リオの人生を左右するであろう話し合いを終えた後、戻ろうとしていたところで柳の視界にはアルが映った。

偶然に出会い、土が肥えているからとこの畑へ居ついたアルだが、いつも柳はやるせない気持ちでいた。

家族と一緒に食べている時も、嵐が来た時だって、アルはずっとそこにいて、一歩も動かないで…。


それはまるでのけ者扱いしているような気分であった。

アルラウネは基本的その場から動かない魔物であるから、柳の思いは届かないのである。



そこも含めて、柳はなんだか晴れない気分でいるのだ。

「なぁ、アル」

「ん、なぁに?」

「あっ…」と口を開いて柳は静かに閉じた。

「アルもうちに来て、みんなでワイワイやろうよ」なんて言えるはずがない。

できない本人が一番わかっているのだから…。

「なんでもない、今日も元気そうでなによりだよ…」

「ふっ、…アルさんはいつも元気なのだ!気にする必要はないってばー」

にこにこと笑いながら言うアルの姿を、柳の目には寂しく映ってしまっていた。


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「なぁ、メコ、何とかアルをこの家に招くことはできないかなぁ?」

「どうしたんですか、突然」

昼食を片付けながら、メコは柳へ疑問の眼差しを向けた。

「アルを見ているといつも思うんだよ、なんだか、アルだけ仲間外れみたいな…」

「そんなことないですよ!それに、アルさん本人は今の生活を楽しく過ごしているようですし、柳さんのように感じたなら何かしらのサインを見せると思いますよ?」

それは、アルと一緒に過ごしてきたメコだからこそ、いえたことだろう。

メコは僕よりずっと大人な意見を述べていた。

「そ、そうだね…。メコの言うとおりだね、アルは正直な子だから、何かあれば言いに来てくれるよね」

「でも、その案がないことはないです」

メコは意味ありげにそう言った。

「と、言うと…?」

メコは人差し指を立てて、笑顔を見せた。

「アルさんが入る植木鉢をこの家に置けばいいんじゃないですか?」


「そ、そうか!その手があったか!ナイスだよメコ!」

柳はアルと共に過ごすカギを見つけ出した喜びか、メコの頭をグシャグシャと撫でた。

しかし、その手はすぐに力を失くしてしまう。

「でも、それって相当大きい物じゃないとだめだよねぇ」

「そうですねー、でも、ないことはないと思いますけど…」


「けど?」

「やっぱり、アルさんの気持ちを第一に聞いたほうがいいと思いますよ?」

メコは優しい眼差しでそう言ってくれた。

そう、それが一番大切なことなんだと、柳は今気付いた。

「はは、メコにはもう助けられてばっかり、だね…。おかげさまで気付かされたよ」


でも、アルは絶対に家に入らたいなんて言わないはずだ。

彼女と過ごしてきて、そういうことがなんとなくわかるのだ。

「一応、アルには聞いてみるね」

メコの意見はやはり大人な意見であって、柳の心にすぅっと溶け込み、

思考へと変化させていってくれる。

「アルさんって、陽気で素直なところありますよね、でも自分のことは一切話しません…私はそこが心配なんです」

「何か、大事なことを装っているような、感じがするから…」


溶け込んだものは、共感を生み出した。

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柳は昼の農作業を終えて、アルと共に一息ついていたところ。

リオはリオで柳の話を聞いて、空気を読んで二人にしてくれたのだ。

「なぁ、アル、アルって家に住んでみたいって思わないの?」

少しだけ緊張しながら、柳はそう切り出した。

「何言ってんの柳ー。あたしはもう柳の家に住んでるじゃんよ!」

「そ、そういうことじゃくて、家の中だよ、なんだかアルだけ除け者扱いにしているみたいでさ…」

「あはは、あたしはアルラウネなんだよ?土がなければ家の中に入れないって!」


「そうだけどさ、植木鉢とか買って…家で過ごそうとかさ?」

「やはり自己満足ではないだろうか」と常に柳は思っていた。

自分の気持ちをすっきりさせたいがために、アルに強要しているような気がする。



「…それができれば嬉しいんだけどね」

微かな声で、アルラウネはそう呟いた。

柳はしっかりとそれを聞いていたのか、やはり、何かを装っていることを悟った。

「アル、僕はアルに、家の中で一緒に過ごしたいと本当に思ってるんだ、アルがいいなら
大きい植木鉢でも買って生活してみない?」

しっかりとアルの瞳を見つめて、柳は真剣な表情を崩さない。

すると、アルからはいつもの笑顔が消えていた。

かげりが見えていたのだ。

それは誰にも悟られないよう振舞っていた表とは違った、複雑な裏側なのかもしれない。

「あたしだって、みんなと一緒に過ごしたいよ?でも、でもダメなの、人間のあなたがいてしまうと…」

柳はなぜか、今まで過ごしてきて築いてきたものを突き飛ばされた感覚に陥った。

「あたしは人間が、怖くて、怖くてたまらないの」

その一言で柳は自分がどれだけ軽はずみな行動をとったか思い知った。

「ど、どうして…出会った時だって、人間の男性を探しているようなそぶりをしていたのにっ」

「…それは強制的に本能がそうさせているだけなの、でも、精神では人間を拒否してしまう
本能と精神が対になってしまって、あたしはもう、どうしたらいいのか、わからない、の…」

「一緒に農作業してきたのに?一緒に色んなことやって、きたのに…?」

必死に「冗談だ」と言って欲しかった、それだけの理由を探した。

それでも

「緑のことだけを考えて、ずっとしてきたから何とか耐えられたの」

「…」

言葉を失ってしまうというのは、本当にこんなことを言うのだろう。

「そんな目で見つめないでよ。だから、あたしは…」

表の顔を遣って誤魔化して来た。そういった類のことを言いたかったのだろう、

アルはそれ以上言葉を紡ぐことはしなかった。

「どうして、そんなに人間が嫌いな、の?」

それは、アルからしてみればとても残酷な質問かもしれない。

でも、聞きたかった、聞いてみなければわからないから。

「、…」

柳は拒絶されたことに対してとてもショックを受けていた。

「ねぇ、アル、手取っていい?」

「えっ」

柳はその返事を聞く前に、静かに手を取った。

少しだけ、アルの手は震えていた。

「怖い?人が…」

「う、うん…」


しかし、柳はアルの手を怖がらせないように優しく握り、自分の胸に持ってきた。

「まだ、怖い?」

「う、うん、ごめんなさい」

「謝らないで」

アルの手を両手で握り、柳は静かに呟いた。

「僕は生きてるから体温がある、でもね、ここにはもっと別の温かさがあるよ」



「君がどんな理由で人間を怖がっているのか、僕にはわからないけど」



「君を怖がらせるものは何もないよ」



「だって、ここには君の手を包み込んでくれる温かさがあるから、怖がっている君をも包み込む温かさがあるから」


「それだけで十分だと思わない?だから…」



「そんな寂しいこと、言わないでほしいな…」


柳は悲しそうに呟いた。

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推敲してません、誤字脱字失礼!!

ファイナルついに始動でございます。
また、長く見守ってください