妖怪の山からだいぶ歩いた魔法の森。

朱鷺子は霖之助と仲良くしたい…と言っていた。

それが恋愛感情なのかはわからないが…。

霖之助は人間と妖怪のハーフらしく、人間の色のほうが強く出ているため。

俺に相談を持ちかけた…。ということになっている。

「霖之助さんと仲良くしたい…とねぇ」

本当に友人としてなのか、異性としてなのか…。

定かではない限り、良いアドバイスなどあげられないのだが…。

「な、何よ…」

「ただの友人として仲良くしたいの?」

霖之助が好きなのか?と、直球を投げることもできず、遠まわしに聞くことにした。

「え、えぇ…そ、そうよ。友人として」

言葉を少し詰まらせた。

言葉なんてものはただの飾りだ。本当の心はいくらでも偽れる。

俺は、朱鷺子が霖之助を異性として意識していると予想する。

「そうか…。霖之助と仲良くしたいなら、霖之助の長話をよく聞くことが大切じゃないかなぁ」

「長話?」

「そう、一度しか会ったことがないから、あまり確信して言えることじゃないんだけどさ」

香霖堂で会った霖之助の雰囲気とか、喋り方とか、そういうもので人の性格というものは大体わかってしまう。

後は、魔理沙の忠告とかも…。

逆に、それが怖いものでもある。

「霖之助さんはどんな話をするの?」

霖之助と会った時、長話に当たらない程度に一言二言交わしただけで、霖之助の長話がどういうものか知らない。

「とても興味深いことを言うわ、そして、とてもタメになることもね」

「そうか…。それは、本からの引用?」

「それもあるけど、霖之助さんは、自分で考えたことを話すの」


「なるほど…。自分で導き出した理論を口で語る…か」

「そんな感じ」

「じゃあ、尚更、長話に付き合ったほうがいいね。朱鷺子が飽きもせずにずっと耳を傾けていられるか…だな」

「どうしてそう思うの?」

「霖之助さんは独自の理論を語るんだったら、その理論を批判する人が必要になってくるはずだ」

「理論を、批判する?」

「そう、議論をするんだ」

議題と提案、それに反対か賛成か。

とても懐かしいものだ。

「それが、仲良くする秘訣?」

「でも、これは俺独自の理論だ。朱鷺子の視点から見たものも、多くあるはずだろう」

朱鷺子は驚いて、俺を見た。

「なるほど…そういうことね」

「なななな…もう、全くわからないよ」

置いてけぼりをくらっているミスティアが両手を上下に振りながら呟く。

「神無と霖之助さんって似ているかも」

「俺は霖之助さんみたいに固くはないさ」

「もぉ~、二人共、教えてよ」

俺達の間に入って、あたふたと暴れだすミスティア。

「簡単に言えば、人にはそれぞれの理論が存在するってことだ」

「人には、それぞれの理論?」

「例えば、俺は人間でミスティアは妖怪。君は歌声で人を惑わせることができる。君にとってはそれが自然だろうけど、俺にとっては奇妙なものでしかない」

「うん、そうだね」

「その力が本当に必要なのかどうか、人間の観点、妖怪の観点から話し合うってことさ」

「朱鷺子ちゃんが妖怪で、霖之助さんが人間のハーフだから?」

「それは例えの話としてね、霖之助さんは独自の理論を持っているそうだが、それは霖之助さんの視点でしかない。もしかしたら、その理論は間違っているかもしれない」

朱鷺子は俺の話を納得したのか、腕を組み頷いている。

「文学系の人にとっては、議論は知識の共有となるんだ。霖之助さんもそういう人がそばにいないか探しているんじゃないかな?」

一通り話を終える。

魔理沙の口ぶりからして、そんな議論についていける人なんていないはず…。

だとしたら…!

「ま、朱鷺子しだいだがな」

「神無、ありがとう。あなたの話はとてもわかりやすいわね」

「霖之助さんはもっと難しい話をするかもな。なんかわからないことあったら言ってくれよ。」

一応、高校一年生ぐらいの学問の知識ならある、はず。

「えぇ、神無ありがとう!なんかやる気出てきたわ。じゃあ、行って来るね」

ミスティアを置いて、朱鷺子は手を振って去っていった。

「あ、朱鷺子ちゃん…」

「今から二人の空間ができるから…邪魔しないほうがいいかもね」

朱鷺子が消えてから、ミスティアに対する恐怖心がじわじわと沸いてきてしまった。

「白鳥さん?」

「あっ…なんでもない。俺、紅魔館へ行かなきゃいけないから」

「紅魔館?ここからだとすごく遠いよ?」

「うっ…まじでか」

この前、パチュリーに貰った森の地図のイメージはまだ、脳に記憶しているが・・・。

相当、時間かかりそうだから・・・。

「じゃあ、もう家に帰ろうかな」

紫に教えてもらった隙間を探るものの、隙間を見つけることはできなかった。

「白鳥さん?なんで空気を掴もうとしているの?」

傍から見ればそうだろうけど…。


おかしいなぁ、紫は俺のすぐ横に隙間をつけておくと言っていたのに。

宴会で酔っ払っているからか…?

いや、まだ朝だぞ、朝っぱらから酔っ払うなんて。

ありえる。

「どーしよ、夜になったらまたミスティアに襲われる…」

焦りを紛らわせるため、そんな冗談を言ってみた。

「だ、大丈夫だって!私はもう襲わないから!」

「はは…」

冗談で恐怖心を隠して、俺は魔法の森をとりあえず出ようとする。

「じゃあな、ミスティア」

「あっ、待って」

ミスティアはそう言って横に並んだ。

「あの…白鳥さん、前のことは本当にごめんね」

「あ、あぁ」

「怖がるのも無理ないけど…ね」

悲しくミスティアがそう呟いた。

「恐怖心は抜けないけど、いい奴そうってことはわかったから、これから少しずつ消えていくよ。後、さんは付けないでいいよ」

「そうかな…じゃあ、白鳥…」

「おぅ…じゃ、妖怪の山へ戻るわ」

今更また、椛が出てくれるとも限らないんだけど、さ。

「あ、あのね?」

もじもじと何かを言いたそうにしているミスティア。

「ん?」

「・・・神無って呼んでもいいかな?」

なんだ・・・。


「・・・そんなことか、全然大丈夫」

下手な笑みを浮かべて頷いて見せた。

「うん、わかった・・・神無、また」

小さく手を振って、ミスティアは香霖堂の方へ戻っていった。