セラス・ヴィクトリア


彼女にとって時刻が深夜なのは僥倖だった。
人ならざる者、二度と太陽の下を歩けない身となった今、夜は活動時間だ。
彼女の名はセラス・ヴィクトリア。永遠の19歳、まだ血の味を知らないドラキュリーナ。
殺し殺されるのが当然の世界に籍を置く身だがまだ人の心は失っていないつもりだ。

疾風と化して山を降る。
セラスは斜面の竹林を降り一路寺を目指す。日の出まで6時間を切っている。日光を避けられる場所は今のうちに確認しなくては。
地図と地形、そしてコンパスを用いて照らし合わせたところ、ここはB-7地区で山の中腹あたりだ。
山を挟んで北東には温泉、南に下ればエリアの境目に寺がある。更に南へ行き線路を進めば市街地だ。
(竹が自生している。ここはアジアなのかしら?)
竹林を抜け開けた場所に出ると寺が見えてきた。今のところ人の気配は無い。
門をくぐり寺内を慎重に抜けるが吸血鬼の身に変化はない。アジアの怪物には寺院で寝起きするモノがいると聞くから吸血鬼でも大丈夫なのだろうか? そんな風に考える。
本堂に入りやっと息をつけた。深呼吸、地図を広げ状況の再確認をする。
あの部屋にはまだジュニアスクールにも上がっていない子供が何人もいた。その中で少女が蟻でも踏み潰すかのように殺害されたのだ。
ギガゾンビへの怒りがこみ上げてきた。その上全員で殺し合えという、冗談じゃない。
「いや、マスターなら大喜びするかも…」
戦闘狂の主を思い出し苦笑した。

「とりあえずマスターたちと合流しないと。何か役立つものは…」
はじめに手にしたのはサファイヤのような緑の宝石が埋め込まれたナックルガード。説明には『エスクード(風):魔法騎士の装備。専用の両手剣もしくは弓矢を収納できる。攻撃力は心の強さに拠る』とあった。とりあえず装着する。
もうひとつの品は“アレ”だった。手に焼ける感覚を覚え思わずデイパックごと放り出してしまう。

『バヨネット×2:ライフルなどの銃口につける刺突用刃物。切れ味はよくないが本品はこの限りでない。なお神聖武器である。』

かつて自分の身体をハリネズミにした気違い神父の獲物だ。急いで名簿を確認すると自分とアーカード、ウォルターと並んであの男の名前もある!
こんなものどこかに捨ててしまえ、そう思ったがすぐに別の考えが浮かぶ。
こうは考えられないだろうか?
自分の手元にバヨネットがあるということはアンデルセンは現在丸腰だ。聖書も持っていない可能性が高い。
無論アンデルセンが他の武器を所有している可能性、アーカードがジャッカルを、ウォルターが鋼鉄糸を持っていない可能性も考慮したが二人と合流できれば対抗できるはずだ。
「やっぱり持っておこう、ウォルターさんの臨時の武器になるかもしれないし」
直接触れないようにメモ用紙を破り包んでバックパックにしまう。
次はどう行動するかだ。

いくつもの考えが浮かんでは消える。戦闘での一瞬の判断とは違う思考。
まずアーカード、ウォルターとの合流は最優先課題だ。吸血鬼の超常能力も太陽が弱点は痛すぎる。
アンデルセンは――遭遇すれば対決は避けられないだろう。
そしてゲームからの脱出。できればギガゾンビを倒したい、それには――
(青いジャック・オー・フロストにギガゾンビの情報を教えてもらう)
セラスはギガゾンビと青いジャック・オー・フロスト(以下青フロスト)との会話は思い出した。
少なくとも過去ギガゾンビを捕縛した者が存在したということ。青フロストに接触すればさらに詳しく分かるかもしれない。
「えーと、今ここの寺だから、ここね」
地図を指差した先にはホテル、レジャービル、駅の三角地帯。3つともそれぞれ約500メートルの距離を置いている。
地区の中心で人が集まりやすく、かつひとつのエリアに固まっていて人探しには絶好の場所だ。しかも太陽光を避けられる。
寺から一番近いホテルまでおおよそ1キロ、山道を考慮しても1、2時間の距離だ。
満月の柔らかい光が照らす中、セラスは寺を後にする。
闇の中を翔けながら携帯食料を少量千切り口にする。相変わらず吐き気を催す味だが無理やり租借し飲み込んだ
「マズ、やっぱり血でなくちゃ駄目なの…?」
吸血への渇望と暴力衝動を抱えドラキュリーナは夜を翔ける。


【C-7 山中・一日目 深夜】

【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】
[状態]: 健康
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]
1:アーカード、ウォルターと合流
2:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る

※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。