「それじゃ、朝ごはんに準備しよっか」

「あ、私も手伝います、家事はきちんとこなせるようになりたいんです♪」

立ち上がった青年についていくように、ネコマタは台所へ立ち、淡々と料理をこなしていった。

「あれ、ネコマタ、料理できるんだ?」

「本能的に体が動くという感じですか…。自然に手が動いているんです」

青年はそんなネコマタの姿を眺めて、感心していた。



「す、すごいね、自然に料理ができるなんて」

「は、恥ずかしいですよご主人様、そんなに見つめないでください」

青年はずっとネコマタの姿を見つめていたのであった。

「あ、悪い悪い…。さっさと済ませて農作業へ移ろっか」


「はい!私にも教えてください」

「うん」


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農作業を簡単に教えてあげると、ネコマタは嬉しそうに手伝っていた。

そのおかげか、いつも時間がかかっていた作業が今日はすぐに終わった。

青年はおでこの汗を腕で弾く。

「ふぅ、ネコマタのおかげで仕事がはかどるよ…」

「はいっ!楽しいです♪」

一仕事を終えた、とても良い笑顔を見せてくれる。

そのおかげで僕も頑張れるよ。

青年は心地よい温かさに包まれながらそう思った。

「作業が楽しいことはいいことだね」


畑仕事も随分体力を使うと言うのに、ネコマタは平気そうな顔をしていた。

「体力あるんだね…」

「私猫ですよー?人間とは違いますよ!」

「あ、そっか」

ネコマタは人じゃなくて、猫だもんな。

人とは違って体力あるのは当然か。

青年はそう納得した。

「まぁ、一息ついたことだし、ネコマタに紹介したい場所があるんだ」

「紹介したい場所ですか?」

「あぁ、君と生活する上で何度も助けられた、大切な場所なんだ…。ちょっとついてきてね」


「はいっ」

ネコマタは、そのぷにぷにしてそうな肉球をつけた足で、とことことついてくる。

右足出したら、左手が出て、左足出したら、右手が出て。


そんな姿がかわいらしく見えた青年であった。



「おぃ」


「えっ…」

一瞬、ネコマタに「おぃ」と言われたのかと思ってしまった青年は、ネコマタの顔を凝視した。

「あ、あの、どうかしましたか…?」

当本人は見つめられたことにたいして、恥ずかしそうに頬を染めた。


「…今、声が聞こえたような」

「そ、そうですか…//」

やっぱり恥ずかしそうにうつむくネコマタ。

「おぃ、こっちだ」

今度ははっきりと聞こえたらしい青年は、木の上を見る。

すると、そこには…。

「ま、魔物…!」

青年は驚きで一歩後ずさってしまった。

魔物なんて久しぶりに会ったからどう対応していいかわからない。

戦うのか、戦わないのか…?

混乱している青年に。

「…お前、そこにいるネコマタの夫か」

「えっ」

「わわわぁぁっ…」

ネコマタは恥ずかしそうに両手で顔を隠す。

「おおお夫だだだだなんて、わわわわたしはつ、妻…?ひゃぁぁ…」

魔物の一言に動揺を隠せないネコマタ。

落ち着けネコマタ!

「おいしそうな匂いがしたと思ったら…もう妻持ちだったとはな…」

残念そうに呟く魔物。

敵意がないことに気付いた青年は改めて木の上を見つめる。

「君は、オーガ…?」

オーガ(クロビネガ様魔物娘図鑑参照)というのはとても凶暴な魔物で、その身体能力や腕っ節なんかは人間が比じゃない。

危険な魔物が何の用なんだろう。

というか、なんで女体化しているのだろう。

「いいや、なんでもない、呼び止めて悪かったな」

ばつの悪そうな表情を浮かべたところ、さっさと退散したほうがよさそうだな。

青年はそう思って、ネコマタの手を引いて目的地へ急いだ。

「ここだね」

数十分歩いていると、ある大きな木が見えてきた。


そこには、赤く塗りつぶしたような、綺麗なりんごがたくさん成る木。

「ここが君に紹介した場所なんだ」

「りんご…ですか?」

「うん、ここに偶然一つだけりんごの木が生えててね、農業や採取が芳しくない時なんかにお世話になってるんだ」

「そうなんですか、りんごの木さんにも、お世話になったんですね」

笑顔を浮かべて、ネコマタも青年と同じようにりんごの木を眺める。

「僕だけしか知らない、とっておきの場所なんだ」

こんな山奥に住んでいるのは僕ぐらいだし、町からも距離があるからね。と青年は付け加えておいた。

「そうですね、とっても良い所です…。青空も綺麗ですし、緑もいっぱい生い茂っていますし」


すると、少し恥ずかしそうに。

「それに…手も繋げましたし…」


「えっ、あ!わ、悪い」


微かに聞こえた声に青年は反応する。

オーガから逃げようとしていたことに夢中になり、手を繋いだままだった…。

青年はとっさに離そうとするが…。

ネコマタの手は、しっかり青年を捉えていた。

「もう少し、このままで」


手を繋ぎながら、ネコマタは青年に寄り添った。


「お世話になったこの木を、ご主人様と一緒に眺めて、いたいんです」


「あ、あぁ、そうだね」



この木も、家族の一人なんだから。

そう言うようにネコマタは笑顔を作った。


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end