イメージ通りに足を進めると、とても早く魔法の森を抜けられた。

これもパチュリーのおかげなので、とても感謝している。

パチュリーはパチュリーで家に帰れたのかな?

まぁ、大丈夫だろう。

アリスの誤解も解いたことだし、これで俺の身は安全になった。



日が照っている青空を見上げると、遠くに耳を生やした人物と、派手な衣装をした人物が飛んでいた。

「おっ、あれはナズーリンじゃないか、ナズーリンの主人もいる」

どうやら、こっちに向かってきているみたいだ。

手を振ると、二人も同じように手を振った。

「俺になんか用事でもあるのか?」




しばらくすると、二人は目の前で着地した。

「良かった。君がまた来てくれて」

「ってことは、やっぱり用事があるのか」

なんか、人に頼まれるって結構嬉しいかもしれない。

「お久しぶりです。白鳥さん」

「久しぶり、寅丸」

「先日はナズーリンを助けていただいて、ありがとうございます」

「大切な友人を助けるのは当然だから、あんまり気にしないでいいさ。それと、敬語じゃなくてもいいよ?」

「無駄だよ白鳥、主人は普通にしゃべっていても敬語だからね」

「そ、そうなのか。じゃあ仕方ないな」

そうやって育ってきたんだったら、何も言わないほうがいい。

「その、えっと…」

寅丸がもじもじとし始めた。

言いづらい用件…なのか。

「わかった、私が用件を言うよ」

「あ、ありがとうございます」

どう見ても、寅丸が従者にしか見えない…。

この二人、本当に主人と従者の関係なんだろうか?

「昨日、主人の宝塔を探していたのだが、落としてしまった場所というのが…人間の里なのだよ」

「人間の里ねぇ?もしかして、妖怪が近づけないとか?」

俺に頼むのだから、そういった類ではあるだろう。

「おしぃね。妖怪は普通に入れるんだ。だが・・・人間が大好きな妖怪が住んでいて、部外者をあまり入れたくないって妖怪なんだよ」

「あぁ……部外者の妖怪は凶暴か、穏やかであるかなんて、判断つかないからな」

「そこでですね。ナズーリンと一緒に、人間の里へ、宝塔を探しに行って来てくれませんか?白鳥さん!」

ナズーリンの力を借りてやっと言葉を発した寅丸。

「あぁ、そんなのお安い御用さ」

何の疑問を持たずに笑って、頷く。

人間の俺がいれば、何とか手助けになれるはずだ。

これが、少しでも罪滅ぼしになれば…ってね。

「あ、ありがとう!!助かるよ」

「すいません、私が抜けているばかりに、迷惑かけてしまって」

喜ぶナズーリンと、深く頭を下げる寅丸。

毎度姿勢が低い妖怪さんだな。

「お安い御用って言ったろ?どーせこの後何もないから、とりあえず、人間の里まで案内してくれないか」

「ん?君は人間の里に住んでいるんじゃないのか?」

「ま、まぁ…色々とあるんだよ」

八雲家のことはややこしいので誤魔化しておいた。

でも、ナズーリンが人間の里に入るなんて…。

人間嫌いなナズーリンと 勝手な思考でナズーリンを嫌っている人間。

対立してしまわないように、きちんと見ておかないと。

「人間の里へ入ったら、さっさと済ませて帰ろう。あんまり、ナズーリンにとって居心地の良い場所ではないだろう…」

「寅丸はどうするの?」

「私はこの後、仕事がありますので…」

泣きそうな顔をして青空を眺める寅丸はそう言って。

頭を下げて青空へ消えていった。

「仕事と言うけど、説教を喰らいにいくのさ」

「ははは、大変だなぁ…」

説教か…寅丸の上にも上司がいるのかな?

でも、妹紅に受けた説教は、とても温かいものだった気がする。


「それじゃ、付いて来て」

ナズーリンは俺の手を握って、一緒に空を飛んだ。

「えぇ!?なんで、飛んでるんだ俺!?」

下は見ちゃいけない、下は見ちゃいけない…。

「だめもとでやってみたが・・・やっぱり、白鳥にはとても強い力が宿っているんだ…」

ナズーリンが何かを言ったのだが、吹いてくる風によって、消えてしまった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


人間の里、と言われるところに着いた。

「ほぉ~」

人間に化けている妖怪とか、人間っぽい妖怪とか、もう色々見て来たから、本物の人間かどうか怪しいのだが・・・。

まぁ、名前が名前だけに、きっと人間なのだろう。

「ナズーリン入るぞ」

「あ、あぁ…」

怖がっているのか、耳と尻尾が少しだけ垂れ下がっている。


痛いほど、その気持ちが伝わってくる。

「大丈夫、さぁ、とっとと済ませよう」

「わかった」

ロッドを立てて、宝塔を探しながら進む。


人間がすれ違うたびに、ナズーリンの悪口を言ってるように思えた。

通り過ぎれば、口を開けてしゃべり始めるなんて。

とても、感じが悪い。


人間である俺が 一番近付いてはならないのは  妖怪ではなくて  幻想郷の 人間なのかもしれない。

そう言った思考が、ナズーリンを見ていて浮かび上がってきた。

人間という種族を追放された先祖も感じていたことだろうか・・・。

「白鳥、前から歩いてくる人が、宝塔を持っている…」

ナズーリンがそう弱々しく耳打ちをした。

もしかしたら、以前ナズーリンを縛った人間という可能性もあるんだ。


目を凝らして、前を歩いてくる人間を見てみると


それは、妹紅であった。

「も、妹紅!」

軽く手を振ると、あちらも振りかえしてくれた。

「ほらよ」

次に、妹紅が何かを投げた。


落とさないように慎重に受け取り、両手の中身は・・・

宝塔であった。

「ど、どうして…?」

「昨日、白鳥が話した奴をあぶりだしたら、そいつがそれを持っていたんだ」

昨日、妹紅と交わした会話を思い出す。

「そ、そうか…ありがとうな、妹紅」

「あ…の、藤原…私からも言われてもらう。あぅ、あ、ありがとう」

妹紅に対して、慌ててかみがならも、お礼を言うナズーリン。

「おぅ、大切な友人の頼みだからな」

その一言がとても温かいものに思えた。

「はは、さんきゅ」

ハイタッチをして、妹紅は去っていった。

そのまま、ナズーリンはボーとその場面を眺めていた。

「ナズーリン、そろそろ出よう」


「あ、あぁ…そうだね」


…ナズーリンを縛った人間が、宝塔を持っている。

とても不思議な感情だった。

「宝塔っていうのは、持っていて何かあるのか?」

「宝塔は、とても強い力を秘めた道具なんだよ」

それを毎回落としてしまう寅丸も、寅丸だが…。

宝塔を狙って、ナズーリンを縛ったってところだろうか?でも、ナズーリンは昨日、宝塔を探していたわけだし…。




どっちにしろ、自分の考えだけで動いている人間だ、とても好意的にはなれない。


「人間は、大切な友人のためなら、何でもできるんだな」

考えに巡らせている頭が、ナズーリンの言葉によって停止した。

「そうだな。大切な友人ってことは、信用も、できるから…。なんでも頼めるんだよ。でも人間だけじゃない、ナズーリンもきっとそれができる」

「そ、そうか…。じゃあ、私にとっても、白鳥は大切な友人だな」

「それは、ありがたいなっ」

微笑むと、ナズーリンも微笑んでくれた。

「じゃあ、私はそろそろ行くよ」

「あ、そうだ。確かチーズがあったんだ」

がさこそと持ってきたバッグをあさり、非常食のチーズを取る。



「チーズ?」

ネズミの好物であるから丁度いいと思ったのだが、聞き返し方からして、チーズを知らないみたい。

幻想郷の技術が進歩していないのなら、当然…か。

「あぁ、これ、食べてみるといいよ」

ナズーリンはチーズを受け取って、ずっと見つめている。

「じゃ、俺も帰る」

紫から教えてもらった隙間を探すと、すぐに見つかった。

「じゃね、今日はありがとう」

すぐに闇へ体を埋めると、光はなくなっていった。

「あ、あぁ…ありがとう・・・って、君は一体何処に住んで…」

チーズに向けていた視線を戻すと、そこにいるはずの神無はすでに消えていた。

「…白鳥?…帰ったのかな」

不思議に思いながらも

そのまま、ナズーリンも帰宅をした。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

帰ると相変わらずの日常が、そこにはあった。

畳で寝ていた紫の横に座る。

ちなみに眠ってはいない。

「なぁ、紫、聞きたいことがあるんだけど」



「ん?何でも聞きなさい」


「この、幻想郷の人間っていうのは、妖怪に対して…とても否定的じゃないか?どうしてなんだ…?」

「ふふっ、それは良い質問ね」

すると、紫は横になっていた体を起き上がらせた。


「この世界で、人間って言うのは妖怪を退治する位置にいたの。そして、妖怪は人間を食べる位置にいた」

「…そうなのか」

「昔は、妖怪に食べられることが当たり前のことだったから、危機感というものが、自然に形に出ているかもしれない」

「そ…か」

「でも、妖怪にもそれぞれだし、人間にもそれぞれよ」

「うん」

「神無が見て来た人達が、少し否定的だっただけよ」

そう。

妹紅だって人間じゃないか。

人間の里には、人間が大好きな妖怪がいると言ってた。

人、それぞれだ。

妖怪もそれぞれだ。

でも…。

「紫、俺は…」

「ん?」

「俺は、今…人間よりずっと、妖怪の方が身近に思えるんだ。妖怪の方が、俺は好きなのかも…」

現実に住んでいた俺だからこそ、人間の闇というものが、良く理解できているような…気がするんだ。

そしてこの感覚は、先祖から受け継いだものかもしれない。



「そう…だったら、それでいいんじゃない?」

「そう、思うかな?」

「だって、神無の家には、妖怪しかいないのよ?それでもいいと思うわよ」

「ははっ、そうだね」

そっか。

確かにそうだ!

俺の家族は、妖怪だった。

「八雲家のせいで、妖怪好きになっちゃたのかもな」

「そこはせい、じゃなくておかげでって言ってね」

「はーい、じゃ、夕食の準備してくる」


「えぇ、お願い」

「あ、神無おかえりっ!」「神無、おかえりなさい」


「ただいまっ」