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※二次創作となりますので原作と異なるところが多々ありますが、ご了承ください。
またこの作品は中章時点での二次創作となります


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妖狐に捕まってから数日が立ち、僕と妖狐はきつねの里へと向かう道を進み始めていたのだった。

妖狐は拒否する僕を気にせず、強引に連れて行こうとする。

隙を見て何度も逃げ出そうとするものの、妖狐の高い察知能力により捕まってしまうのがオチであった。

「もー。いい加減に観念してよ。ルカはもう逃げられないんだって」

僕の手をしっかりと握って、ため息をこぼす妖狐。

「で、でも・・・。アリスは、い、一体・・・」

あたふたと言い訳を必死にみつけようとするが、その甲斐無く引っ張られていく。

「あたしがいるのに他の女の話するの?」

むぅー。と唇を尖らせてそう言う妖狐。



「・・・」

なんだろうか、以前とは妖狐の雰囲気が違っているように思える。

雰囲気が変わった?だとしたら、いつから・・・?

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そういえば、先日こんなことがあったんだった。

妖狐が僕を連行する道中、魔物との戦闘の場面である。

今までいくつか魔物と対峙することは確かにあった。

魔物の食料である僕が歩いていれば襲ってくるに決まっている。

僕と妖狐が例え夫婦の契りを結んでいたとしてもおかまいなしらしい。

自分で言っておいて少しだけ情けないが。


妖狐はそれを一人で何度も退けて歩いてきていた。そこらへんの敵なんかは余裕で退けられる能力が妖狐にはあった。

そんな中で疲労が溜まっていた妖狐は幼稚なミスをして足に怪我をしてしまったのである。

囚われの身であるなら誰しもが思うであろう、さっさと逃げてしまえば自由になれるのだと。

…全く僕はなぜ、妖狐を助けるために剣を抜いてしまったのだろうか。


とは言ってみたものの、僕は一人の人間としてそれは正しい行いだと思っている。

後悔はしていないと言えば嘘になるかもしれないが、妖狐を置いて去ってしまうほうが、よっぽど僕の中に罪悪感は渦巻いてしまうはず。


だからこそ妖狐を助けたのだ。

妖狐の怪我と疲労を癒すために、外れたところで暖をとることにして、僕は静かにその場を去ろうとした。


だけど、妖狐は僕の腕を組んだまま、離そうとしなかった。

隣からの静かな寝息に耳を傾けているうちに、翌朝を迎えて、しまっていた・・・。

あれ以来だろうか、些細な変化ではあるものの。

物から一人の人間としてみてくれるようになった。と言えばよいのだろうか。

だからどうということではないけど。

「どうしたの、黙りこんじゃって」

「いや、なんでもない・・・。そろそろ夜もふけてくるだろうからここらへんで野宿でもしよっか」

考え事に集中しすぎたみたいで、妖狐は退屈そうに唇を尖らせている

野宿に相応しい、開けた場所で焚を燃やして暖をとることにする。

倒れていた丸太をイスにして座ると、チョコンと妖狐も隣に座った。


「さっきアリスって言っていたけど、それってルカの旅の仲間?」

そっか、アリスは魔王だから容易に魔物相手に姿を現せないんだっけ。

それにみんな魔王様と呼ぶのでアリスだけでは認知されないらしい。


「うん、そうだよ」

そういえば、僕のことも「あんた」ではなくて「ルカ」と呼ぶようになっていたんだな。とそんなことを思う。

「あたしがルカを捕らえた時も姿は見えないし、ここまで仲間が拉致されているというのに助けに来ないなんて、それはそれでひどい話だけど・・・。」

拉致っている自覚あるのな。

「ルカ、見捨てられたんじゃないの?」

「ぐっ!」

痛いところをついてくるな。

アリスが見捨てる奴かどうかというと、イエスである。

アリスは「勝っていくのなら見守ってといてやるけど、負けたらそこからは知らん」てな感じだから。

「そんな仲間と旅を共にしていて楽しい?」

「楽しくはないだろうけど、アリスは僕何かより世界を知っていた。剣の技術も教えてくれる。だから、信頼していたはず、…なんだけどな」

薄情なものだな。

いらなくなったらスパッと捨てられてしまう、なんて。

魔物はみんなそんな風にあっさりしているのだろか。

「あたしはそんなことしないよ」

静かで、また芯のある声が凜と響いた。

妖狐の顔は近くにある。


「どうして君は・・・」

それから、なんて僕は言うとしたのだろうか。

それでも、妖狐の瞳を見つめ続ける。

「あたしはルカの旅仲間じゃない。あたしは・・・ルカのお嫁さんなんだよ」

瞳を妖艶に潤ませて妖狐は言う。

…そうか、表面上はもう、僕と妖狐は夫婦なのであった。



薄暗く、ぼんやりとした火が照らす妖狐の姿に、僕はドキッとしてしまったのかもしれない。

「き、狐の世界では確かにそうかもしれないけどね、人間の僕にはそんなの通用しませーん」

誤魔化すように、茶化してみると、妖狐はむーと表情を固くする。

「き、狐の世界ではもうあたしとルカは立派な夫婦だよっ!!人間のルールなんか知らないよ!」

と慌て始めた。

まだまだ子供っぽいところがあってホッとしている自分がいた。

こうやって妖狐とくだらないおしゃべりするのも数え切れぬ程。

それにしても、きつねの里はもう少しだと言うし、何かしら隙を見つけて逃げ出すことを考えよう。

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続く

3/6 新しい物語、ドラゴンパピー編、同ブログで始動いたしました!