パチュリーから貰ったイメージを元に魔法の森を出ると、日差しが強く目を射る。

そして、足元には紫色の何かが倒れていた。

「…っパチュリー!?」

すぐに駆け寄って名前を呼ぶものの、パチュリーから反応がなかった。

「これやばいくないか!?」

驚きで言語バランスが崩壊している。

木陰にパチュリーを寝かせて、持っていたバッグから飲料水を取り出して、パチュリーの口へ運ぶ、と。

「んん…」

すぐに口の感触から目を開けた。

「あれ…私どうしたんだっけ」

ぼげ~とした顔でパチュリーが言う。

「そこんとこで倒れてたけど」

日差しが直に当たっている、舗道されていないガタガタ道を指差す。

「そうなの?あんまり覚えないけど……」

ぼんやりする頭をなんとか起こして、パチュリーは立ち上がった。

「介抱してもらっちゃって、悪かったわね…ありがとう」

「その体で大丈夫なのか?」

「うぅ…ん…」

「大丈夫そうじゃないぞ…」

何か大事な用事なんだろうか…?

「魔理沙に貸した本が返ってこないの…だから、行かなきゃいけないの」

魔理沙はいつも通り、人に迷惑をかけるのが好きだなぁ…。

「俺は別に飛べるわけじゃないけど…。負ぶってやろうか…?」

「へっ?」

驚いてから、頬を赤色に染める。

「恥ずかしいから拒否したいところだけど……」

もじもじと下を向く。

なんとなく、こういう反応はわかっていたけれど、ほっとくわけにもいかない。

パチュリーの足取りは不安定である。

「また倒れたりしたら・・・みんなに迷惑かけちゃうし・・・ぉ、ぉ願いしても…いいかしら」

「あぁ、大丈夫」

紫が宴会かなんかで、隙間をどこかへやっちゃっているのが気になるのだが…。

とりあえず、前回の経験からして、夜までには隙間を回復させてくれるだろう。

その夜が一番怖いのだけど。

今はパチュリーを魔理沙の家まで連れていくことに専念するとしよう。

かがんでやると、パチュリーは乗ってきた。

「ごめんな、恥ずかしい思いさせて…俺にはこぐらいしかできないからさ」

「ぅぅん…別に…いいわよ…」

耳元で小さな声が聞こえた。

「それじゃ、魔理沙の家まで案内よろしく」

「ぅん、イメージを送るわ」

すると、魔法の森のイメージがまた流れ込んできた。

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数分して、魔理沙の家へ着いた。

「おっ、パチュリーじゃねーか、珍しいな」

ドアをノックすると、意外にあっさりと魔理沙は出てきた。

「魔理沙ぁ…。とっとと本を返しなさいよね」

負ぶらているパチュリーはそう行って、俺の背中から降りた。

「あぁ~!!忘れてた。今持ってくる」

魔理沙は家の中へ消えていってしまったけど、俺は嫌な予感しかしなかった。

「なぁ、その本てどれぐらいあるの?」

「五十越えてるわ」

「…それを持って帰るのは厳しくないか」

絶対、往復しなければならない。

紅魔館からここは遠いし、俺の脚力もある…。

「むきゅぅぅ…そうねぇ…」

「先に気付いておけばよかった…」

ポーと、今頃気付いてしまった現実に打ちひしがれていると、大量の本を持った魔理沙が出てきた。

「ほらよ」

どっと置かれた本の山。

「魔理沙に移動とか頼めないの?」

「それもいい案かもしれないけど…紅魔館へ送ってもらったら、また本を盗まれちゃいそう…」

そ、そうだね。

「おいっ、盗んでいるわけじゃないぞ、借りているんだぞ!!」

人差し指をピンと立たせた片手を突き出して、魔理沙はそう言い切ったものの…。

この量を借りるとは言うのだろうか。

「こりゃあ…無理そうだな…」

また日にちを空けた方がいいのではないか・・・。

お手上げ状態な感じの中、一人の救世主が現れた。

「あら、パチュリーに白鳥じゃない。どうしたのこんなところで」

「おぉ、アリス。いい時に来てくれた」

今までの過程をアリスに話すと、アリスは腕を組み、頷いた。

「そうね、本は上海人形に任せるとしましょう。パチュリーは私が運んでいくわ」

「頼むよ…俺一人じゃへばっちゃうし」

本五十冊+パチュリーオンブ+ここから紅魔館への距離。

筋肉痛は免れないし、時間が足りないだろう。

「もう…男なんだからしっかりしなさいよ」

ベチンと背中を叩かれた。

「あたっ」

「へなちょこなんだから…」

「それに対してはなんとも言えない…」

運動は昔からロクにしてなかった。


なのに、体力はまぁまぁあるという・・・。

不思議なもんだ。

でも、魔法使える奴と使えない奴に男、女関係ないと思うのだが。

「ふふっ」

パチュリーが口を押さえて笑った。

「なんか、夫婦の会話みたいね」

「なっ!?」

アリスの顔が急に真っ赤に膨れ上がり、パチュリーに顔を突き出す。

「そそそそそそんなことないわよ!?私はこのヘナチョコを鍛えてあげようかなーとか思ったりしただけよ」

ブンブンとパチュリーを上下左右に揺らしている。

魔理沙の前ってこともあるんだろうけど、大慌てである。

この子、アレだからね…。

「は、吐きそう…」

とりあえずアリスをなだめた。

パチュリーが紅魔館へ着く前にお陀仏しちゃいそうだ。

「アリス、冗談にマジになるなって」

「あんたも少しは恥ずかしがりなさいよ…」

じと目のあきれ顔でアリスは言った。

「それじゃあ、パチュリー、行くわよ」

「うん、ありがとう」

アリスはパチュリーを背中に乗せて、五十冊程ある本は、人形が持っていった。


「魔理沙、お前のせいで俺が振り回されてんだからな」

「あたし何かしたか…?」

「自覚ないのが、またタチ悪いな全く…」

いや、魔理沙は絶対理解しているはずだ。

俺のことを裏切りやがって…。

「はぁ…あんまり人に迷惑かけんなよ…それじゃ…」

軽く手を振って、魔理沙の家を後にしようとすると。

「神無、ちょっと忘れていたものがあったの」

アリスとともに、パチュリーが上空から帰ってきた。

人形はもう運びに行ってしまったらしい。

目の前に着地すると、パチュリーが一枚の紙切れを渡した。

「これ、渡しておくわ」

「えっ、それって…」

「ん?何これ」

文字が色々と書いてある紙…というよりお札。

「今日色々とお世話になったでしょう。そのお礼として受け取ってね…ハァ…」

あぁ、なんかお礼とお札って似てるなと一瞬、くだらない思考が浮かんだ。

「これ、どう使うの?」

「それは私から説明させたもらうわ。パチュリーはもう死にそうなので」

しゃべるだけでもう息遣いの荒いパチュリーであった。

アリスが揺さぶったからだな…。

「その札は、他人と交信する時に使うものなの、交信したい相手の顔を思い浮かべると、交信ができるわ」

「ほほぅ、これは便利なものだ」

現代で言う携帯電話のようなものかな。

これは良いものを貰った。

「でも、その札を持っていると言ったら…パチュリーぐらいだから」

「えっ、そうなの?」

「同じ札を持っている者同士じゃないと交信はできないわ、だから、パチュリー限定ね」

へぇ…他の妖怪とかと交信できると思ったけど…。

「でも、どうしてパチュリーしか持ってないの?」

「それは、パチュリーが作ったお札だからよ」

「あ~、なるほど」

「以前、交信系の魔法書を読んでいたみたいだったから…」


「まぁ、試作品みたいなものじゃない?あなたは人間だから、危険な時にでも使ってちょうだい」

「おぉ…いつもいつもありがとうな、パチュリー!!マジで感謝する」

これから、妖怪に襲われるといった場面が増えてくると思うから、とても助かる。


「それじゃ、またね」

「わかった。じゃあな」

二人の背中が見えなくなるまで見送って、俺は魔法の森を出るため、そして、妖怪の山へ向かうために歩み始める。


その頃二人。

アリスはパチュリーが送ってくれたイメージのセリフを元にしてしゃべっていたのだが。

不思議に思うことが多々あった。

「パチュリー?どういうことよ」

「…見てればわかるわよ」