前原圭一/竜宮レナ

「くっそ、なんだってんだよ畜生……夢だろ?これは悪い夢なんだろ!?」
口ではそう言いつつも、あの時あっけなく首が吹っ飛んだ男のことは生々しく記憶に残っていた。
果敢にもゲームでいうラスボスみたいな仮面の男に向かっていって、そして何ができたわけでもなく死んでいった男。自分もよく知っている、男。
「富竹さん……」
前原圭一はそう、口の中で呟いた。
別にそこまで親しかったわけではなかったのかもしれない。でも、それでも知り合いは知り合いだ。
そんな彼が死んでしまった。

まったく無意味な死。

……いや、自分たちに抵抗は不可能だということを知らしめるという目的のためならば、これ以上ないくらいに効果的だとは言える。だがそれだけのために、よりにもよって、彼が。
あともう一人女の子が死んだが、それによって怒り狂った少年の気持ちが嫌でもわかってしまう。

「くそ、くそ、くそぉっ!なんでだよ!?なんでこんなことに……っ」

わめいて、次の瞬間にはっとして口をつぐむ。
そうだ。もうここはあの仮面野郎のいう殺し合いの場なのだ。
油断したら一秒後にはお陀仏ということが十分にありえる世界。
あの場にいた人たちの中で殺し合いに乗りそうな人というのは自分が見たところあまりいそうになかったが、人というものは何がきっかけで豹変してしまうかわからない生き物だ。
普段心優しい人でも、ふとしたことで殺人鬼に変わってしまうことも十分にありえる。
特に、こんな異常な世界では。
そこまで考えた時、圭一はようやく思い至った。
「みんな……」
何故失念していたのか。ここには富竹さんだけじゃない。自分の大切な仲間がいるんだ。
あの場は必死に探したが仲間の存在を確認することはできなかった。
でも富竹さんが死ぬ直前に、たしかに梨花ちゃんの声を聞いた。
多分、他のみんなもここに飛ばされているんだろう。レナ、沙都子、魅音……。

殺されるかもしれない。

「…………っ!!」
思わず叫びたくなる衝動をなんとか必死に堪えて、圭一は厳重に周りを警戒した上でその場に座り込んだ。
そうだ圭一。
(落ち着け、クールになれ。こういうわけのわからない現状においてこそ、クールになることが何よりも求められるんだ。大丈夫、大丈夫だ。俺は冷静だ。ほら、こうやって深呼吸だってできる。)
高鳴る動悸を無理やり無視して深呼吸を一度すると、圭一はあらためて周りを見回した。
正確な位置はあまり把握できないが、とりあえず今わかるのはここが山中だということだ。
深夜ということもあって周りがよく見えない。
しかし自分が今座っているところは真後ろに大木が立っているから、いきなり背後から狙われるといった心配はないだろう。
仮に誰かがこっちに近づいたりすれば、こんな草木が生い茂っている場所だ、すぐに物音がしてそれを自分に伝えてくれる。
そして今は、どれだけ耳を澄ましてもそんな音はしない。
大丈夫。少なくとも今この場においては、安全は確保されている。
そこでようやく、圭一は本当に落ち着きを取り戻せてきた。
そうなると次に自分が取るべき行動は、自分たち参加者とやらに配られた荷物の確認だ。
肩にぶら下げていた小さめのリュックを目の前に置くと、中身を適当に出してみることにした。
(えーっと、コンパスにこれは……ああ、ランタンか。今点けたら俺の居場所を悟られることになるな、やめとこう。おっ、ちゃんと水と飯はあるんだな。よかった自炊はしなくてもよさそうだ……)
料理が大の苦手である圭一にとって、食料の有無は死活問題である。
その点に関しては、最初から食料が用意されてあるのは非常にありがたかった。
(それから名簿か……ああ、やっぱり俺以外にみんなこっちに飛ばされてる……くそっ!それと、時計か。今は一時半か……いつもなら、何も考えずに気楽に寝てる時間帯なんだけどな)
 実際はそんな気楽な時間帯とやらは元の世界においてもあまり経験できなくなるのだが、そのことを今の彼が知る由もない。
(あと鉛筆と紙に、地図、か。う~んこれ見てもやっぱここがどこかよくわかんねえな。ま、いいや置いとこう。そんで最後に……)
「これ……アレだよな」
敢えて今まで見ないふりをしてきたが、最後に残ったこれは圭一にとって非常に見慣れているものだった。
すなわち……レナの愛用品である、鉈。
袋に包まれてはいるが、これは忘れようにも忘れられないくらいのインパクトがある。
レナが雛見沢の大型ゴミ処理場で、圭一にとっては何が嬉しいのかいまいちよくわからないが
彼女にとっては宝物である粗大ゴミを掘り出すために使っていたものだ。
まさか自分の荷物の中にこんなものが入っているとは思わなかった。
(でも、これはラッキーなのかもな。そりゃ銃とかには叶わないかもしれないけど、立派な武器だし。あとは俺が人を殺せるだけの覚悟があるのかってとこが問題だけど……)
正直に言おう。ない。
ただのガキである自分に、そんな簡単に人を殺せるだけの覚悟があってたまるか。
やられそうになったら、躊躇なくやってやるさ。だけどそれ以外は、やっぱり殺したくない。
(そうさ。荷物の確認も終わったし、空が明るくなったらみんなと合流するんだ。そうしたら、きっと……)
 カサッ

「!!」
自分の右手の方で、音がした。
微かだけど、たしかにした。聞き違いなんかじゃない。絶対に、した。
圭一は鉈を包んでいた袋を解いて刃を出すと、水平にして地面に置いた。
そして自分もすぐに、かつ慎重にその場に這いつくばる。
鉈の柄がすぐに手の届く位置にあることを確認する。よし、大丈夫だ。いつでも向かうことができる。
息を殺した。吸うときも、吐く時も、さっきやった深呼吸の時よりもはるかに小さく、ゆっくりと。
(誰だ?俺を*そうとする奴か?それとも一人が心細くて仲間を探してる奴か?落ち着け、クールだ。クールになるんだ圭一。相手が前者なら、その時は一切の迷いを振り切って、この鉈で*してやる。後者なら、隙を見計らって襲い掛かり、身動きできないようにしてから相手が本当に敵意を持っていないかどうかを確かめた上で仲間にするかどうかを決める。完璧だ。)
……圭一がもっと冷静だったならば、そんなタイプ分けが見かけだけで判断できるケースなんてそんなにないということに気づきそうなものだが、やはりこの時の彼は軽く興奮していて、本当に正常な判断を下せる状態になかった。
草木を踏み分ける音が近づいてくる。
どうも向こうも慎重になっているらしく、その音はゆっくりとしたものだった。
でも、近づいてくるにつれて落ち葉や小枝を踏むといった音などははっきりと聞こえるようになった。
とりあえずこれで、プロの殺し屋なんかじゃないということはわかる
(圭一の知識では、殺し屋という人種は足音を消すことなど造作のないことである)。
素人だ。これなら、勝てるかもしれない。
やがて、その音が自分のすぐ側に来た。今だ。
「う、おおおおおおっ!!!!!」
こんなところでこんな大声をあげるのは自殺行為だということは頭の中ではわかっていた。
わかってはいたが、こうでもしなきゃ自分を奮い立たせることなどできなかった。
叫び声と共に鉈を持って立ち上がると、勢いよく目標に向かって飛び掛る!
「っ!?」
そいつは自分の存在に気づいていなかったようだ。びくっと体を震わせたまま動かない。
いける!まずは組み敷いて、身動きとれなくしてから……

すぱぱぱーんっ
目の前に電気が走った。というより、雷が走った。
何が起きたのか、圭一には理解ができない。
あれ?
こっちは鉈を持ってて、相手は素人っぽいからどっちかっていうと無害だと判断して、地面に倒してから鉈をつきつけようとして、でもその直後に雷が走って。
あれ?
スタンガンとかそういった類じゃ、ないよな。

「動くな」
 その時、逆に自分が首筋に何か尖ったものを突きつけられた。
「動くと刺す」
それと同時に、底冷えのするような声が耳元からした。
女性の声だ。いや、女性というよりは女の子の声。いや、ていうか、これは……
「れ……な?」
「………………はぅ?圭一くん?」
さっきの芯から冷たくなるようなどす黒い声から一変して
レナ……竜宮礼奈は、いつも通りのどこか抜けた声に戻ったのだった。
「いやー、びっくりしたぜレナ。まさかこっちが返り討ちに遭うとは。さっきのレナのパンチ、ほんと目の前が光ったぜ。相変わらず容赦ねえなあ」
本来なら笑い事ではないのだが、圭一は気楽に笑ってみせる。
「は、はうぅ。圭一くんがいきなり襲い掛かってきたりなんかしちゃうから、レナ何がなんだかわからなくなっちゃって」
一段落を終え、また元々座っていた場所に戻ると圭一とレナは小声でお互いの再会を喜んでいた。
こんなところでまた出会えるなんて、けっこうすごい確率なのかもしれない。
「あっ!圭一くん、首筋に血が……」
「ん?あー別に気にすんなよこれくらい」
レナに背後に回りこまれた時に突きつけられたものは、いわゆるコンバットナイフだった。
小型だがその分接近戦に長け、首を刺したりすれば確実に致命傷になるだろう。
「ご、ごめんね。ごめんね圭一くん。絆創膏とかはないけど、どうにか……」
「だから大丈夫だって。ほんと、こんな時でも変わらねえなあレナは」
そう言って、圭一は笑う。
レナはそれでも心配そうにしていたが、圭一がレナの頭に手を置いて髪をくしゃくしゃとかき回すと
「はうぅ……」
と呻き、真っ赤になって黙ってしまった。
「じゃあ、レナの方もまだ誰とも会ってないんだよな」
「あ、う、うん。私がここで会ったのは、圭一くんが初めてだよ」
「そ、か」
これは奇跡なんだろうか。
早く合流したいとは思っていたが、まさかこんなに短時間で仲間と出会えるとは。しかも両方無傷だ。
「ね、圭一くん」
「ん?」
レナは愛用の白い帽子を両手でくるくるともてあそびながら、こちらに笑いかけてきた。
「なんだかさ、雛見沢に戻ったような気がするね」
一瞬、ぽかんとした顔になっているのが自分でもわかった。でも、あらためて思い直す。
「……ああ、そうだな」
そういえば、自分たちの住む場所である雛見沢もこんな森が生い茂ったど田舎だった。
たしかにここだけで見ると、まるで自分たちが今でも雛見沢にいるかのような錯覚を覚える。
でもこの世界には数多くの殺人者候補がいて、そして大切な仲間がいる。殺されるのかもしれない。
やっぱり雛見沢とは、違う。
だけど、たしかに仲間はいる。
「ああ、そうさ。気分だけじゃなくて絶対に戻ってみせる」
「え?」
圭一は、自分の心に何か熱いものが宿ってきているのを感じた。
それが具体的に何か、というのは自分でもわからなかったし、知ろうとも思わなかった。
ただ、熱い。
「だってそうだろ、レナ。俺たちがこうして出会えたのは奇跡だ。奇跡なんてものはそう滅多に起きやしない。でも、それでも今、たしかに奇跡は起きたんだ」
「圭一くん?」
 レナは目をぱちくりさせている。だがそれにかまわず、圭一は話を続ける。
「信じろよ、レナ。信じるんだ。俺だけじゃ足りねえ。お前も、魅音も、沙都子のやつも、梨花ちゃんも。もしかしたら俺たち以外の参加者たちもだな。みんなが奇跡が起きると信じて行動して、そして初めてそれは起こるんだ」
何の根拠もないはったりなのかもしれない。
「奇跡って、どんな?」
でも、何の根拠もないはずなのに、確信だけは何故かあった。
「決まってんだろ?」
そう言うと圭一はがしっと力強く、レナの肩を両手で掴んだ。そしてレナの瞳をじっと見つめる。
「俺たちはあいつらとまた出会える。そしてこんなくだらないゲームから脱出して、また雛見沢でいつも通りみんなで楽しくて馬鹿な生活を送れるってことだよ」
「…………」
「な?大丈夫だ。絶対にうまくいく。俺を信じろ……みんなを、信じろ」
しばらく黙っていたレナだが、やがて顔をあげると
「……そう、だね。圭一くんの言うことが正しいのかどうかはレナにはわからないけど、それでも圭一くんがそう言うんだったら信じるよ」
「よっしゃ!」
また、圭一はレナの髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
するとまたもやレナの顔は一瞬にして真っ赤になる。本当に面白い奴だ、と圭一は思う。
「俺たち部活メンバーが揃えば、敵なんていやしない。だろ?」
「うんっ」
二人して笑顔になる。
そうだ。みんなはたしかにこの世界にいる。
急がないと死んでしまうかもしれないが、それでもいるんだ。
脱出の可能性としては、それだけで十分だ。
「見てろよあの仮面野郎。俺たちはどんな惨劇が訪れようとも絶対に屈しねえ。てめえら悪魔どもが喜ぶ脚本がどれだけやって来ようとも、俺たちが全部ブチ壊してやる!」

【A-2森 初日 深夜】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:首筋にかすり傷。支障なし。軽く興奮気味。とりあえず精神は正常。
[装備]:レナの鉈
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出
2:明るくなるまで待機。周りには注意。
3:マーダーと出会ったらレナを守る。殺すことに躊躇はあるがやる時はやる覚悟。
4:仲間になりそうだったら様子を見た上で判断する。
基本:竜宮レナと共に行動。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:無傷。軽く錯乱気味だが圭一との再会でなんとか抑えてる。
[装備]:コンバットナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:魅音、沙都子、梨花との合流、ゲームの脱出
2:明るくなるまで待機。周りには注意。
3:マーダーと出会ったら容赦なし。どちらかというと武器は圭一が持ってる鉈がいい。
4:仲間になりそうだったらとりあえずは圭一の判断に従う。
でも自分の判断でダメだと思ったら即殺す。
基本:前原圭一と共に行動。