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翌日、相変わらず母さんのワンピースを着たままのアルマエルマは、朝の食事を昨日と同じように絶賛してくれ、僕を食後の散歩へと連れ出した。
「うわ、なっつかしいなぁここ」
村を出たところで、ここでスライム娘に襲われたんだなぁと思い出す。
「懐かしい、ね…」
「ここでスライム娘に襲われたんだよ。初めて魔物と戦った時だったんだ!」
自分で言うのもなんだが、母親に対して自分の経験をはしゃいで伝える子供みたいだった。
アルマエルマは笑顔で「そっかそっか」と言ってくれた。
本当に母親のような柔らかい笑顔で。
「この先でアリスと会ったんだよ。空から降ってきてね」
「そうなのぉ、ルカちゃんと魔王様の出会いって案外知らなかったかも」
アルマエルマは「へぇー」という顔で森奥にポツンッとある神秘的な泉に目を向ける。
「ここ綺麗なところねぇ」
何か心が洗われるような光景がそこにはあった。
ノスタルジックというのだろうか、何だかほんわかしていてちょっぴり切ない。
「僕はアリスにバーカ!っていって走って逃げたんだけどね」
「魔王様にそんなこと言えるのはルカちゃんぐらいだわ…」
呆れ顔なアルマエルマ。しかし、次の瞬間にはとても真剣な顔をしていた。
「ねぇ、ルカちゃん一つ聞いていいかしら」
先程までのほんわかした雰囲気とは違っていた。
「な、何かな…?」
もしかして、話をしてくれるのかな。
淡い期待を抱いた。
「もし、あの時、魔王様じゃなくて私がここに落ちてきてたら…同じように私を助けたかしら?」
僕の予想は外れてしまったけど、それでも、こんな質問、当然答えは決まっている。
「当たり前じゃないか。見過ごすなんて僕にはできないよ」
でも、アルマエルマがここに倒れて僕が助けたとしたら、即効食糧になってそうな気がする。
今までの経緯があれば考えられないが、初対面ならかなりありえる。
そうして、僕はちょっと笑ってしまった。
「もぅ、何笑ってるのかしら」
「ううん、なんでもないよ。ただ、アルマエルマがどういう対応をしてくるか気になっただけ」
「ふふっ、食べちゃうかもね」
アルマエルマも同意見だったらしい。
「ルカちゃん、そろそろ私の話、聞いてもらえるかしら」
神秘的な泉の傍に腰掛けたアルマエルマの横に、僕も同じように座った。
「うん、ずっと気になってたんだ」
こういう話をするのに、なんてうってつけの場所なんだろうとか思う。
「私ね、ルカちゃんが寝込んでいた時、少しの間だけ寝顔を見に行った時があったの」
僕が一ヶ月も寝ていた時のことか…。
「偶然かわからないけど、私が行った時にルカちゃんが少しだけ目を覚ましたの」
「全く、覚えてないな…」
「ルカちゃんはおぼろげだったわ。でも、覗き込む私に向かって「お母さん」と呟いてたの」
ぶっ、僕は吹き出してしまった。
アルマエルマにお母さんって呟くって恥ずかしすぎる…!
「その時ね、とっても胸が温かくなって、それと同時に暗い所に光が差し込むっていうのかしら…思い出したの」
その言い草だと、単に忘れていたというわけではなさそうだが…。
「私にはどうして昔がないんだろうって」
「昔が、ない…?」
「思い出そうとしても思い出せなくて、真っ暗。昨日少しだけ思い出せたけど、まだ全然なの」
「何か記憶障害でも起こしているっていうこと…?」
「そう、とも言えるかも知れないわ。それすら、思い出せなくて…」
どこかで聞いたことがある。とても辛いことがあると自分の身を守るためにその記憶を消そうとする働き。
それが今のアルマエルマにあるとするのならば、アルマエルマが思い出そうとしているのは相当、辛いものなのではないか。
「アルマエルマは思い出したいの…?それがとっても、辛いもの、でも」
両親の話といい、サキュバスの村の一件といい、僕にはその思い出が優しくて、懐かしむようなモノには思えない。
「…もちろんよ、その記憶を取り戻さないと、自分が何者か、わからなくなっちゃうじゃない」
アルマエルマは、怖いんだ。
自分が何者か迷っているんだ。
だったら、僕が支えてあげなければいけないだろう。
「うん、僕も協力するよ、思い出すまで頑張ろう」
「ルカちゃん…ルカちゃんは本当に優しくていい子だわ」
素直に、褒められて嬉しかった。
「でも、私には今居場所があるから、きっと、大丈夫」
それは四天王として君臨しているということだろうか。
今の彼女の居場所は四天王だけ。
アルマエルマは「いーこいーこっ」と子供をあやすように僕の頭を撫でてから。
突然、苦悶の表情を浮かべた。
「あ、アルマエルマ!?」
頭を抑えて、痛みに耐えているしぐさを見せる。
「どうしたの、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ…昨日と同じ光景…もう少し、で…」
アルマエルマは口ぶりは、何かの確信を得ようとしているものだった。
しかし、そこで轟音が隣から響いてきて、アルマエルマと僕は同時に振り返った。
そこには、ここにいるはずのないアリスの姿があった。
「アルマエルマ、ルカ、至急魔王城へ来い。ルカは私が連れて行く。アルマエルマも続くように」
「え、あっ、はい…」
まくし立てる様にいわれたアルマエルマはたじたじになり、僕はアリスに抱えられてすぐに飛んでしまった。
「ちょ、アリス!?一体何さ!?大事な話をしてたのにっ!」
「それよりも重要なことだ、いいから来い」
それから何も口にせずさっさと魔王城へ到着してしまった。
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次回
―――「四天王を、やめてもらう」
っ!?
翌日、相変わらず母さんのワンピースを着たままのアルマエルマは、朝の食事を昨日と同じように絶賛してくれ、僕を食後の散歩へと連れ出した。
「うわ、なっつかしいなぁここ」
村を出たところで、ここでスライム娘に襲われたんだなぁと思い出す。
「懐かしい、ね…」
「ここでスライム娘に襲われたんだよ。初めて魔物と戦った時だったんだ!」
自分で言うのもなんだが、母親に対して自分の経験をはしゃいで伝える子供みたいだった。
アルマエルマは笑顔で「そっかそっか」と言ってくれた。
本当に母親のような柔らかい笑顔で。
「この先でアリスと会ったんだよ。空から降ってきてね」
「そうなのぉ、ルカちゃんと魔王様の出会いって案外知らなかったかも」
アルマエルマは「へぇー」という顔で森奥にポツンッとある神秘的な泉に目を向ける。
「ここ綺麗なところねぇ」
何か心が洗われるような光景がそこにはあった。
ノスタルジックというのだろうか、何だかほんわかしていてちょっぴり切ない。
「僕はアリスにバーカ!っていって走って逃げたんだけどね」
「魔王様にそんなこと言えるのはルカちゃんぐらいだわ…」
呆れ顔なアルマエルマ。しかし、次の瞬間にはとても真剣な顔をしていた。
「ねぇ、ルカちゃん一つ聞いていいかしら」
先程までのほんわかした雰囲気とは違っていた。
「な、何かな…?」
もしかして、話をしてくれるのかな。
淡い期待を抱いた。
「もし、あの時、魔王様じゃなくて私がここに落ちてきてたら…同じように私を助けたかしら?」
僕の予想は外れてしまったけど、それでも、こんな質問、当然答えは決まっている。
「当たり前じゃないか。見過ごすなんて僕にはできないよ」
でも、アルマエルマがここに倒れて僕が助けたとしたら、即効食糧になってそうな気がする。
今までの経緯があれば考えられないが、初対面ならかなりありえる。
そうして、僕はちょっと笑ってしまった。
「もぅ、何笑ってるのかしら」
「ううん、なんでもないよ。ただ、アルマエルマがどういう対応をしてくるか気になっただけ」
「ふふっ、食べちゃうかもね」
アルマエルマも同意見だったらしい。
「ルカちゃん、そろそろ私の話、聞いてもらえるかしら」
神秘的な泉の傍に腰掛けたアルマエルマの横に、僕も同じように座った。
「うん、ずっと気になってたんだ」
こういう話をするのに、なんてうってつけの場所なんだろうとか思う。
「私ね、ルカちゃんが寝込んでいた時、少しの間だけ寝顔を見に行った時があったの」
僕が一ヶ月も寝ていた時のことか…。
「偶然かわからないけど、私が行った時にルカちゃんが少しだけ目を覚ましたの」
「全く、覚えてないな…」
「ルカちゃんはおぼろげだったわ。でも、覗き込む私に向かって「お母さん」と呟いてたの」
ぶっ、僕は吹き出してしまった。
アルマエルマにお母さんって呟くって恥ずかしすぎる…!
「その時ね、とっても胸が温かくなって、それと同時に暗い所に光が差し込むっていうのかしら…思い出したの」
その言い草だと、単に忘れていたというわけではなさそうだが…。
「私にはどうして昔がないんだろうって」
「昔が、ない…?」
「思い出そうとしても思い出せなくて、真っ暗。昨日少しだけ思い出せたけど、まだ全然なの」
「何か記憶障害でも起こしているっていうこと…?」
「そう、とも言えるかも知れないわ。それすら、思い出せなくて…」
どこかで聞いたことがある。とても辛いことがあると自分の身を守るためにその記憶を消そうとする働き。
それが今のアルマエルマにあるとするのならば、アルマエルマが思い出そうとしているのは相当、辛いものなのではないか。
「アルマエルマは思い出したいの…?それがとっても、辛いもの、でも」
両親の話といい、サキュバスの村の一件といい、僕にはその思い出が優しくて、懐かしむようなモノには思えない。
「…もちろんよ、その記憶を取り戻さないと、自分が何者か、わからなくなっちゃうじゃない」
アルマエルマは、怖いんだ。
自分が何者か迷っているんだ。
だったら、僕が支えてあげなければいけないだろう。
「うん、僕も協力するよ、思い出すまで頑張ろう」
「ルカちゃん…ルカちゃんは本当に優しくていい子だわ」
素直に、褒められて嬉しかった。
「でも、私には今居場所があるから、きっと、大丈夫」
それは四天王として君臨しているということだろうか。
今の彼女の居場所は四天王だけ。
アルマエルマは「いーこいーこっ」と子供をあやすように僕の頭を撫でてから。
突然、苦悶の表情を浮かべた。
「あ、アルマエルマ!?」
頭を抑えて、痛みに耐えているしぐさを見せる。
「どうしたの、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ…昨日と同じ光景…もう少し、で…」
アルマエルマは口ぶりは、何かの確信を得ようとしているものだった。
しかし、そこで轟音が隣から響いてきて、アルマエルマと僕は同時に振り返った。
そこには、ここにいるはずのないアリスの姿があった。
「アルマエルマ、ルカ、至急魔王城へ来い。ルカは私が連れて行く。アルマエルマも続くように」
「え、あっ、はい…」
まくし立てる様にいわれたアルマエルマはたじたじになり、僕はアリスに抱えられてすぐに飛んでしまった。
「ちょ、アリス!?一体何さ!?大事な話をしてたのにっ!」
「それよりも重要なことだ、いいから来い」
それから何も口にせずさっさと魔王城へ到着してしまった。
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次回
―――「四天王を、やめてもらう」
っ!?