あれはもう10年以上前のこと…
とても暑い日でした。
私たちの大切な、結婚式の日。
第○ホテルの神式の式場で、うやうやしく入場。
今となってはまったく覚えていない、段取りの数々…

そして、当然あるのは指輪の交換。
あらかじめ二人で決めた、結婚指輪が、赤い、楕円形の指輪ケースに入って、
二人の前に差し出されました。
先に、私が新妻の指に、つけてあげる。
…ん?スムーズに入った。指が細ったか?
マリッジブルーって言葉もあるし、そんなもんか…

そして、妻が私の薬指に…
…ん?
…んん?
…んんん?

第1関節をも通過しない…

そう。私が、まちがえて、自分の分を妻にしてしまっていたことに、
やっと気がついた!

二人は目を合わせる。

もちろん、妻は困り果てていた。自分が悪いことをしたかのように…

本来なら、私がリードしてなんとかすべきところ。
だが、自分もそんな、余裕がない…

背中の方向からは、なにやら、ガヤガヤした声が聞こえ始めた。
うまくいっていないことが、伝わってしまったらしい。

やっと、神主に、アイコンタクト。
神主は、やはり目線で“すぐにやりなおしなさい!”的な指示。

まず、妻の指の、大きめな指輪がはずされ、
改めて、ぴったりサイズのリングが、
やっとのこと、本来の位置に収まる。
それでも心配そうな妻は、残った指輪を手に取り、
“入るよね、これ”的な顔で、私の指に、入れてみる。

入った!
生まれて初めてこのセレモニーを通過した。

控え室に戻って、早速この話で、二人は盛り上がった。
もう、緊張の糸は、切れていた。


…この後、
新郎は、自分で用意するべき黒い靴下を持ち込むのを忘れ、
黒のタキシードを裸足できこなすという、
どっかの芸能人のようなことまで、やり遂げていた…