竜咲海/タチコマ/水銀燈



そこに居たのは、龍咲海という女とタチコマという機械だったのだけれど、
2人はお互いの名前を知らなかったし、名乗りもしなかったのだから、
その時は名前なんて、あまり意味が無いものだった。


街中を一人の女が走っている。
長髪で細身の若い女。なんとなく、水とか海とかを連想させる。青い女。
そして、身に着けた青い服にコーディネイトでもしたかのように、顔は血の気が失せて、真っ青だ。
表情は悲壮で、不安に満ち溢れている。
そして、さっきから誰も周りに居ないというのに、何度も後ろを振り返ってばかりいる。
さしずめ、非日常的な恐怖による恐慌状態、といったところだろうか。

彼女にとっては、この異常な環境と目の前で起こった人の死は、その許容範囲を超えたものだったのだろう。
そして、自らの許容範囲をオーバーしたとき、人間の取る行動は大体二つ。
何もしなくなるか、一心不乱に何かをしだすか。
そういう意味では、彼女は一心不乱に、逃げていたのだろう。
見えない恐怖から。迫り来る死から。
得てして、そういう時に人間は、脆くなる。


「ねえ、ねえ、そこのお嬢さ~ん、僕とお茶しな~い?」

突然、何も無かったはずの空間から声がした。
耳障りな高い声。

「えっ?ええっ??何、何なの!!??」
女は突然の事態に取り乱している。
そんなにキョロキョロすると目を回すのではないのだろうか。 

「あれ?おかしいなぁ、女の人の事情聴取するときの必殺技だってパズ君が言ってたのに~!」
対して、声の主は動じない。というか、緊張感がまるで無い。
ここまで図太いと、この声の主も人間かどうか疑いたくなる。
それはこの女にとっても同様だったらしい。

「ど、どこなの?誰なの?何なのよ、答えなさいよッ!!」
「いえ、僕はこう見えても一人の国家公務員なんですよ?あ、見えないんだっけ?
とりあえず、そのまま落ち着いて僕の話を聞いてくれませんかぁ?」

ここまで取り乱している女性に「落ち着け」といったところで逆効果だというのに、どうもこの声の主は精神年齢が低い。
実地経験がまだまだ不足しているようだ。

「嫌、もう嫌、嫌よッ……!」
一方、女は完全に混乱しきっている。これ以上何を言っても聞きはしまい。あと、もう一押しさえあれば……

「も~う、そんなに僕を困らせちゃダメだよ、子猫ちゃん!言うこと聞かないと…
   食 べ ち ゃ う ぞ ~ っ ! 」

「い、イヤ~~~~~~ッ!!!『 蒼い竜巻!! 』」

錯乱した女がそう叫ぶと同時に、声のする方向に竜巻が舞い上がった。
そう、まるで魔法のように。この女も魔法がつかえるというのだろうか?
巻き上がる竜巻。飛び散る水しぶき。
その中から、大きな影がパチパチとその姿を光らせながら現れた。

「わぁ、ナニコレ!?こんな現象データベースに登録されて無いよ!?水かぶって光学迷彩が失効しちゃったぁ~!」

滑り出したのは、青い車。いや、機械でできた蜘蛛、といったほうが相応しいだろうか。
機械蜘蛛は、相変わらずかん高くて不快な声で話し出す。

「もう、パズさんの言うことを聞いてたらロクなことが無いや。当分パズさん入力分のデータ参照は凍結~!
え~っと、で、キミ、ちょっと僕の話を聞いてくれるかなぁ?」

恐怖に魅入られた人間に、姿を隠したままで話しかけるのはいたずらにその恐怖心を煽るだけだ。
だから、姿を現す、というのは結果的には正しい行動だったと言えるだろう。
ただし、それはその姿が普通の姿だった場合の話だ。

「ば、化け物……!もう嫌ァッ!!『 水の龍!! 』」

女がそう叫ぶと、彼女のもとから凄まじい勢いの水流が噴出した。
水流、いや、これは水龍と呼んだ方が相応しい。

「おおっと、危ない!でももうその手は食わないんだもんね~♪」
しかし、機械蜘蛛は予想外に軽いフットワークで巧みに水龍を回避する。

「ふっふ~ん、原理は不明だけど、攻撃パターンは単純だね!でも、そういうことする悪い子は……こうだっ!」
機械蜘蛛が、跳躍した。そして、近くのビルの外壁を蹴り、女の後ろに舞い降りる。信じられない身軽さだ。

がしっ
状況に全く対応できていない女の体を、機械蜘蛛の腕が捕まえる。
「公務執行妨害で逮捕する~~! あれ、でもこの後どうすればいいんだっけ?所轄の警察ってこの辺にあるのかな……??」
「嫌ッ、放して!放してったらぁ!!」
「もう、いい加減僕の話を聞いてったらぁ……」 


残念ながら、これで戦闘は終了のようだ。羽交い絞めにされたあの女に反撃できる余地は残っていない。
そして、機械蜘蛛の方も、自分が勝ったというのに相手に止めを刺そうとしない。
仕方の無い人たちだ。
最初に仮面の男が言ったとおり、これは殺し合いのゲームなのに。
所詮この世は弱肉強食。それが分かっていないなんて、本当に見るに耐えない。
それがあまりにも仕方が無かったから、私は双眼鏡を下ろし、拳銃を構えて、身を隠していた物陰から姿を現した。
そして、体に比べて大きな拳銃の引き金を、ゆっくりと絞り込む。


パン!パン!

「えっ?」

私の撃った弾丸は、一発は狙いから外れて機械蜘蛛の体に当たり、乾いた音を立ててそのボディにめり込んだ。
そして、もう一発は狙い通りに女の頭に命中した。瞬時に飛び散った脳漿が、青い機械蜘蛛を赤く染める。

「ええっ!?……ちょっとキミ、大丈夫!?」
返事代わりに、女の体がビクン、ビクンと痙攣する。
どう考えても即死だと言うのに、まったくこの機械ったらおばかさんなんだから。


「だめよぉ、折角勝ったんだから、きちんと止めをさしてあげないとぉ」


「き……キミ、だれ?」


「私ぃ?私の名前は水銀燈よぉ、おばかさぁん」




【E-5:市街地・1日目 深夜】
【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:ボディに一発被弾
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(配給品数不明)
[思考・状況]1:状況の確認 、把握。
      2:九課のメンバーと合流する。
※タチコマの光学迷彩はエネルギーを大きく消費するため、余り多用できません。
※タチコマの支給品には、食料の代わりに燃料が入っています。


【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM92F(残弾13、マガジン15発×4個)、双眼鏡
[道具]:支給品一式
[思考・状況]1:タチコマと会話をする。
      2:真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
      3: バトルロワイアルの最後の一人になり、願いを叶える。


【龍咲海@レイアース 死亡】
[残り77人]

※海の支給品一式(配給品数不明)は、海の死体の傍に放置されています。