防壁に妨げられ、少女を救えはしなかったが
代わりに、巻き込まれた人物達の敵討ちのための足がかりは得られた。
(うちのは大丈夫かしら?)
仲間のことを思い出す。ネットが繋がっていないため、連絡を取り合い無事が確認できず、少々不安になる。
いまさら仲間が死んで、泣いてやるほどの人生は歩んではいないが、それでも自分と同じ九課の面子である。
死んでほしくはない。
(……弱気だな)
思考を九課のリーダーに戻す。
まずは、味方を集めることが先決であろう。そのためには防波堤か、この先にある橋を渡って人がいそうな
地域を目指さねばいけないが、もし防波堤に自分が銃を支給されたように、スナイパーライフルを支給された狙撃手が
いる場合は危険である。
(ならば、電車に乗るべきか)
いざとなれば、列車から飛び降りることも可能なため、まずは駅に向かうことにする。



そして、少女のスカートとショーツをデイバックの中に押し込み、
鋼の女は銃を右手に、デイバック二つを左肩に、少女を左脇に抱え、その場を後にした。

公安九課にとっては、いつも通りの戦いの日々が始まった。




【F-2林/1日目/黎明】

【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:機能良好、名前を知らない少女を抱えている
[装備]:ベレッタ90-Two(弾数17/17)
[道具]: 荷物一式×2、ルールブレイカー@Fate/stay night、トウカの日本刀@うたわれるもの
     水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、
     獅堂光の剣@魔法騎士レイアース、ルイズの濡れたスカートとショーツ
[思考]:1、バトー、トグサ、タチコマを探す
     2、ルイズを抱えて駅に行く
     3、首輪を外すための道具や役立ちそうな人物を探したい
     4、ギガゾンビの情報を知っていると思われる、のび太、狸型の青い擬体、少年達、中年の男を探す
     5、平賀才人をついでに探す
     6、ギガゾンビの”制圧”
[備考]:参加者全員の容姿と服装を覚えています。ある程度の首輪の機能と構造を理解しました。
    草薙素子の光学迷彩は専用のエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
    電脳化と全身義体のため獅堂光の剣を持っても炎上しません。

【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:気絶、左手中指の爪が剥がれている(素子のハンカチが巻かれている)、素子に抱えられている
[装備]:バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱、(スカートとショーツを穿いていない)
[道具]:無し
[思考]:1、草薙素子に逆らえない
    2、草薙素子に対する恐怖
    3、才人に逢いたい……
[備考]:バニーガールスーツはみくる専用のものなので、ルイズではサイズが合わない(特に胸の部分が)