翌朝、俺は早速、幻想郷へ行きたいと紫に頼んだ。

「わかったわ、じゃ、準備でもしてきなさいよ」

紫はいつも、嫌な顔一つせず隙間を開けてくれる。

「紫、チーズあったけど、あれって何かに使うの?」

「ん、安かったから買ったきただけよ。食べてもいいわ」

「そうか、じゃあもって行こうかな」

昨日、もっていった昼食は結局八雲家で食べたし、基本少食だから今日はいいかな・・・。

でも、チーズは持っていくか。

後はバッグに飲料水やらを詰めた。

「じゃ、準備OKね?」

「うん、朝食は冷蔵庫の中入ってるから、勝手に食べていいよ」

「いつもありがとうね」

「気にしないでくれ」



「じゃ、アリスの家に落とすわね」

「うん・・・って、マジですか!?昨日、かなり爆弾詰めてきちゃったんですけど、いつ爆発するかわからないんですけど・・」

「見てたわよ。じゃ、頑張ってね」

口に手を添えて「うふふっ」と笑った。

楽しんでいるように見える、相当毎日退屈なんだろう。

「誤解を解くのも一つの手かな・・・」

出会ったら速攻殺されそうで怖いけど…。

目を擦って起きてきた橙が、茶の間へ入ってきた。

「あ、神無、おでかけ?」

「うん、橙、いい子にしてろよ」

「大丈夫!」

「じゃ」

「「いってらっしゃい」」

そして、幻想郷に落ちた。


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すぐ目の前には、古き良き時代の家ではなく、現代の家…と言ったような建物が建っていた。

この幻想郷ではとても珍しく思えた。

「ここが、アリスの家ね…」

すぐ先には、昨日見たジメジメとした森があった。

今日も快晴なのに湿っている。

ここの森は本当に迷いやすくて困る。


「近付きたくないけど…仕方ないか」

コンコンとドアをノックする。

しばらくしても、アリスは出てこなかった。

「ん…?いないのかな」

ドアノブを回すと、ドアが開いてしまった。

「…し、失礼しまーす」

おそるおそる家の中へ入ると、アリスの声が聞こえてきた。

「魔理沙!!あのなんぱ男が恋人ってどういうことよ!!」

魔理沙ってことは、魔理沙もアリスの家にいるのか。

何か修羅場っぽいなぁ…。

「し、しかたないだろ、白鳥が恋人になりたいって何度もしつこく…」


魔理沙…!!何吹き込んでんだ…!!

あいつ今度会ったら倒す。

「やっぱりそうなのね。あのナンパ男…今度あったら容赦しないわ」

「ってことなんだぜ、だから、この縄外してくれないか」

し、縛られてたんだ…。

「いや、魔理沙も魔理沙よ!!恋人になるのを許可するなんて…どうして男を恋人にするのよ!?」

「アリス、異性を恋人にするのは自然だぞ」

それについては同意。

「まぁ、いいわ、とりあえず、魔理沙に男が寄り付かないように、この大量のナメクジを…」

「おおおい!?そのナメクジをどうするんだ?まさか…」

「そのまさかよ」

奇妙な音が聞こえてすぐに、魔理沙の叫び声がアリスの家に響いた。

多分、大量のナメクジを被ったんだろうな。

「これは出直すか」

そっとアリスの家を出ていくために、ドアを開けると…。

「あなたは、昨日の魔理沙の恋人…」

全身紫に身を包んでいる…えーっと、パチュリーさんが現れた。

「君は、パチュリーさんですか」

「その通り、私はパチュリー・ノーレッジよ」

大きく胸を張った。

そして、「いやいや」と首を振る

「そんなことはどうでもいいのよ。魔理沙の恋人っていうのは本当なの?」

「誤解だ。魔理沙が勝手に作った嘘だよ」

「魔理沙ならやりかねないかな…あなたのこと、信じてもいいのよね」

「人を裏切る魔理沙よりはずっと、信じてもいいと思うが…」

「そう、わかった」とパチュリーは納得してくれた。

…ん、意外にわかってくれる人じゃないか。

「会った瞬間ボコボコにされるかと思ったんだけど…」

ボコボコ以前に、アリスなんか俺のことを人形にしようとしていたよ!

「ふふ、そんなことしないわよ。魔理沙には色々と盗まれていたりするから」

…盗人なのか魔理沙。

だから、信用できないってのは納得するなぁ。

「アリスから伝言があって、家に魔理沙を連れて来てるから早く来いって言われたのよ。私の本を借りたまま返さないから」

「借りパクか…」

魔理沙の信用を軽く失った。

「あなた、家から出てきたみたいだけど、魔理沙、いる?」

「あぁ、今拷問受けてる、こっそり入って見てたんだ」

「そう、あなたも入っていいわよ、アリスもわかってくれると思うわ」


「そ、そうか、それはよかった」

・・パチュリーはまともな方かもしれない、昨日の魔理沙が言っていた「香霖堂に行くと二人が怒る」というのも何かの勘違いだろう。

まぁ、アリスの方は勘違いでもなんでもないかもしれないけどな・・・。

ホッと胸を撫で下ろして、家のドアを開けた。

「お邪魔するわよ、アリス」「失礼します」

二つの足音が、魔理沙のナメクジまみれを目撃する。

「あら、いらっしゃ…」

アリスが笑顔でパチュリーを迎えて、そのまま固まった。

「どうも…」

「ぱ、パチュリー、なんでそのなんぱ男いるのよ!?」

すぐにパチュリーの肩を掴んで、上下左右に揺らしまくるアリス。

パチュリーの顔色が徐々に青くなっていく。

「この人が誤解だって、言ってきたのよ」

激しく揺れながら、何とか言葉を繋ぐ。

「それを信じたの?だって、何も知らないなんぱげす男なのよ?」

プラスげすが入って、ひどい扱いだよ。


「…普通の人間であるならば、盗人よりは信じられるわ」

パチュリーはイスに座ってそう言った。

正論すぎた。

「アリス、君の誤解を解いておきたい。めんどくさいからな」

パチュリーの隣に座る。

アリスの隣に座ったらマジで怖い。

「わかったわよ…話してみて」

ハァ・・・と溜息をついて、アリスは向かい側に座った。

「はっきり言おう。俺は魔理沙の恋人でもなんでもない。あいつが作った嘘だ」

「…でも、なんでそんな嘘ついたのかしら」

大方、予想はつく。

「…俺が恋人だってわかれば、君達の集中砲火がこっちへ向くと思ったんだろう。今の状態からして墓穴を掘っただけだがな」


ナメクジで気絶中の魔理沙君。

本心を言うと、「ざまぁみろ」って感じ。

「それに、俺が恋人じゃないってわかれば、アリスには好都合だろう」

「な、なによ…」

顔をそむけて、少し顔を赤らめた。

うん、やっぱりそうなんだね君。

「パチュリーはいいのか?」

「えぇ、私も痛めつけにきたけど、もう十分ね。さっさと本を返して欲しいものだわ」

痛めつけることはできたけど、盗んだものは返ってこないのである。

「はは…」