牢獄の中に入ったとしても、俺は冷静をなんとか保っていた。
常人ならば、心臓が壊れてしまいそうな恐怖心に駆られるこの状況。
幻想郷にいる間培ってきた肝で、なんとか打ち勝った。
「…どうするの?」
隣にいる奇妙な少女に話しかける。
取り乱してしまえば、正常な判断もままならないとその時気付いた。
「さっきまで嫌そうだったのに・・・・・?」
キョトンとした表情でフランドールが聞いてきた。
話せばわかってもらえるのだろうか・・・?
「いや、まぁ・・・色々あるんだよ」
俺は手の平に、三人の顔を思い浮かべる。
「紫が何でここに落としたのか・・・とか」
以前のような、巨大な力によって隙間が不安定になったとか・・・そういうわけじゃない気がする。
何か意味があるような。
「…君は何もかもを壊してしまうのか? それは…俺のような人間も…」
俺はさりげなく質問をした。
それは、生き残ろうとする本能がそうさせたのかもしれない。
「うん、そうだよ」
フランドールはその質問を笑顔で答えた。
その笑顔は、今から死んでしまうかもしれない俺の儚さを笑っているように思えた。
…いや、俺は絶対死なない。
死んでたまるかよ!!
そんな運命のレールができていたとしても。
絶対、俺はレールの上を歩かない!
「…俺はここを出なくちゃいけない」
「どうして?」
「…全然家事してないし、どーせ冷凍食品とか、カップラーメンばっか食ってんだと思う…」
そんな、八雲家の温かい日常を思い浮かべる。
栄養が偏ってしまうじゃないか、だったら、俺が栄養満点の料理を作るしかないだろう。
あの風景に入れるのなら、何でも、頑張れる気がした。
「か、カップ…?」
「俺には…帰るべき場所があるんだ…もう長い時間帰ってないような気がする」
地霊殿 に滞在していたたった一週間程度でも、そのような感覚に襲われてしまう。
「だから…ここから出してくれないか」
「遊んでくれたら…いいよ?」
赤い瞳が不気味に俺を見つめる。
やはり、遊ぶという運命には抗えないのか。
「でも、遊んだ後はみんな動かなくなっちゃうから・・・もう帰れないかもねっ?」
俺は、そんな彼女の笑顔が嘘っぽく思えてきたのだ。
この子は、本当に心から笑えているのだろうか。
「君はずっとここにいるんだよね?」
「うん、もうそんなこといいからさー、早く遊ぼうよ」
笑顔で俺の肩を揺らすフランドールだが、俺の一言で表情が変わってしまった。
「寂しくないの?」
「えっ…」
先ほどの笑顔はどこかに消えて、困惑の表情へと移り変わる。
「寂しいとか・・・そういうのわかんない・・・から」
俺を見つめていた赤い瞳は、暗い闇へと向く。
視線を追うと、そこには白骨化した死体がころがっていた。
自分の目を一瞬疑ったものの、それは紛れもない人だった。
先ほどの恐怖が舞い戻ってきそうになったのを、なんとか抑える。
喉に金属の塊がつっかえているような感覚は、
自分の言葉一つ一つが、運命を変えてしまうという緊張感が生み出したものだ。
「ずっと独りなのか・・・こんな暗い牢獄で・・・」
どうしてだろうか。
今まで会って来た妖怪、人間が、どこか俺と似ていると思ってしまう。
孤独や痛みを知り、心の片隅に置いている。
それは、妖怪であるがためなのかもしれない。
しかし、そのせいで心を病んでいる妖怪も多くいる。
この子も、その一人なのかもしれない・・・。
そう思うと、死を直前にした恐怖は消えてしまった。
ただただ、この子の、本当の笑顔を見てみたいという思いだけが残った。
地霊殿 にいたこいしとは、少し違った方向に寂しさの代償が向いてるだけかもしれない。
そう思ったのだ。
何を根拠に・・・といわれれば、今まで触れてきた妖怪達のイコールだ。
「俺だったら、寂しくて寂しくて、狂ってしまいそうなのにな…。君はすごいな、独りで戦っているなんて」
俺は違った。
孤独を精一杯受け入れていた。
これが自分の人生なのだと。
でも、この子は違う、孤独と精一杯戦ってるんだ、受け入れようとはしていない。
「し、しらない・・・」
俺はフランドールをずっと見て来たわけではないし、フランドールのことは何も知らない。
でも、彼女の、その不安に揺れる瞳を見ていると、助けたいと思ってしまう。
目の前に孤独に苦しんでいる人がいるのならば、救ってやりたいと。
もしかしたら、これは自己満足に過ぎないかもしれないけど・・・。
「だけどな、孤独ってもんは独りでは勝てないんだ。受け入れていた俺が言うんだから、本当さ・・・」
そんな彼女を、俺は以前の自分と重ねていた。
方向性は少し違った、以前の自分。
それがフランドール・スカーレットなのかもしれない。
「だから、わかんないって!!・・・っ!」
そう叫び声をあげるフランドールを俺は優しく、抱きしめた。
それは紛れもなく、衝動的にそうしてあげたかったから。
あれほど恐怖に思っていたフランドールは、俺の胸に収まるほど小さかった。
「「君は孤独の中でよく頑張ったよ。これからは独りで背負うこともしなくていい」」
俺はあの時聞いた言葉を繰り返す。
何度も、寝る前にはその言葉を思い出して涙を流した。
そして、今もこうして俺は涙を流している。
「温かい・・・・・・」
驚いて強張っていた体は、少しずつ俺に身を任せるように力が抜けていった。
「こんなの初めてで・・・どうしたらいいかわかんないよぉ・・・」
フランドールは泣いていた、それは、まるであの時の俺のように。
「「そうか、だったら、思う存分泣くといいよ」」
また、あの時聞いた言葉を繰り返す。
あぁ、遠かった紫の存在は今はとても近くて。
紫から貰った勇気やぬくもりを、分け与えられる日が来るなんて・・・。
フランドールは静かに頷いて、俺の胸で大粒の涙を流した。
常人ならば、心臓が壊れてしまいそうな恐怖心に駆られるこの状況。
幻想郷にいる間培ってきた肝で、なんとか打ち勝った。
「…どうするの?」
隣にいる奇妙な少女に話しかける。
取り乱してしまえば、正常な判断もままならないとその時気付いた。
「さっきまで嫌そうだったのに・・・・・?」
キョトンとした表情でフランドールが聞いてきた。
話せばわかってもらえるのだろうか・・・?
「いや、まぁ・・・色々あるんだよ」
俺は手の平に、三人の顔を思い浮かべる。
「紫が何でここに落としたのか・・・とか」
以前のような、巨大な力によって隙間が不安定になったとか・・・そういうわけじゃない気がする。
何か意味があるような。
「…君は何もかもを壊してしまうのか? それは…俺のような人間も…」
俺はさりげなく質問をした。
それは、生き残ろうとする本能がそうさせたのかもしれない。
「うん、そうだよ」
フランドールはその質問を笑顔で答えた。
その笑顔は、今から死んでしまうかもしれない俺の儚さを笑っているように思えた。
…いや、俺は絶対死なない。
死んでたまるかよ!!
そんな運命のレールができていたとしても。
絶対、俺はレールの上を歩かない!
「…俺はここを出なくちゃいけない」
「どうして?」
「…全然家事してないし、どーせ冷凍食品とか、カップラーメンばっか食ってんだと思う…」
そんな、八雲家の温かい日常を思い浮かべる。
栄養が偏ってしまうじゃないか、だったら、俺が栄養満点の料理を作るしかないだろう。
あの風景に入れるのなら、何でも、頑張れる気がした。
「か、カップ…?」
「俺には…帰るべき場所があるんだ…もう長い時間帰ってないような気がする」
地霊殿 に滞在していたたった一週間程度でも、そのような感覚に襲われてしまう。
「だから…ここから出してくれないか」
「遊んでくれたら…いいよ?」
赤い瞳が不気味に俺を見つめる。
やはり、遊ぶという運命には抗えないのか。
「でも、遊んだ後はみんな動かなくなっちゃうから・・・もう帰れないかもねっ?」
俺は、そんな彼女の笑顔が嘘っぽく思えてきたのだ。
この子は、本当に心から笑えているのだろうか。
「君はずっとここにいるんだよね?」
「うん、もうそんなこといいからさー、早く遊ぼうよ」
笑顔で俺の肩を揺らすフランドールだが、俺の一言で表情が変わってしまった。
「寂しくないの?」
「えっ…」
先ほどの笑顔はどこかに消えて、困惑の表情へと移り変わる。
「寂しいとか・・・そういうのわかんない・・・から」
俺を見つめていた赤い瞳は、暗い闇へと向く。
視線を追うと、そこには白骨化した死体がころがっていた。
自分の目を一瞬疑ったものの、それは紛れもない人だった。
先ほどの恐怖が舞い戻ってきそうになったのを、なんとか抑える。
喉に金属の塊がつっかえているような感覚は、
自分の言葉一つ一つが、運命を変えてしまうという緊張感が生み出したものだ。
「ずっと独りなのか・・・こんな暗い牢獄で・・・」
どうしてだろうか。
今まで会って来た妖怪、人間が、どこか俺と似ていると思ってしまう。
孤独や痛みを知り、心の片隅に置いている。
それは、妖怪であるがためなのかもしれない。
しかし、そのせいで心を病んでいる妖怪も多くいる。
この子も、その一人なのかもしれない・・・。
そう思うと、死を直前にした恐怖は消えてしまった。
ただただ、この子の、本当の笑顔を見てみたいという思いだけが残った。
地霊殿 にいたこいしとは、少し違った方向に寂しさの代償が向いてるだけかもしれない。
そう思ったのだ。
何を根拠に・・・といわれれば、今まで触れてきた妖怪達のイコールだ。
「俺だったら、寂しくて寂しくて、狂ってしまいそうなのにな…。君はすごいな、独りで戦っているなんて」
俺は違った。
孤独を精一杯受け入れていた。
これが自分の人生なのだと。
でも、この子は違う、孤独と精一杯戦ってるんだ、受け入れようとはしていない。
「し、しらない・・・」
俺はフランドールをずっと見て来たわけではないし、フランドールのことは何も知らない。
でも、彼女の、その不安に揺れる瞳を見ていると、助けたいと思ってしまう。
目の前に孤独に苦しんでいる人がいるのならば、救ってやりたいと。
もしかしたら、これは自己満足に過ぎないかもしれないけど・・・。
「だけどな、孤独ってもんは独りでは勝てないんだ。受け入れていた俺が言うんだから、本当さ・・・」
そんな彼女を、俺は以前の自分と重ねていた。
方向性は少し違った、以前の自分。
それがフランドール・スカーレットなのかもしれない。
「だから、わかんないって!!・・・っ!」
そう叫び声をあげるフランドールを俺は優しく、抱きしめた。
それは紛れもなく、衝動的にそうしてあげたかったから。
あれほど恐怖に思っていたフランドールは、俺の胸に収まるほど小さかった。
「「君は孤独の中でよく頑張ったよ。これからは独りで背負うこともしなくていい」」
俺はあの時聞いた言葉を繰り返す。
何度も、寝る前にはその言葉を思い出して涙を流した。
そして、今もこうして俺は涙を流している。
「温かい・・・・・・」
驚いて強張っていた体は、少しずつ俺に身を任せるように力が抜けていった。
「こんなの初めてで・・・どうしたらいいかわかんないよぉ・・・」
フランドールは泣いていた、それは、まるであの時の俺のように。
「「そうか、だったら、思う存分泣くといいよ」」
また、あの時聞いた言葉を繰り返す。
あぁ、遠かった紫の存在は今はとても近くて。
紫から貰った勇気やぬくもりを、分け与えられる日が来るなんて・・・。
フランドールは静かに頷いて、俺の胸で大粒の涙を流した。