アーカード/タバサ


小声で呪文を唱え、杖を振り、こんな状況にも関わらず怯えた様子も見せず、むしろどこと無く楽しそうな表情で道を歩いている男に向けて風の刃を放つ。

風の刃が男の首を切り裂き男の顔が宙を舞う。
そして一瞬遅れて体が崩れ落ちる。
名も知らぬ男の人生は、たったそれだけで終焉を迎えた
最後に悲鳴一つあげることも無い。そこに残るのはただ死という現実だけ。


…人を殺した。でもその事に罪悪感は無い。
私は帰らねばならない。
帰って、この『どんな病気にも効く薬』を母さまに届けなければならない。
そして母さまと幸せに暮らす。
たかが80人殺すだけで、その願いが適うなら安いものだ。
どれほどのあいだ、思考していただろうか?

BANG!!

激しい音とわずかな衝撃が私を襲った。割れた窓ガラスの破片が私の頬を傷つけ、うっすらと血が流れる。

「首をもがれたのは、久しぶりだ。なかなかやるじゃぁないかヒューマン」

声のする方を見るとを見ると、殺したはずの男がそこに立っていた。

「いい目をしているなヒューマン、その目は化け物を殺す人間の目だ」

どういうこと。
あの男は確かに首を切り飛ばして殺した筈───

BANG!!

「どうしたヒューマン?敵はここにいるぞ、さっさと攻撃してこい。お楽しみはこれからだ!!」

余裕のつもりか男は妙な形の杖をこちらに向けたまま、此方に語りかけてくる。

「HURRY!」

何故殺した筈の男が生きていたのかは分からない分からない。

「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」

でも────

「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」

関係無い。死なないのなら───


「HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!HURRY!」

死ぬまで殺すのみだ。

「ウィンディ・アイシクル」

無数の氷柱を作り出し、眼前の不気味な男に向けて放ち───

「アイス・ストーム」

自分の使える呪文の中でも最も強力なトライアングル・スペルを眼前の男に向けて叩きつける。

無数の氷柱に突き刺され、氷粒まじりの竜巻の直撃。

そんな攻撃に耐えうる“人間”が存在するはずも無く、それは明らかな過剰殺戮だった。

───相手が“人間”ならば。

体中に氷柱が突き刺さり、纏っている服もボロボロ。

「どうしたヒューマン!?それだけか!?たったそれだけで私を殺すつもりか!?もっとだ!!もっと!!もっと!!もっと!!もっと!!私を殺したいのなら!!もっと力を見せてみろ!!」

そんな状況で、タバサの眼前に立つ男は、至極楽しそうに笑って見せた。

「…化け物」

「そう、化け物だ。それと退治するお前は何者だ?化け物か?人間か?それとも狗か?」

勝てない、目の前の“化け物”に私は決して敵わない。それが理解できた。
でも、死ねない。折角母さまの病気を治すきっかけを掴んだのに、こんなところで死ねるはずが無い。

BANG!BANG!BANG!

化け物の杖から出た何かが私の右腕と両足を穿った。


「どうした?ヒューマン、それで終わりか?私を殺して見せろ!500年前のように!100年前のように!この心臓に氷柱を突き立てて見せろ!!」

───勝てない
───死ねない
───ならば選択肢は一つ
───逃げる。

「アイス・ストーム」

もう一度竜巻をぶつけて、その隙に───

「フライ」

空を飛んで逃げれば───

BANG!!

飛翔の準備が整った瞬間、何かが私の胸を穿った。

「…そうか、お前もそうか。私を殺すに値わない、下らない生き物か」

竜巻をものともせず、男が此方に向かって歩いてくる。

「本来なら、犬の餌にしてやるところだが、どう言う訳か出てこないようだ」

男の手のひらが私の頭を掴む

「故に───私が直々に喰らってやる」

その言葉を聴き終えぬうちに────私の意識は途切れた。





「トリスタン───ハルゲニア?」

本来なら食した相手の知識は完全に自分の元となるはずだ。
だが得られたのは要領を得ない断片的な情報のみだった。
先程、使い魔を出せなかったことといい、人1人喰った割りに修復が遅いことといいどうも自分の力は制限されているようだ。


「それにしても…ちゃぁんと理解してるじゃないかギガゾンビ」

彼の首に、首輪は無かった。
何故なら彼は首を爆破したくらいでは死なないから。
その代わり、彼の心の臓腑には爆弾が仕掛けられていた。

「そう、吸血鬼を殺すのには昔から心の臓腑に杭を打ち込むと相場が決まっている」

私の心の臓腑に杭を打ち込むのは誰だ!?
私の心の臓腑に爆弾を埋め込んだギガゾンビか!?
それとも死神ウォルターか!?
それとも銃剣アンデルセンか!?
それともまだ見ぬヒューマンか!?

楽しい…実に楽しくなってきた。
さあ、戦争の時間だ!


【F-3 歩道・1日目 黎明】

【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に裂傷(ただし自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル (残段25)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1殺し合いに乗る。

【タバサ@ゼロの使い魔 死亡】
[残り75人]

備考
※1タバサの支給品の『ルイズの杖@ゼロの使い魔』と『どんな病気にも効く薬@ドラえもん』その他支給品一式がF-3に放置されました。
※2最初にタバサが隠れていた店のガラスは全壊、その他派手な戦闘痕が残っています。
※3かなり派手な戦闘音が響きました。周囲八マスに居る人間に聞こえる可能性があります。