「ここが、あたし達の里だよっ!」

数日の旅を終えて、やっとこさ、きつねの里に着いた。

僕と妖狐はホッと安堵する。

それは魔物に襲われなくなるという点もある。

妖狐にはそれ以外に僕をきつねの里へ無事、無理矢理連れてくることができた安心も含んでいるのだろうけど。

「うわー、きつねの里って感じだな」

みんな狐耳を生やし、尻尾もフリフリと振りながら歩いたり、子供の狐はみんなと駆け回っていたりと平和な日常がそこにあった。

勇者になる前の僕も、こんな感じで日常に溶け込んでいたはず。

「さて、これからルカの歓迎会を行うよ?」

「か、歓迎会??」

「うん、きつねの里に新たな人間が来るんだから当たり前だよっ!」

「そうじゃそうじゃ」

うんうんと妖狐と僕の隣で頷く、黄色い長い髪の見覚えのある狐・・・。

「た、たまも!?お前どうしてこんなところに・・・」

「妖狐あるところにウチありなのじゃ」

「そ、そうなのか」

「た、たまも様、帰還なさっていたんですね」

「まぁの、大事な弟子が夫を手に入れたと小耳に挟んでの・・・その相手がまさかルカとは」

「僕、まだ夫になったつもりないんだけど」

じと目でたまもを睨み付けるが、たまもはにやにやっと笑顔を見せる。

「ほほぅ、ルカはツンデレなのかの?これは良いことを知ったのじゃ!」


「誰がつ、ツンデレだ!!」

懸命に反抗して見せるが、たまもは余裕の笑みで返す。

「そこで慌てるの方がよっぽど怪しいのじゃ」

三枚も四枚もたまもの方がうわてだった。

これが大人の余裕というやつなのか。

というか大人なのか・・・?

「たまも様、そろそろあたしの家で休息したいのですが」

「そ、そうじゃな。長旅で疲れておるからの」

妖狐は少しだけむっとしてそう言うと、たまもに見えないようにして腕を抓られた。

「っ!?」

「ほら、行くよっ」

妖狐はそそくさと家の方向へ進み始め、たまもも同じ方向へ進み始めた。


「たまもも何か用事があるの?」

「いや、特にないのじゃが・・・。お主、妖狐に何かしたのかえ?」

妖狐が先頭を切って歩く中、僕とたまもは二人で歩いて内緒話を始めていた。

「随分ぞっこんみたいじゃが」

さすがたまもだ。あの無駄話の中で周囲の状況変化に敏感に察知している。

「あぁ、僕もよくわからないんだよね・・・」

しかし変化はあっても、僕には原因がよくわからないでいる。

「それはお主が鈍感な、だけじゃっ」

頭にチョップを喰らった。

すると、先頭を歩いていた妖狐がだんだんスピードを落として、僕達と一緒に並行に歩き始めた。

そして、ぎゅっ!と腕を組みはじめる。

「ふっ・・・」

その光景にそっぽを向いて笑ったたまもは「お邪魔じゃな」と言って去っていってしまう。

「ルカの馬鹿」

「あははっ・・・」

これじゃあ隙も逃げるもできないよ。とほほ。

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妖狐の家に案内されると、意外と普通であった。

実際結構ボロそうな家に住んでいるイメージがあったのものでして、すいません。

その家はまるで、僕の昔住んでいた家のように…。

「さて、少し休憩したら歓迎会へ行こうね」

「う、うん」

本当にこのまま歓迎されてしまっていいのだろうか。

今までの馬鹿話のせいで忘れていたけれど、今更になって不安がざわめいてくる。

歓迎されてしまったら、もう逃げられない、ような・・・。


僕はため息を一つ着く。





居間で休憩中、妖狐から「ほら、もう行くよっ!」と急かされた

「えっ!?もう始まるの?」

歓迎会が行なわれれば、もう逃げられないという不安が、足取りを鈍らせるが…。


「拒否権なし!」

妖狐は満面の笑みを浮かべて僕の手を取って外へと連れ出す。

周りの光景は一変し、桜が咲き乱れていた。

「こ、これは・・・?」

「ここの住人達が魔力を使って桜を満開にさせたんだよっ!、さ、ここへ座って」

そんな美しい光景に、僕は心奪われ、全ての不安が消し飛んでしまっていた。

「・・・綺麗だ」

「えっ?・・・」

妖狐がなぜか頬を朱色に染める。

美しい桜の元には、豪華食事が並んでいた。

「もう、ルカったらっ。さ、早く食べよ?」

住人達も集まり、桜の下で宴が始まった。

ある者は歌い、ある者は踊り。

用意された料理をつまみつつ、酒を飲むものもいて・・・。

「新入りさん。ルカさんって言うのよね?こっちへ来て一緒に踊りましょうよ」

美しい姿をした狐が笑顔で僕に声をかけてくれる。

「いやいや、私と一緒に歌いましょう!」

元気のよい、特徴的な声で僕を誘ってくれる。

「ルカさんはこうして座って和んでる方がいいんですよねー?」

と料理を食べながら言う狐もいて。

「もう、ルカはあたしのなんだけど」

そんな光景を見た妖狐は「ふんっ!」と腕を強く組む。

僕を誘ってくれた三人は「あはは」と笑う。


こんな、楽しい里なんだ・・・。

僕は心動かされてしまう。

里の一員になる僕をみんなは歓迎して、色々な話をしてくれた。みんなとても友好的な狐達。

―――――こんな楽しい所なら、少しだけ、居てもいいかな。


そう思えた。



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