紫が昼寝を始めてしまった頃。
「うーん、この山を足で降りるのか…」
洩矢神社を降りて、天狗の集落の先に、獣道のような山を下る道がある。
一目見た瞬間、無理だとわかった。
「橙も…降りれる自信ないよぉ…」
しゅーんと耳と尻尾を垂らして橙は言った。
空を飛べるというのに、足で山を下りるという選択肢を選ばせてしまう自分を悲しく思った。
「そうだよな、何か良い手を探すかな」
腕を組んで青空を眺める。
…うん、何も思いつかない。
今日はここまでにして、明日紫に再度飛ばしてもらうとかできないのかな…?
と、ある提案が思いついた
まぁ、かなりのだめもとだが…。
「モノレールか何かないの?」
「モノレールって何?おいしそうな名前~」
…だめすぎた。
この世界の技術はどこまで進んでいるんだ?
神社が賑わっているし、和室や縁側がある家しか見たことないな。
古き良き時代の日本なのか…?
いや、八雲家にはテレビがあったんだが…。
紫が現実世界に行った時に持ってきたとか、そういった類だろうか。
「あの、何かお困りのようですね」
すると、後ろから女性の声が聞こえて振り向くと、黒い羽根を生やした人物が立っていた。
「あ、文さん」
「橙さん、お久しぶりです。 どうかしましたか?」
「はい、山から降りられなくなっちゃいまして…」
「そう、なんですか?飛べば良いでは…あぁ、なるほど」
疑問の色は、ジロリと俺を見た瞬間に納得の色へと変化した。
「いい記事の匂いがしますねぇ」
「…な、何?」
なんだろ、さっきより居心地が悪いなぁ…。
「あなたは人間、飛べなくて降りれないんですね!?」
そんな二人の不幸を嬉しそうに読み上げる文とかいう人。
何がそんなに面白いんだ?
「あぁ、当たりだけど」
俺から目を離さない…。
どうやら、俺を観察しているようだ。
記事とか言ってる辺りから、記者か何かだと推測できる。
記事のネタでもかぎつけたんだろうねぇ…。
それにしても、この羽の色、頭巾、底の一部分が長くなっている一本下駄というもの。
鼻が長くなっていない部分が気になるが、現実世界でいう「烏天狗」といわれる妖怪だろう。
確か、日本三大悪妖怪の一人には「大天狗」というものが存在したはず。
その子分達ってことだろうか?
「橙、まぁ頑張って降りよう、歩いていれば何か案が見つかるかもしれない」
何か嫌な予感を感じたのと、あまりにジロジロ見られているため、この場から離れようとする。
一歩踏み出した瞬間、後ろに居た文という人物は、すでに目の前に立っていた。
は、早っ!?
「おっと、ここから先を足で歩くなんて、迷子にでもなったりしたらどうするんですか?」
「…山だから下へ降りてれば、着くんじゃないのか…」
何か言葉を返してくるに決まってるよな、だって記者だもの。
「帰ってこれなくなるかも、しれませんよぉ?」
ニヤリと笑った。
「…何かいい提案でもあるのか?その表情からして、自分に有利な事しか言いそうにないな」
「頭は冴えていますね。その通り、私には提案があります」
頭は冴えていますってなんだよ・・・。
人差し指を立てて、説明を始める。
「えーと…人間さんの名前は何て言うんですか?
「白鳥、神無…」
あ、なんとなくだけど自己紹介ができた。
「はい、白鳥さんと橙さんはまず私の手を握ってください、そうすれば一瞬で下まで降ろしてあげましょう」
妖怪にでもなれば、一瞬で下へ行くのもたやすいのか。
便利ものだなぁ。
「その変わり…」
「一体何が来るんだ…」
つい身構えてしまう。
あなたの魂を頂戴しますとか言われたらしゃれにならん。
というか、山を下りる意味すらなくなる。
「あなたの事を記事にさせてください。それで手を打ちませんか?」
ちょっと拍子抜けしてしまった。
もっと命に関わるようなことを申し出てくるのかと思った。
「…誤解するようなことを書くんじゃないぞ」
しかし、だからといって安心ってわけでもない。
身に覚えの無いことを書かれても困るのだ。
「ふふっ、了解しました」
含みのある笑いを見せてくれた文。
「おぃ、なんだその笑み」
仕方ない。
これが最善な策なんだ。そういいきかせて、おそるおそる文の手を握り、もう片方は橙と握る。
「!…あなた、人間ですよね?」
俺が文の手を取って数秒して、奇妙な視線を向けられた。
「そうだけど?ん、なんだ?」
「あっ、いえ、じゃあ行きますよ」
頭を二度三度と横に振って何かを紛らわした。
一体何があるといぅ…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
一瞬の事に頭がくらんで、風の影響で乾ききった眼球を開けると、そこの風景は一変していた。
「着いた、のか?」
後ろを振り向くと、高くそびえる妖怪の山。
あの頂上に数秒前まで俺達はいた、というのか。
新幹線も戦闘機ですら驚きである。
「これは、君の能力なのか?」
見えたといえば、背景が一瞬のうちに後ろへ下がっていった光景だ。
これは本当に飛んだのか?ワープでもしたような感じしかしないのだ。
文を掴んでいた手を見つめる。
「あ、橙!、無事か?」
自分の身の回りでおきたことに集中しすぎていて、橙のことはうっかり零れ落ちていた。
つないでいた手は絶対離していないはずだ、だから橙は…。
「ふぇえぇ…」
「良かった、無事だね」
左右にゆらゆら揺れており、目もまだ回っているみたいだった。
…頭はクラクラしているようだが、なんとか大丈夫らしい。
「では、交渉の続きをしましょう」
「え、何かするの?」
「はい、写真を撮らせていただきまーす!それでは、はい、ピース」
「えっ…」
激しいフラッシュの音がピースもまだしていない俺に襲い掛かる。
はいピースといって、写真を連射する人を初めて見た。
いや、間違えた、妖怪だった。
妖怪なら仕方ないか。
「ありがとうございました、後、これあげます。なんか飛んでいる途中に拾ったんですけど、何もないですし」
不思議な形をした…変なものを貰った。
何ものにも例えにくいその物体。
頑張って例えるとするなら…。
幼児のおもちゃみたいな。
本当に何なんだこれ。
「…誤解すること書くなよ!?マ・ジ・で」
おもちゃに意識していても、しっかりと文に念を押しておいた。
「わかっていますよ!それでは、さらばです」
文は、激しい風を撒き散らし後、いなくなってしまった。
「…いい人なんだか、悪い人なんだか、びみょーな感じだなぁ」
ごみを押し付けられた感満載なんだけど、何この後味…。
「あっ、橙?大丈夫かい?」
そろそろ視界がはっきりしたようで、よろけながらも頑張って立っていた。
「だ、大丈夫れすぅ…」
「うーん、この山を足で降りるのか…」
洩矢神社を降りて、天狗の集落の先に、獣道のような山を下る道がある。
一目見た瞬間、無理だとわかった。
「橙も…降りれる自信ないよぉ…」
しゅーんと耳と尻尾を垂らして橙は言った。
空を飛べるというのに、足で山を下りるという選択肢を選ばせてしまう自分を悲しく思った。
「そうだよな、何か良い手を探すかな」
腕を組んで青空を眺める。
…うん、何も思いつかない。
今日はここまでにして、明日紫に再度飛ばしてもらうとかできないのかな…?
と、ある提案が思いついた
まぁ、かなりのだめもとだが…。
「モノレールか何かないの?」
「モノレールって何?おいしそうな名前~」
…だめすぎた。
この世界の技術はどこまで進んでいるんだ?
神社が賑わっているし、和室や縁側がある家しか見たことないな。
古き良き時代の日本なのか…?
いや、八雲家にはテレビがあったんだが…。
紫が現実世界に行った時に持ってきたとか、そういった類だろうか。
「あの、何かお困りのようですね」
すると、後ろから女性の声が聞こえて振り向くと、黒い羽根を生やした人物が立っていた。
「あ、文さん」
「橙さん、お久しぶりです。 どうかしましたか?」
「はい、山から降りられなくなっちゃいまして…」
「そう、なんですか?飛べば良いでは…あぁ、なるほど」
疑問の色は、ジロリと俺を見た瞬間に納得の色へと変化した。
「いい記事の匂いがしますねぇ」
「…な、何?」
なんだろ、さっきより居心地が悪いなぁ…。
「あなたは人間、飛べなくて降りれないんですね!?」
そんな二人の不幸を嬉しそうに読み上げる文とかいう人。
何がそんなに面白いんだ?
「あぁ、当たりだけど」
俺から目を離さない…。
どうやら、俺を観察しているようだ。
記事とか言ってる辺りから、記者か何かだと推測できる。
記事のネタでもかぎつけたんだろうねぇ…。
それにしても、この羽の色、頭巾、底の一部分が長くなっている一本下駄というもの。
鼻が長くなっていない部分が気になるが、現実世界でいう「烏天狗」といわれる妖怪だろう。
確か、日本三大悪妖怪の一人には「大天狗」というものが存在したはず。
その子分達ってことだろうか?
「橙、まぁ頑張って降りよう、歩いていれば何か案が見つかるかもしれない」
何か嫌な予感を感じたのと、あまりにジロジロ見られているため、この場から離れようとする。
一歩踏み出した瞬間、後ろに居た文という人物は、すでに目の前に立っていた。
は、早っ!?
「おっと、ここから先を足で歩くなんて、迷子にでもなったりしたらどうするんですか?」
「…山だから下へ降りてれば、着くんじゃないのか…」
何か言葉を返してくるに決まってるよな、だって記者だもの。
「帰ってこれなくなるかも、しれませんよぉ?」
ニヤリと笑った。
「…何かいい提案でもあるのか?その表情からして、自分に有利な事しか言いそうにないな」
「頭は冴えていますね。その通り、私には提案があります」
頭は冴えていますってなんだよ・・・。
人差し指を立てて、説明を始める。
「えーと…人間さんの名前は何て言うんですか?
「白鳥、神無…」
あ、なんとなくだけど自己紹介ができた。
「はい、白鳥さんと橙さんはまず私の手を握ってください、そうすれば一瞬で下まで降ろしてあげましょう」
妖怪にでもなれば、一瞬で下へ行くのもたやすいのか。
便利ものだなぁ。
「その変わり…」
「一体何が来るんだ…」
つい身構えてしまう。
あなたの魂を頂戴しますとか言われたらしゃれにならん。
というか、山を下りる意味すらなくなる。
「あなたの事を記事にさせてください。それで手を打ちませんか?」
ちょっと拍子抜けしてしまった。
もっと命に関わるようなことを申し出てくるのかと思った。
「…誤解するようなことを書くんじゃないぞ」
しかし、だからといって安心ってわけでもない。
身に覚えの無いことを書かれても困るのだ。
「ふふっ、了解しました」
含みのある笑いを見せてくれた文。
「おぃ、なんだその笑み」
仕方ない。
これが最善な策なんだ。そういいきかせて、おそるおそる文の手を握り、もう片方は橙と握る。
「!…あなた、人間ですよね?」
俺が文の手を取って数秒して、奇妙な視線を向けられた。
「そうだけど?ん、なんだ?」
「あっ、いえ、じゃあ行きますよ」
頭を二度三度と横に振って何かを紛らわした。
一体何があるといぅ…。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
一瞬の事に頭がくらんで、風の影響で乾ききった眼球を開けると、そこの風景は一変していた。
「着いた、のか?」
後ろを振り向くと、高くそびえる妖怪の山。
あの頂上に数秒前まで俺達はいた、というのか。
新幹線も戦闘機ですら驚きである。
「これは、君の能力なのか?」
見えたといえば、背景が一瞬のうちに後ろへ下がっていった光景だ。
これは本当に飛んだのか?ワープでもしたような感じしかしないのだ。
文を掴んでいた手を見つめる。
「あ、橙!、無事か?」
自分の身の回りでおきたことに集中しすぎていて、橙のことはうっかり零れ落ちていた。
つないでいた手は絶対離していないはずだ、だから橙は…。
「ふぇえぇ…」
「良かった、無事だね」
左右にゆらゆら揺れており、目もまだ回っているみたいだった。
…頭はクラクラしているようだが、なんとか大丈夫らしい。
「では、交渉の続きをしましょう」
「え、何かするの?」
「はい、写真を撮らせていただきまーす!それでは、はい、ピース」
「えっ…」
激しいフラッシュの音がピースもまだしていない俺に襲い掛かる。
はいピースといって、写真を連射する人を初めて見た。
いや、間違えた、妖怪だった。
妖怪なら仕方ないか。
「ありがとうございました、後、これあげます。なんか飛んでいる途中に拾ったんですけど、何もないですし」
不思議な形をした…変なものを貰った。
何ものにも例えにくいその物体。
頑張って例えるとするなら…。
幼児のおもちゃみたいな。
本当に何なんだこれ。
「…誤解すること書くなよ!?マ・ジ・で」
おもちゃに意識していても、しっかりと文に念を押しておいた。
「わかっていますよ!それでは、さらばです」
文は、激しい風を撒き散らし後、いなくなってしまった。
「…いい人なんだか、悪い人なんだか、びみょーな感じだなぁ」
ごみを押し付けられた感満載なんだけど、何この後味…。
「あっ、橙?大丈夫かい?」
そろそろ視界がはっきりしたようで、よろけながらも頑張って立っていた。
「だ、大丈夫れすぅ…」