数日後

それから柳は積極的にアルに接しようとしていた。




何とか、「人間が怖い」という価値観を失くして欲しかった。

アルの過去に何があるのか、僕には少しもわからないけど。

何か、人間に関する事があったのだろう。

だとしたら、間接的な原因である僕が何とかしなければならないんだ。


「アル、今日もいい天気だし、はりきっていこっか!」

人間が怖いというのなら、怖くないことを教えてあげればいい。

そう考えた柳は楽しくアルと毎日を過ごそうとしていた。

「うんっ、今日も野菜達は元気良く天へ背伸びしているよ!異常なしだね」

「いつもいつもありがとうね、野菜達は僕に話しかけてはくれないからさ」


「うん、柳の役に立てるなら嬉しいよ」


あの時のアルを見ていた柳は、それが無理して吐き出した言葉のようにしか思えなかった。

でも、そんなことを口にするわけにもいかない。

「じゃ、さっさと終わらせようか」

積極的に接しようとはいうものの、長く僕といると精神的にきついだろう。

そんな配慮を含む言葉だったの、だが。

「ううん、そんなに早く終わらせなくていいと思うよ?」

にこっと笑顔でそう言うアル。

「え、どうして?」

「…柳ともう少しだけ一緒に作業してたいの」

少しだけ頬を赤らめて、アルがそう呟いた。

「えっ…アル…」

これは、無理をしているのか…?

もしかして、僕に気を遣っているのだろうか。

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その頃

「なぁ、ネコマタ」



風の母である、ドラゴンのアヤが夕食の準備をしながらメコへと話しかけていた。

アヤは相変わらず、風と柳以外は魔物の種族名で呼んでいた。

「もぅ、メコでいいですよアヤさん」

「いや、なんだかそちらの方が呼び慣れているのでな…。てそんなことではない、
最近パパはアルラウネにつきっきりなのだな」

夕食の準備をする二人はまるで井戸端会議でもするかのように、柳のことを話し始めた。

「それに関しては仕方ないと思いますよ。パパはパパで色々と思うことがあるんです。
私達は暖かく見守ってあげて、フォローする時はしてあげればいいんですよ」

優しく微笑むメコ。

「ふっ…。ネコマタは私よりもよっぽどパパの妻らしい。私もお前みたいになれたら嬉しいのだが…」


「私よりもよっぽど妻らしいって!今も「妻」って言っているようなものじゃないですか?!パパの妻はこのメコです!」

アヤは「お前がパパという呼び名は、何か違うよな気がするぞ…」と毎回思っていた。

「大人らしい意見を言ったり、急に子供っぽくなったりして面白い奴だな、お前は」

「ははは」と少しだけ笑顔を見せたアヤ。


「私はこの数日間とても楽しく思えた。ずっと一人で生きてきた、私にとってはな…」


「ずっと一人で?」

アヤは目を瞑って、何かを思い出すように口を開いた。

「生まれた時から私は一人だった、何をするにも一人、一人で何でもこなしてきた」

「そ、そんな、生まれた時から一人だなんて…」


「以前の私だったら、そんなこと普通だったと考えていただろう。生まれた時から一人なのだから、それが常識とさえ思っていた」



「でもここにいると、自分が今まで歩んできた人生がどれだけ粗末なものか思い知らされたよ」


アヤを見てきたメコは思っていた、アヤがここまで自分のことを話そうとするなんてとても珍しい…と。

それはアヤがメコのことを認めてくれた証なのかもしれない。

だとしたら、言わなきゃ…。


「そんなこと、ないですよ」

「えっ?」


「粗末な人生なんて、そんなこと私はないと思います」


「アヤさんは一人で生きていくことが普通だなんてきっと思っていません、心の奥では誰かと一緒に暮らしてみたかったはずです」

アヤは少しだけ口を開いたまま、メコを見つめていた。

その瞳は揺れている。

「風ちゃんの卵を拾ったのも、きっとそういう気持ちがあったからこそだと思いますよ」


「魔物も人間も、誰かと一緒にありたいというのは共通ですから」

メコは、これまでのアヤの言葉と態度を基にして、感じたままを述べ、温かく微笑んだ。

「全く、パパといい…風といい…ネコマタといい…似すぎだ、私よりずっと、私のことをわかっているような気がするな」

「私はアヤさんを見たまま言ってみたんです。でも、これからはずっと私達と一緒ですからね」


「ネコマタはこれからも、私がずっと一緒でいいの、か?」


「もちろんです。だってパパが、柳さんが、そう言ったんですから、それに私だって大歓迎です」



「だから、もう一人ではありませんよ」


全く、柳さんの周りには何かしら問題を抱えた魔物さんばかり集まるんですから…。


子供の頃から孤独であったと告げられたメコは、そんなことを思っていた。

でも、それがあの人の魅力なのかもっ。


「あぁ、これからも頼むぞ、私の友よ」


「望むところです、ちなみに、パパは、渡しませんからね」


「上等だ」

二人は友情よりも熱いものを通じ合ったのだった。