今にも倒れてしまいそうな、安堵したと同時に重くのしかかる疲労、それでも椛の後が気になり安静にしている現場へ向かうと、椛は天狗達により看病を受けていた。
その表情は先程よりずっと安いでいる。
椛の看病に加わりたかったが、俺の医療技術はそこまで進んでいない。
この場は天狗に任せることにした。
トボトボと激しい風と雨に打たれながら、守矢神社へ歩み始める。
最後の最後で何も出来ない自分が不甲斐なく思える。
―――――よく頑張ったわね。
脳の奥で、微かに声が聞こえた。
それは俺をここまで確かに導いてくれた人の声。
あぁ、これもパチュリーのおかげだよ。ありがとう…。
――――気にしないで。
守矢神社の縁側へ回ると、早苗 神奈子様 諏訪子様 そして、文の姿はすでになく。
空っぽであった。
「…」
縁側へ重い全身の体重をかけるとともに、意識はどこかへ吹っ飛んでしまいそうになって。
あの時こらえていた感情がどっと押し寄せてきた。
「本当にありがとうパチュリー、君がいなかったら俺は死んでいたかもしれない、挫けていて、もうすでに俺はあの世にいっていたかもしれない…!!」
雨と涙が混じって頬を伝った。
とても怖かった、とても不安だった、それでもパチュリーの声だけに目を向けて進んだ。
もしかしたら椛はすでに死んでいたかもしれない、そうだとしたら全部俺のせいだ。
そんな恐怖がずっと片隅に粘りついていた…。
―――――大丈夫、あなたはやりきったんだから…。
―――――ゆっくり、休んでね…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目を開くと、そこはとても真っ白い空間だった。
病室白さとは違った、寂しさを持った空間。
遠くを見据えても、永遠と続く白。
微かな音さえも大きく反響するようなところだ。
「…ここは…」
「白鳥さん」
声が聞こえて後ろを振り向くと、椛がいた。
その耳、その尻尾、その髪型はまるでこの空間と同化しているようにも思えた。
でも、この椛が本物の椛かどうか、俺にはわからなかった。
こんな場所で倒れた記憶もないし、夢なのかもしれない。
「どうして、白鳥さんは力が必要ないんですか…?」
突然、椛は疑問を俺に投げかけた。
「え…?」
「白鳥さん、言ってましたよね…。力が必要ないって」
「あ、あぁ…。俺には別に要らない」
意外にも体や声はすんなりと動いてくれた。
疲れはほとんど体には残ってない。
「でも、力があれば、私をもっと早く救えたかもしれない、そう思いませんか?」
椛はそう盲点を指差した。
しかし、なぜそんなことを言い出すのか俺にはわからなかった。
「そう…だな」
「もう少し、救出が遅れていたら、私は死んでいたかもしれない…そう思いませんか…」
俺は何も言わず、じっと椛を見つめる。
「力があれば、そういった可能性も低くなるはずです」
俺のイメージとは違った椛がそこにはいた。
俺には、力があれば全て何でもできると言っているようにしか、聞こえない。
「そうだな」
そう相づちを打った。
「でも、俺は人間だ。妖怪でも妖精でもない、力のない純粋な人間」
「そうですね。でも、純粋な人間だからこそ、力を追い求めるものですよね…」
「自分の無気力さに嘆くことは何度もあるよ…でもさ、俺は力を持ってしまったら、本当の自分が見えなくなってしまいそうで怖いんだ」
俺は少し笑った。
「今まで力を持っていなかった者が力を手にした時、その者は自惚れて、壊れてしまうんじゃないか…」
俺はそっと本心を言ってみる、俺はこの力が渦巻く世界でも、力はいらないと思っている。
力だけじゃない別のモノもきっと、この世界にはあると思っているから。
「…てゆうかさ、そんな深く考えなくていいよ。椛、君は助かったんだ。その事実だけ見ていればいいじゃないか。俺のことなんか気にしないでいい」
俺がそう言うと、拍子抜けたように目を丸くして椛は見つめる。
昔の俺だったら、椛と同じように、深く考え込んでいただろう。
この幻想郷で少しずつ、変わっているんだ。
「…不思議な人間」
椛は続けてこうも言った。この世界の人間は力を必要とすると。
それは自分を害する妖怪を退けることに必要であり、他の者へ大きな力を証明するためでもあると。
だから人間はみな力を求めている…と。
そんな人間が営んでいる中で、確かに俺は浮いている存在かもしれない、椛の疑問になっているかもしれない。
「ま、俺は神級の力を授けられようとしてもめんどくさいからパスする」
「ふふっ、何か、深く考えた私が馬鹿みたいじゃないですか、道案内してる時だって、ずっと考えていたんですよ」
「脳みそ使うだけ無駄だ」
「そう…ですね。深く考えすぎですね。なんか…とっても肩の力抜けた気がします」
俺はなぜ、その点について深く考えていたのか不思議で仕方ないんだが。
「はぃはぃ…」
「あの、白鳥さん」
まだ敬語使ってんだよな、椛って。
「…ずっと気になってたんだけどさ、敬語いらないから、使わんでいいよ」
「癖ですから気にしないでください」
また癖で敬語使う人が追加されたな、寅丸星さん第二号である。
これなら仕方ないだろう。
「わかった。」
「白鳥さん、あの…神無さんって呼んでもいいですか?」
「構わないよ」
頑張って微笑んで頷く。
「わかりました」
輝く、優しい笑顔を俺に見せると、空間とともに椛は消えていってしまった。
この空間は、椛の心の中だったのかもしれない。
それに、俺は偶然迷い込んでしまったんだ。
疑問の空間。
面白い物を見せてもらった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目が覚めると、今度は白い空間でもなく、視界に映るのは天井だった。
現実の感触が全身に伝わってくる。
縁側で倒れたはずの俺は、和風の部屋で布団に敷かれて寝ていた。
体を起こして周囲を見渡すと、隣には椛が座っていた。
自然な形でその場に馴染んでいたので、気がつかなかった。
「えっ…椛、もう体は大丈夫なのか?」
昨日はボロボロの傷だらけであったのに、椛は起きた俺を見守っていた。
「はい、頭を強く打ちましたが、異常はないそうです。後はかすり傷程度なので」
ニコッと椛の笑顔で、ようやく本当の安心が芽生えてきた。
「とりあえず、本当によかった」
「はい…本当にありがとうございました」
深く頭を下げた椛。
「いいよそんなの、原因は俺が椛の仕事を増やしてしまったせい、なんだしさ…」
「そ、そんなことないです、私の不注意が原因なんです…」
俺はこれ以上この話をしても譲り合いの堂々巡りだと思って、話の方向性を変えることにした。
俺は気付いていたんだあの時、椛は俺達にこっそりとついてきていた多くの妖怪達を退けるために、森の中へと入っていった。
これも、椛の優しさで俺はその優しさに助けられた。
本当に、俺は色んな人に助けられてばかりだよ…。
「それにさ、俺だけじゃないんだ。文だって、体がボロボロになるぐらい探し回っていたし、俺に協力してくれた人もいたからさ」
俺の手助けをしてくれたパチュリー。
彼女は命恩人でもある、いつかお礼に紅魔館へあいさつにいかなければな。
「はい…」
開いた襖から見える。
幻想郷は昨日の嵐とは違って、快晴だ。
そこに視線を移して、椛はこう呟いた。
「私が、どれだけ愛されているか、気付かされた気がします」
俺はあらゆる人々の優しさに気付き、椛は彼女を助けようと必死になっている人たちの愛を感じた。
なんだかそれが面白く思える。
椛の救出を祝うように、隙間から漏れている日光。
それはとても暖かいモノ。
「嵐の後は…よく晴れるな」
こんな日は、やっぱり外に出かけたいものだな。
布団の中でじっとしていられない。
「なぁ椛…」
今日は一緒に出かけて、走り回って探そうとしてくれた人たちにお礼でも言いに行かないか。
もしかしてもう行ってしまったのかも知れないけどな。
そんなことを言おうとしたけど。
頬に、日光よりもとても温かいものが当たった。
日光とは違う、ぬくもりの温かさだ。
「お、おぃ椛今…」
その温かいものがあたった部分に手を添えて振り向くと、椛はすでに立ち上がっていた。
頬は朱色に染まっている。
「わ、私からのお礼です…。ああ、後で出直します…。神無さん」
椛はそう言い残して、この場を去っていってしまった。
「…神無さん?」
神無さんって・・・あの、夢の話では・・・?
…命の恩人を名前で呼ぶのも、そう不自然ではないか…。
自分に言い聞かせて、布団の中に潜ると、だるさが全身を襲った。
その表情は先程よりずっと安いでいる。
椛の看病に加わりたかったが、俺の医療技術はそこまで進んでいない。
この場は天狗に任せることにした。
トボトボと激しい風と雨に打たれながら、守矢神社へ歩み始める。
最後の最後で何も出来ない自分が不甲斐なく思える。
―――――よく頑張ったわね。
脳の奥で、微かに声が聞こえた。
それは俺をここまで確かに導いてくれた人の声。
あぁ、これもパチュリーのおかげだよ。ありがとう…。
――――気にしないで。
守矢神社の縁側へ回ると、早苗 神奈子様 諏訪子様 そして、文の姿はすでになく。
空っぽであった。
「…」
縁側へ重い全身の体重をかけるとともに、意識はどこかへ吹っ飛んでしまいそうになって。
あの時こらえていた感情がどっと押し寄せてきた。
「本当にありがとうパチュリー、君がいなかったら俺は死んでいたかもしれない、挫けていて、もうすでに俺はあの世にいっていたかもしれない…!!」
雨と涙が混じって頬を伝った。
とても怖かった、とても不安だった、それでもパチュリーの声だけに目を向けて進んだ。
もしかしたら椛はすでに死んでいたかもしれない、そうだとしたら全部俺のせいだ。
そんな恐怖がずっと片隅に粘りついていた…。
―――――大丈夫、あなたはやりきったんだから…。
―――――ゆっくり、休んでね…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目を開くと、そこはとても真っ白い空間だった。
病室白さとは違った、寂しさを持った空間。
遠くを見据えても、永遠と続く白。
微かな音さえも大きく反響するようなところだ。
「…ここは…」
「白鳥さん」
声が聞こえて後ろを振り向くと、椛がいた。
その耳、その尻尾、その髪型はまるでこの空間と同化しているようにも思えた。
でも、この椛が本物の椛かどうか、俺にはわからなかった。
こんな場所で倒れた記憶もないし、夢なのかもしれない。
「どうして、白鳥さんは力が必要ないんですか…?」
突然、椛は疑問を俺に投げかけた。
「え…?」
「白鳥さん、言ってましたよね…。力が必要ないって」
「あ、あぁ…。俺には別に要らない」
意外にも体や声はすんなりと動いてくれた。
疲れはほとんど体には残ってない。
「でも、力があれば、私をもっと早く救えたかもしれない、そう思いませんか?」
椛はそう盲点を指差した。
しかし、なぜそんなことを言い出すのか俺にはわからなかった。
「そう…だな」
「もう少し、救出が遅れていたら、私は死んでいたかもしれない…そう思いませんか…」
俺は何も言わず、じっと椛を見つめる。
「力があれば、そういった可能性も低くなるはずです」
俺のイメージとは違った椛がそこにはいた。
俺には、力があれば全て何でもできると言っているようにしか、聞こえない。
「そうだな」
そう相づちを打った。
「でも、俺は人間だ。妖怪でも妖精でもない、力のない純粋な人間」
「そうですね。でも、純粋な人間だからこそ、力を追い求めるものですよね…」
「自分の無気力さに嘆くことは何度もあるよ…でもさ、俺は力を持ってしまったら、本当の自分が見えなくなってしまいそうで怖いんだ」
俺は少し笑った。
「今まで力を持っていなかった者が力を手にした時、その者は自惚れて、壊れてしまうんじゃないか…」
俺はそっと本心を言ってみる、俺はこの力が渦巻く世界でも、力はいらないと思っている。
力だけじゃない別のモノもきっと、この世界にはあると思っているから。
「…てゆうかさ、そんな深く考えなくていいよ。椛、君は助かったんだ。その事実だけ見ていればいいじゃないか。俺のことなんか気にしないでいい」
俺がそう言うと、拍子抜けたように目を丸くして椛は見つめる。
昔の俺だったら、椛と同じように、深く考え込んでいただろう。
この幻想郷で少しずつ、変わっているんだ。
「…不思議な人間」
椛は続けてこうも言った。この世界の人間は力を必要とすると。
それは自分を害する妖怪を退けることに必要であり、他の者へ大きな力を証明するためでもあると。
だから人間はみな力を求めている…と。
そんな人間が営んでいる中で、確かに俺は浮いている存在かもしれない、椛の疑問になっているかもしれない。
「ま、俺は神級の力を授けられようとしてもめんどくさいからパスする」
「ふふっ、何か、深く考えた私が馬鹿みたいじゃないですか、道案内してる時だって、ずっと考えていたんですよ」
「脳みそ使うだけ無駄だ」
「そう…ですね。深く考えすぎですね。なんか…とっても肩の力抜けた気がします」
俺はなぜ、その点について深く考えていたのか不思議で仕方ないんだが。
「はぃはぃ…」
「あの、白鳥さん」
まだ敬語使ってんだよな、椛って。
「…ずっと気になってたんだけどさ、敬語いらないから、使わんでいいよ」
「癖ですから気にしないでください」
また癖で敬語使う人が追加されたな、寅丸星さん第二号である。
これなら仕方ないだろう。
「わかった。」
「白鳥さん、あの…神無さんって呼んでもいいですか?」
「構わないよ」
頑張って微笑んで頷く。
「わかりました」
輝く、優しい笑顔を俺に見せると、空間とともに椛は消えていってしまった。
この空間は、椛の心の中だったのかもしれない。
それに、俺は偶然迷い込んでしまったんだ。
疑問の空間。
面白い物を見せてもらった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
目が覚めると、今度は白い空間でもなく、視界に映るのは天井だった。
現実の感触が全身に伝わってくる。
縁側で倒れたはずの俺は、和風の部屋で布団に敷かれて寝ていた。
体を起こして周囲を見渡すと、隣には椛が座っていた。
自然な形でその場に馴染んでいたので、気がつかなかった。
「えっ…椛、もう体は大丈夫なのか?」
昨日はボロボロの傷だらけであったのに、椛は起きた俺を見守っていた。
「はい、頭を強く打ちましたが、異常はないそうです。後はかすり傷程度なので」
ニコッと椛の笑顔で、ようやく本当の安心が芽生えてきた。
「とりあえず、本当によかった」
「はい…本当にありがとうございました」
深く頭を下げた椛。
「いいよそんなの、原因は俺が椛の仕事を増やしてしまったせい、なんだしさ…」
「そ、そんなことないです、私の不注意が原因なんです…」
俺はこれ以上この話をしても譲り合いの堂々巡りだと思って、話の方向性を変えることにした。
俺は気付いていたんだあの時、椛は俺達にこっそりとついてきていた多くの妖怪達を退けるために、森の中へと入っていった。
これも、椛の優しさで俺はその優しさに助けられた。
本当に、俺は色んな人に助けられてばかりだよ…。
「それにさ、俺だけじゃないんだ。文だって、体がボロボロになるぐらい探し回っていたし、俺に協力してくれた人もいたからさ」
俺の手助けをしてくれたパチュリー。
彼女は命恩人でもある、いつかお礼に紅魔館へあいさつにいかなければな。
「はい…」
開いた襖から見える。
幻想郷は昨日の嵐とは違って、快晴だ。
そこに視線を移して、椛はこう呟いた。
「私が、どれだけ愛されているか、気付かされた気がします」
俺はあらゆる人々の優しさに気付き、椛は彼女を助けようと必死になっている人たちの愛を感じた。
なんだかそれが面白く思える。
椛の救出を祝うように、隙間から漏れている日光。
それはとても暖かいモノ。
「嵐の後は…よく晴れるな」
こんな日は、やっぱり外に出かけたいものだな。
布団の中でじっとしていられない。
「なぁ椛…」
今日は一緒に出かけて、走り回って探そうとしてくれた人たちにお礼でも言いに行かないか。
もしかしてもう行ってしまったのかも知れないけどな。
そんなことを言おうとしたけど。
頬に、日光よりもとても温かいものが当たった。
日光とは違う、ぬくもりの温かさだ。
「お、おぃ椛今…」
その温かいものがあたった部分に手を添えて振り向くと、椛はすでに立ち上がっていた。
頬は朱色に染まっている。
「わ、私からのお礼です…。ああ、後で出直します…。神無さん」
椛はそう言い残して、この場を去っていってしまった。
「…神無さん?」
神無さんって・・・あの、夢の話では・・・?
…命の恩人を名前で呼ぶのも、そう不自然ではないか…。
自分に言い聞かせて、布団の中に潜ると、だるさが全身を襲った。