二人でお世話になったりんごの木を数分、眺めた帰り道。

青年とねこまたは腕を絡めながら並んで歩いていた。

そのせいで下が見えなかったため、青年はあるものにつまづいてしまった。

「おっとと」

転んでしまいそうになる体をネコマタが支えてくれた。

普通、それが男の役目なんだけどね・・・。

青年はしみじみ思う。

「それにしても、一体何に…」

先ほどまでいた場所へ視線を移すと、そこには大きな緑の蔦が伸びていた。

その蔦が行く先は森の中。

暗闇の中で、誰かの声が聞こえる。

「いったたた・・・」

ガサガサと蔦で草を掻き分けながら現れたのは…。

「ま、また魔物!?…アルラウネ?」

「そうだよ、痛いなぁ…」


大きな花弁の中に、美しい女性が入っていた。

また女体化しているのか。

一体何があったんだろう。

青年はアルラウネを凝視する。

「ご主人様、あの方を見つめすぎですよ!」

「え、あ、ごめん…」

腕をぎゅっと更に絡めて、ぷーとかわいらしく頬を膨らめた。

「そっか、君達夫婦か…」


「ふぇ、ふ、ふうふ…」

突然、ネコマタの顔が真っ赤に沸騰しく、湯気でも吐いてしまう勢いで。

「そういえば、さっきのオーガにも言われたね」

「妻持ちの男性に興味はないっかな…それじゃあね」


掻き分けた草たちをまた集めて、アルラウネは姿を消した。

「あれ、身を隠してるのかな…」


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青年は家へ帰るとネコマタにある質問をした。

「ねぇ、魔物達が女性になってたけど、あれって一体?」

「ご主人様、知らないんですか?」

「あ、あぁ…。一人暮らしが長いから全くわからないんだ」

今まで魔物と出会うことがなかったのが、奇跡であると青年は思った。

「この世界の魔王が変わってしまったことは知っていますか?」

「そ、そうなのか」

いつもの魔物だったら、僕達人間を殺し、生肉を貪る奴ら。

しかし…。

「この世界の魔王がサキュバスとなったため、魔王の眷属である魔物達も同じように女体化したんです」

その事実を聞いて、青年は口を開けて呆然としてしまう。

「そうだったのか…。それに、オーガなんか野蛮な魔物だったのに、攻撃もしてこなかった…」

「今までとは全く違うんです。人間は食べるものやえさという価値観ではなく、愛するものという風に変わってきたんです」

「愛する?」

「そうです、人間の男性に寄り添うのは魔物であり、魔物は男性の隣人である、といった感じですね」


「そうだったんだ…」


一人暮らしが長かったためか、自分の無知さと、世界の変わり具合に驚きを隠せなかった。


「でも、そのおかげで君はここにいるん…だよね?」

「その通りです」



「だとしたら、僕にとって魔王の代替わりは、嬉しいことなのかもしれない」


青年はネコマタに笑顔を見せると、ネコマタは「はいっ♪」と大きくうなずいた