橙と俺が食べられそうになった出来事から一週間程経っただろうか。
それから、幻想郷の地に足を運ぶことはなく、八雲家とほのぼのとした日常を繰り返していた。
あの出来事により、幻想郷に対して抵抗を持ってしまったのかもしれないといえば、確かにそうである。
紫と藍はそんな俺に優しく接してくれた。
例えば、紫が気を利かせて、新しい服を買ってきてくれたり、幻想郷では珍しいとかいう、チーズを買ってきたり等。
決して幻想郷へいってくれば?などとは言わなかった、それは二人なりの気遣いなのかもしれない。
「新しい服欲しかったんだ…!!ありがとうな、紫」
買ってきてくれた服を広げると、軽い服装のものと
なぜか、横にはチーズが転がっている。
「いつまでも制服じゃ、堅苦しいでしょ?喜んでもらえたならなにより」
このさい、服のセンスとかはどうでもよく、ゆっくりできる服であるのならばなんでもよい。
紫は「疲れたー」と言って、畳に座った。
「紫」
「ん?」
今頃思いついた疑問をぶつけてみようと思った。
「幻想郷の技術ってのは、どこまで進歩しているの?」
「あぁ~そうね、現実世界にいたから、不便に思うことも多いでしょ」
妖怪の山を降りようとした時、不便だとは思ったけど、それぐらいかな?
「そうかもな」
「全然発展なんかしてない、テレビなんか、うちぐらいだわ」
「そ、そうなのか…」
テレビがない時代の日本。
それなら、モノレールがないのも頷けるなぁ…。
「まぁ、みんな飛べるから…技術なんてものなくても、こっちの住人は不便してないかも」
「紫、どこへでもいけるもんね」
便利過ぎて、運動不足にでもなりそうだな。
「神無があっちの技術を伝授してあげればいいじゃない」
「俺かぁ……生物のことかかな」
「神無、そっち系の勉強でもしてたの?」
「独学にすぎないけど、生物系は得意だな」
「ふーん、頭良いのね。」
興味なさげに、頬杖をつきながら紫は呟いた。
数学は藍には負けてしまうけどね。
「でもまぁ、教える気も、ないがな」
教えたとして、何が便利になるわけでもない。
「ねぇ、幻想郷へ行った時、霖之助って男の話、聞かなかった?」
「いーや、ほとんど自己紹介ばかりだったからね」
初対面の人に名前言って「これからよろしく」
そう言った会話が多かった。
妹紅とは、少し違った出会いをしてしまったけど、本当にいい人だった。
「霖之助さんはね、現実世界の道具を多く扱っているから、もしかしたら、面白いものが見つかるかもしれないわね」
「へぇ~、って、前回みたいに急に落とすのはやめてくれよ!?準備なんてものしてなかったから、大変だったんだぞ」
「わかったわよ、もうあんなことはしないって~」
手をひらひらさせて紫が言う。
その軽さからして、とても信用などできないのだが…。
「まぁ、明日あたり準備して行ってみるよ。久々の幻想郷だな」
両手を上げて背伸びをする。
「また、危険なことに巻き込まれないようにね」
「だと思うのなら、変なとこ飛ばさないでくれよ?」
「それはどうかしら」
「ふふっ」と悪戯っぽく笑う。
「はぁ…」
何言っても仕方ないな。
でも、前回みたいなことは、もう勘弁してほしいなぁ…。