古手梨花/アルルゥ


古手梨花がそれを見つけたのは、山を下り始めて三十分ほど経った頃の事だった。
(くすくす・・・随分とまた無用心ね)
進行方向の向かって正面。大木の根元に小柄な影が蹲っているのを確認し、梨花はほくそえむ。
尻尾のような飾りと見たこともない服装だが、おそらくは自分と同年代か少し上程度の少女だろう。
地面に色々な道具――おそらくは支給品だろう――を広げている。
(さて、どうしようかしら。利用するのもいいけど・・・)
そう考えながら少女の様子を見る。
・・・どうやら手に持ったものをいじくるのに夢中で、こちらにはまったく気づいていないようだ。
(やっぱり、殺せるときに殺しておかないとね)
鞄からゆっくりとスタンガンを取り出し、軽く構える。準備は万端だ。
一呼吸の間をおいて、少女に向かい一歩を踏み出す。そして・・・
「・・・!?」
「っ・・・!」
二歩目を踏み出そうとした瞬間、少女がこちらへと振り返った。
その視線に怯えと警戒の色を察知し、軽く歯噛みする。
(気づかれた!?・・・いえ、落ち着きなさい、クールになるのよ梨花。まだ充分に挽回できる状況よ)
さりげなくスタンガンを後ろ手に隠しながら、すぐに強張っていたであろう表情を笑みへと変えた。
「みー、やっとで人を発見したのですよ」
笑顔は元々、獣の行う威嚇という行為だった・・・何処で聞いたのかも解らない雑学を思い出しながら、
長きを生きる魔女は少女を安堵させるべく、巧みに笑顔と言葉を連ねる。
「大丈夫なのです、ボクは怖い事をする気は・・・」
その言葉を遮るように、少女が手にした物体をこちらに投げつける。
孤を描いた小さな“それ”は梨花の体に当たり、そのまま足元へと転がる。
「みー、本当に大丈夫なのですよ?」
「・・・・・・ぅぅ」
梨花は不安げな顔を作り、少女へと一歩歩み寄る。
しかし、返って来たのは微かな声と投擲の第二波、第三波。
こんなに入るのかと思うほどの荷物が飛んできたのだ。
飛来する傘やらペットボトルやらを梨花はなんとか避ける。
(そもそも、傘などはこちらまでの飛距離すら稼がなかったが)

やがて、梨花が『やはりこの娘はここで殺しておこうか』などと考え始めたとき、不意に少女が動きを止めた。
投げられる物が尽きてしまったのだろう。じっと鞄へ視線を送っている。
(ふふ・・・よくも、てこずらせてくれたわね)
後ろ手でスタンガンを握りなおしながら、ゆっくりと少女に近づく。
「怯えなくても大丈夫なのですよ。にぱー」
もちろん、笑顔は絶やさない。邪気の無い笑みを装いながら、少しずつ歩を進める。
その時・・・少女が鞄の中から鋼色の何かを取り出すのが見えた。
(しまった!?)
死の予感に思わず目を瞑ってしまう。雛見沢での日々が脳裏を駆ける。
程なく身体を襲う衝撃に、古手梨花の意識は奪われ・・・


「あれ?」
・・・なかった。目を開くと、少女の姿が忽然と消えている。視線を落とすと、足元に転がるのは黒い鞄。
その場に残されたのは散乱する道具と呆然と佇む梨花。そして草を掻き分ける微かな音のみ。
逃げられた・・・よほど恐ろしい顔をしていたのか、こちらの殺気とやらを読んだのか・・・
(なんにせよ、うかつだったわね)
逃げられたことに微かな不安と怒りが込み上げるが、頭を振ってそれを追い払う。
殺気のような物を読まれたとしても、決定的と言える証拠は無かったはずである。
だから、逃げられてもそんなに問題視することは無い。
それに命の代わりと言ってはなんだが、少女は数多くの物を残していってくれたのだ。
「大漁大漁なのです。にぱー」
雰囲気を打ち消すように呟き、梨花はその場に転がっている物を拾い集め始めた。
パンや水を袋にいれ、支給品であろうタイマーと傘を手に取り・・・傘の異様な重さに気づく。
(くすくす・・・こんな物騒な物まであるのね・・・私には無用の長物だけど)
傘の内部に仕込まれた銃に、思わず自虐的な笑みを浮かべる。
おそらく使いこなせはしないだろうが、それでも何かの役には立つだろうと鞄に突っ込む。
傘はつっかえる事もなくスムーズに鞄の中に消えた。
「・・・・・・・・・」
目の前で起こった異様な事実を軽く無視して、梨花はもう一つの物体へと目を注ぐ。
それは一番最初に投げられた物体。掌に余るくらいの大きさのタイマーらしきものだった。
(時報の機能でもついてるのかしら?まあ、陽動くらいには使えるかもね)
そんな事を考えながら、魔女は自分のツキに笑みを浮かべる。
(6とまではいかないけれど、順調にいい目がでてるわね。私の運も捨てた物じゃ・・・)
と、そこまで考えたとき・・・梨花の手元からポンッという間抜けな音が響いた。











『おっぺけぺ~のぺ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』










後方から聞こえた物凄く大きな声に、森の中を走っていたアルルゥは首をすくめ、その動きを止めた。
恐る恐る後ろを振り向き、何の気配も無いことを確認すると再び山を駆け下り始める。
その手に抱えられている物は鋼色に輝く扇子。
ついさっき、見知らぬ少女から逃げるときに持ち出した、たった一つのもの。
(ちなみにアルルゥが逃げ出した原因は・・・単なる人見知りである)
「おとーさん・・・」
それの持ち主である仮面の青年の姿を思い浮かべながら、少女は麓へと駆け下りてゆく。
・・・アルルゥは全く気づいていなかった。
聞こえてきた奇声が先程、自分に話し掛けてきた少女の声で、
奇声をあげた原因が自分がいじっていた支給品―時限バカ弾にあるという事を。



【C-6山中 1日目 深夜】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:時限バカ弾で混乱、数秒程度で通常復帰
[装備]:スタンガン
[道具]:荷物一式×2、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
[思考・状況]
 1:おっぺけぺ~のぺ~
 2:南下して町へと向かう
 3:ステルスマーダーとしてゲームに乗る
 基本:自分を保護してくれそうな人物(部活メンバー優先)、パーティーを探す
 最終:ゲームに優勝し、願いを叶える



【C-6山中 1日目 深夜】
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの
[道具]:なし
[思考・状況]
 1:ハクオロ等の捜索
 2:ハクオロに鉄扇を渡す
 基本:ゲームには乗らない


※アルルゥの支給品『時限バカ弾』は破裂して失われました
※梨花の奇声はエリア周辺に響いたと思われます

※『時限バカ弾』
  時限タイマーを巻いた状態で対象に貼り付けて使用。
  制限時間が来ると破裂し、貼り付けられた対象がバカな事を叫んだり踊ったりする。
  おそらく、数秒程度で普通の状態に戻ると思われる。