他の狐達の協力もあり無事に魔物を倒すことができた僕は、里へ越してきて早くも英雄となってしまった。
帰りはいろんな狐達からお礼と喜びの言葉をいただいた。
そんな幸せムードの中で、僕はすっかり彼女のことを 忘れてしまっていた。
一番忘れてはいけない存在を…。
僕が居候をしている家へと帰ると、明かりは着いていなくて…。
深淵を歩む危うさのような闇が空間を渦巻いていた
妖狐は一体どこへ…?心の中で呟いて、遅れて焦りが生まれる。
ゆっくりと階段を上がっていくと、寝室の扉が開いていて
月明かりがもれていた。
「よう、こ?」
寝室には、窓から零れる光に照らされた妖狐が、窓の外を眺めながら涙を流していた。
その光景は、呼吸を忘れてしまうぐらい美しかった。
そして、彼女を一人にしてしまったことへの後悔が流れ込んでくる。
たまもの言葉が胸に鋭く突き刺さる。
床の軋む音に反応した妖狐はゆっくりと振り向いて、涙で濡れた表情で優しく笑みを零した。
「よかった…帰ってきてくれて…」
妖狐の傍へ寄り、優しく頭を撫でてあげると
その軽い体重を僕へ傾ける。
「ごめんね、一人にしてしまって」
この数日でわかったことは、妖狐は一人が嫌いなこと。
いつも僕のそばへ寄ってきて、一緒に行動してきた。
目先のことに夢中で、僕は彼女のことを考えていなかった。
「戻ってきてくれた、それだけで、いい…」
拗ねたような声で言う妖狐の頭を撫でる。
すると、きつね耳がぴくぴくと気持ちよさそうに動いた。
「また、戻ってこないって、思っちゃったから…怖くて…」
「うん、僕はきちんと戻ってきたから、もう泣かないでいいよ」
僕の腕に顔をうずめた妖狐は落ち着きを取り戻しつつあった。
「またっていうことは、以前にもこんなことがあったのかな?」
だからこそ、僕は聞こうと思った。
彼女の不安の真実を。
「ぉと…」
呟いた言葉は闇へと消えていってしまう。
「おと…?」
僕が聞き返すと、妖狐はまた口を開ける
「お父さんが、そうだったの」
その一言。
「妖狐のお父さんは…」
コクンと頷いた妖狐が、それを物語っていた。
「お父さんは、あたしに
「大丈夫、心配しないで、必ず、戻ってくるから」
って言って、里を襲おうとしていた、魔物を退治しに出て行ったの。
それから戻ってくることはなかった、から」
そう、僕が彼女を心配させないようにかけた言葉は、逆効果となっていた。
「あたしのお父さんは人間の男性だったから、それで…」
そして、僕と妖狐の父にはあまりにも類似点が多すぎてしまっていた。
それが昔の妖狐の記憶を呼ぶ起こすきっかけとなったのかもしれない。
僕を引きとめようと必死にすがりついてくる姿が脳裏によぎる。
妖狐は更に重い口を開いた。
「お母さんはもちろん狐だった。
お父さんに一目ぼれして、無理矢理婿に迎え入れて、それであたしが生まれたの」
では、お母さんは一体どこへ?
そう思っていると、悲しい一言が僕の鼓膜を揺らした。
「お母さんはあたしを産んで、すぐに息を引き取った」
僕は妖狐の、その過去を薄々感じていながらも
驚きを隠せないでいた。
「お母さんはとっても力が強かったんだけど、あたしがお腹の中に宿ると同時に力が弱っていったんだって」
悲しげに笑う妖狐。
僕は胸がチクチクと傷んだ。
聞くのを躊躇ってしまうほど。
それでも、僕は彼女の真実を、知らなければいけないだろう。
「あはは、おかしいよね。 まるであたしがお母さんの全部を奪っちゃったみたいで…」
触れてしまえば崩れてしまう、儚い存在を目の前にして。
「あたしには 何もないのに お母さんが持っている力も 美しさも お父さんみたいな勇敢な心も 強さも
周りの人達が期待するようなモノ、何一つ、持ってないのに…」
自然と抱きしめてしまっていた。
今触れておかなければ、どこかへ行ってしまうような危うさがそこにはあった。
つなぎ止めておきたかった。
彼女のために涙を流をした。
「あたしは、この里の人達が嫌い。あたしに色んな期待をして、親切にしてくれる人達。
でも…その期待に答えられない 自分が 一番嫌い」
僕の耳元でそう囁いた彼女の背中を、僕は優しくさすってあげると
嗚咽を漏らした妖狐が力強く抱きついきて
「お父さんに会いたい…っ!お母さんに会いたいよ…!」
届くはずない者へ、悲痛の叫びを訴える。
そんな姿をみて、僕も新たな決心をする。
「今まで僕は、この世界の勇者になるために戦ってきた」
「でも、もうそれをすることはやめるよ」
妖狐を少しだけ離して、僕は下手に笑いかける。
「僕は君と一緒にいる。君の隣で歩くことを決めたよ」
それが、妖狐の不安を消し去る要(かなめ)となるのであれば…。
そういう思いで瞬きをした時。
僕の腕に妖狐はいなくて、周りは暗闇に包まれていた。
帰りはいろんな狐達からお礼と喜びの言葉をいただいた。
そんな幸せムードの中で、僕はすっかり彼女のことを 忘れてしまっていた。
一番忘れてはいけない存在を…。
僕が居候をしている家へと帰ると、明かりは着いていなくて…。
深淵を歩む危うさのような闇が空間を渦巻いていた
妖狐は一体どこへ…?心の中で呟いて、遅れて焦りが生まれる。
ゆっくりと階段を上がっていくと、寝室の扉が開いていて
月明かりがもれていた。
「よう、こ?」
寝室には、窓から零れる光に照らされた妖狐が、窓の外を眺めながら涙を流していた。
その光景は、呼吸を忘れてしまうぐらい美しかった。
そして、彼女を一人にしてしまったことへの後悔が流れ込んでくる。
たまもの言葉が胸に鋭く突き刺さる。
床の軋む音に反応した妖狐はゆっくりと振り向いて、涙で濡れた表情で優しく笑みを零した。
「よかった…帰ってきてくれて…」
妖狐の傍へ寄り、優しく頭を撫でてあげると
その軽い体重を僕へ傾ける。
「ごめんね、一人にしてしまって」
この数日でわかったことは、妖狐は一人が嫌いなこと。
いつも僕のそばへ寄ってきて、一緒に行動してきた。
目先のことに夢中で、僕は彼女のことを考えていなかった。
「戻ってきてくれた、それだけで、いい…」
拗ねたような声で言う妖狐の頭を撫でる。
すると、きつね耳がぴくぴくと気持ちよさそうに動いた。
「また、戻ってこないって、思っちゃったから…怖くて…」
「うん、僕はきちんと戻ってきたから、もう泣かないでいいよ」
僕の腕に顔をうずめた妖狐は落ち着きを取り戻しつつあった。
「またっていうことは、以前にもこんなことがあったのかな?」
だからこそ、僕は聞こうと思った。
彼女の不安の真実を。
「ぉと…」
呟いた言葉は闇へと消えていってしまう。
「おと…?」
僕が聞き返すと、妖狐はまた口を開ける
「お父さんが、そうだったの」
その一言。
「妖狐のお父さんは…」
コクンと頷いた妖狐が、それを物語っていた。
「お父さんは、あたしに
「大丈夫、心配しないで、必ず、戻ってくるから」
って言って、里を襲おうとしていた、魔物を退治しに出て行ったの。
それから戻ってくることはなかった、から」
そう、僕が彼女を心配させないようにかけた言葉は、逆効果となっていた。
「あたしのお父さんは人間の男性だったから、それで…」
そして、僕と妖狐の父にはあまりにも類似点が多すぎてしまっていた。
それが昔の妖狐の記憶を呼ぶ起こすきっかけとなったのかもしれない。
僕を引きとめようと必死にすがりついてくる姿が脳裏によぎる。
妖狐は更に重い口を開いた。
「お母さんはもちろん狐だった。
お父さんに一目ぼれして、無理矢理婿に迎え入れて、それであたしが生まれたの」
では、お母さんは一体どこへ?
そう思っていると、悲しい一言が僕の鼓膜を揺らした。
「お母さんはあたしを産んで、すぐに息を引き取った」
僕は妖狐の、その過去を薄々感じていながらも
驚きを隠せないでいた。
「お母さんはとっても力が強かったんだけど、あたしがお腹の中に宿ると同時に力が弱っていったんだって」
悲しげに笑う妖狐。
僕は胸がチクチクと傷んだ。
聞くのを躊躇ってしまうほど。
それでも、僕は彼女の真実を、知らなければいけないだろう。
「あはは、おかしいよね。 まるであたしがお母さんの全部を奪っちゃったみたいで…」
触れてしまえば崩れてしまう、儚い存在を目の前にして。
「あたしには 何もないのに お母さんが持っている力も 美しさも お父さんみたいな勇敢な心も 強さも
周りの人達が期待するようなモノ、何一つ、持ってないのに…」
自然と抱きしめてしまっていた。
今触れておかなければ、どこかへ行ってしまうような危うさがそこにはあった。
つなぎ止めておきたかった。
彼女のために涙を流をした。
「あたしは、この里の人達が嫌い。あたしに色んな期待をして、親切にしてくれる人達。
でも…その期待に答えられない 自分が 一番嫌い」
僕の耳元でそう囁いた彼女の背中を、僕は優しくさすってあげると
嗚咽を漏らした妖狐が力強く抱きついきて
「お父さんに会いたい…っ!お母さんに会いたいよ…!」
届くはずない者へ、悲痛の叫びを訴える。
そんな姿をみて、僕も新たな決心をする。
「今まで僕は、この世界の勇者になるために戦ってきた」
「でも、もうそれをすることはやめるよ」
妖狐を少しだけ離して、僕は下手に笑いかける。
「僕は君と一緒にいる。君の隣で歩くことを決めたよ」
それが、妖狐の不安を消し去る要(かなめ)となるのであれば…。
そういう思いで瞬きをした時。
僕の腕に妖狐はいなくて、周りは暗闇に包まれていた。