翌朝、僕は朝の用意をしている妖狐の姿をぼぉ~と眺めていた。


気がつくと僕たちはベッドで寝ていて、妖狐は元の小さい姿に戻っていた。

妖狐が言うには、僕と同じように両親と会っていたらしい。

今まで経験してきたこと、話したかったこと、いっぱいいっぱい話ができたと嬉しそうに妖狐は言ってた。


そして、大人の姿になったときの記憶もあるらしくて、妖狐は朝一番で頬を赤色に染めていた。

僕たちは本当の夫婦となっていて、朝のこの時間がなんだかこそばゆい感じだった。


「ルカ、ご飯できるよー」

成長した妖狐の姿がついついフィードバックしてしまう。

妖狐の母に似ていて、とても綺麗だった。

「ルカ?ご飯食べるよ?」

気づくと目の前に簡単の食事が置かれ、エプロン姿の妖狐が座っていた。


「う、うん、何でもないよ…。ただ昨日のことを思い出してただけで…」

すると、妖狐も思い出してしまったのか、少しだけ俯いて。

「幸せに、してよ…?」


と上目遣いで言われたもんだから、僕はドキドキしてしまう。

短い間に、随分妖狐を好きになっていた…。


「ね、ねぇあのさ、僕から大きなワガママを一つ聞いてほしんだ」


口をもぐもぐさせながら、かわいらしく顔を傾げる妖狐。


「妖狐、僕と一緒に旅に出ないか」

ゲホゲホッと咳き込んだ妖狐が困惑の表情を浮かべる。

いや、予想はしてたけどオーバーな…。

「な、なんで…?」

「僕は色々と旅の途中でやり残してきたことがいっぱいあるんだ。それを解決したい」




「でも、ルカが危険な事に巻き込まれるのいやだよ」

当然の答えが返ってきた。

「妖狐、僕はこの世界を平和にしたい、そして、そのあとは君と幸せに生活していきたい、そのためには必要なんだ」

真剣な瞳で訴えると、妖狐は照れつつ、唇を尖らせてそっぽを向いた。

「そ、そこまで言うのなら行ってもいいけど…。」

「本っ当!?」

「で、でも、無理は絶対ダメ!あたし達は夫婦なんだから、フォローしていこ?」

僕は笑顔で頷く。

「妖狐、ありがとう」

正直、断られることも視野に入れていたのに

僕のお嫁さんはしっかりと受け入れてくれた。


すると…。


「話は聞かせてもらったぞ!!」

聞き覚えのある声と共に、玄関が大きく開かれた

というより玄関が破壊される寸前である。

「た、たまも様!?」

ふふん、とない胸を張って。

「何か言ったかルカ?」


「いいえ、何もおっしゃっておりません」


たまもは鋭い。

「ルカ、久しぶりだな」

タイミングばっちりなのが気持ちよかったのか、目がキラキラしている。


「お主のために、連れてきてやったぞ」

そう言うと、たまもの後ろから、よく見知った人物が現れる。


腕を組んで、仁王立ちをして、相変わらずの覇気がある女性。

僕を見捨てたはずの人物。


アリスだった。

「アリス…どうして?」

「ふん、お前がどこかの魔物と乳繰り合っているで、カツを入れるために来てやったのだ」

不機嫌そうにそう言うアリスに、たまもは「全く素直ではないのぉ…」と呆れ顔を見せる。

もしかしたら、たまもはアリスを説得しに行ってきてくれたのかもしれない。

「魔王様のセリフを翻訳すると、もう一度私と旅をしてくれるかの?ということじゃ」

「なっ!ちがっ!」

「ま、魔王様…!?」


アリスの焦りとともに、妖狐は驚きを隠せないのか、一歩後ろに下がってしまった。

「そう怖がるでない妖狐、魔王様はお心が広いからのぉ」

たまもはほくほくとした顔で言う。

「たまもめ…。ルカ、妖狐。二人には私にも幸せになってもらいたい。だが、この世界にはその要素がまだ足りないのだ。ルカと旅をしてそれが痛いほどわかった。

そして、人間の考えもよく理解ができて、私の見方も変わった…」

真剣な瞳を僕達二人へ向ける…が。


「かっこよく言っておるが、ルカが妖狐に取られてからはずっと魔王城にひきこもっておってにぇにゃへぇぇ…いひゃいのじゃ~」


最後の方は頬を引っ張られて若干何を言っているかわからなかったが。

なんとなく伝わった。

「そっか、アリスは僕を完全に見捨てていたわけじゃないんだね」

すると、心配になったの妖狐が腕に絡み付いてくる。

「妖狐大丈夫だよ」

なでなでする。

「お主もお主で、妖狐と進むことに決めたようじゃな」

よろしいと頷く。

たまもはみんなの母親のような感じである。

「ルカはあたしの夫です!誰にも渡しませんから!」

「わかっている。だが、ルカの力が必要なのだ。そしてその力を引き出す要(かなめ)となる妖狐もな」

妖狐は僕の方を見つめて、笑顔をもらした。

それは、自分が必要とされていることへの嬉しさなのであろう。

この里で今までできなかったことでもあった。


「今度は魔王様のお世話役としてウチも同行するのじゃ」

「なんでたまもがついてくるのだっ!!」

今初めて聞かされたのか、魔王はたまもへ喰ってかかる

その言葉通り二人でもみくちゃやっている。



「そうか4人で旅かー。なんだかワクワクしてきたな」

最初は二人で旅をしていただけあって、とても新鮮な気分だった。

「もう身支度はぁ…済んでおるのかのぉ?はぁっ…準備が整ったら、里の外へ集合じゃぁ…」

たまもとアリスの服は若干、ボロボロになっていて、疲れきった顔をしている。

二人はそう伝えるとよろよろと出て行った。





朝食を食べたばかりの僕たちは、まだ支度をしていなかったので済ませることにした。


とはいうものの、先日この里へ来たばかりの僕と、先日里帰りした妖狐に特に準備する荷物もなく。

すぐにこの家を出発することになった。

妖狐の父は言っていた。

「妖狐は本当はこの里が好きなんだ」と。

両親が営んできた唯一の、大事な場所。

妖狐が育ってきた大切な思い出。

それを嫌いになるはずなんて、ないだろう。

だから僕たちは…。

「「いってきます」」

と声を揃えて我が家を出ていくことにした。


またこの家に、無事に帰ってこられるように。


幸せな生活ができますように。


いや、絶対にしてみせると僕は誓う。


今度は負けたりなんかしない。大切な人が隣にいてくれるのだから。


手を繋いで歩いていく先には、二人の仲間もいる。

「仲良しでなによりじゃ、それではよくぞ」

たまもは僕たちの様子を見ると、満足そうに微笑んだ。

「見せ付けてくれるな…嫉妬なんかしてない、してないからな・・・」

アリスがなんか言っている。

後半は小声で僕には聞き取れなかったが、たまもと妖狐の耳はぴくぴくと動いていた。

「魔王様いい加減終止符を打ったほうがよいぞ」


「う、ううるさい!」

たまもの一言にアリスが過剰に反応しているのが見て取れる。

なんだか先行きが怪しい気がするが。

「ルカ、行こっ!」

「あ、あぁ」

妖狐に手を引かれて前を進む二人の元へ走っていく。


この里でおこった、短いはずなのに、僕にはとても長く思えた妖狐の物語。


結末はとても悲しいものだったけど。

僕達の物語はこれから続いていく。

幸せへと繋がる物語。



永遠に続く物語。


「妖狐、君は周りの期待に答えられないと言っていたけど…。

僕にはわかるよ。君は将来とっても立派な狐になるって…」

隣を歩いている妖狐へ語りかけると、彼女はクスッと笑った。

「だとしたら、ルカのおかげに決まっているよ」

視線を僕へ。

「だって…」







----------「ルカさんが傍に、いてくれるから」





もんむす・くえすと 妖狐編  アフターラブストーリー    終わり