・・・・。
・・・・・。
・・・・・・。
いつになっても、痛みは訪れてこなかった。
少しずつ瞼を開けていくと、そこに立っていたのは・・・。
銀色の髪、露出の多い派手な服装に尖った耳。
そう…魔王だ。
「ま、魔王・・・」
大きな剣は一瞬にして灰になった。
水が灰になる瞬間を、俺は初めて目撃した。
「ふふ、やっと参加してくれたわね、魔王さん
「・・・ウンディーネ、私に何か用か」
お茶目な、いつもの魔王とは違った、真剣な声が聞こえる。
「こんな腕の立つ勇者につきまとわれちゃ、私達が困るのよ」
「ほほぅ・・・。では、どうしようと?」
口調すら変わっていた魔王の威圧感はすごかった。
「ここで、この勇者と決別してもらうわ…!!この子は、本当に魔王を倒す素質があるのだから・・・!!」
巨大な水の拳が振り落とされる。
しかし、一瞬で灰と化す。
「・・・魔王に戦いを挑むなど、命知らずめ」
魔王が立っている地面が深くえぐれた。
手を一振りすると、衝撃波がウンディーネを打つ。
「あ、熱い!!」
ぼぉっ・・・と消えていってしまった。
「・・・」
魔王は無言でその場を去る。
俺は唖然としたまま、固まったままだった。
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「ごめんね、苦しい思いさせちゃって」
やっとこさ姿を現したウンディーネが傍に寄って、そんな声をかけた。
「・・・あなたは、魔王についていってしまうの?もしかしたら、あなたの力を利用しよう・・・とするかもしれないのよ」
ウンディーネは最初から、俺のことを心配してこんな戦い方をしたんだ。
魔王を誘い出すために・・・。
でも・・・。
「ごめん、俺にはあいつを旅から外すことなんてできないんだ」
「そう・・・」
悲しげな表情で、ウンディーネは頷いた
「もしも、あなたに危険が及んだら、私達がなんとかして守ってあげるからね・・・」
そう言って、俺の指に又一つ、力の証が託される。
「…」
俺は起き上がって、魔王を追いかけた。
水の洞窟を抜けて、海が見える広場の木の下、魔王は座って眺めていた。
「魔王、こんなところにいたのか」
魔王は振り向こうとはしない。
「一昨日から変だけど・・・本当にどうしたんだよ…」
魔王は少しの間、黙っていた。
そして。
「アツキ・・・私は、魔王だぞ」
何で俺の名前を知っているのかと聞きたかったけれど、そんなことより必要なものがある気がした。
「そんなの、最初っからわかっているさ。今更なんだ?」
先ほどのウンディーネの言葉により、何かが揺れ動いてしまったのだろうか。
「私は・・・シルフとの戦いの後、アツキを背負って、宿まで運んだんだ・・・。その時、聞いてしまったんだ・・・」
「えっ?」
「アツキの母親がモンスターに殺されてしまったことを・・・だ」
俺はぼやけている記憶を思い起こす。
「確かに言ったな・・・。魔王のこと母親と勘違いするなんて、笑っちゃうよな」
頭をかいて呆れながら言う。
「私は一応魔王であるが、モンスターであるのだぞ・・・。そんな私を傍に置いておいて、アツキはいいのか?」
「なんだよ、魔王はそんなことで悩んでいたのか?」
「そ、そんなこととはなんだ!!」
俺も、魔王の隣に腰掛ける。
「そうだな、魔王もモンスターだな」
「・・・」
魔王は見せたことのない悲しげな表情で俯く。
「だけどな、魔王は俺の母親殺してなんか、いないだろう?だったら、それでいいじゃないか」
「えっ・・・」
「モンスターに殺されたからと言って、モンスターに復讐しようとか、俺は考えないよ・・・むしろ、共存を望むくらいだ」
「アツキっ・・・」
「それに、俺が勝手にモンスターの集落へ行ってしまったのも原因なんだ・・・。だから、そんな気にする事はない」
魔王をチラッと見ると、瞳には雫が溜まっていた。
「・・・バーカ、こんな臭いセリフ言わんなよ。てか、他人のことで勝手に悩んでんじゃねーよ」
俺は立ち上がって、魔王とは逆方向を向く。
「魔王は、俺の仲間だよ」
「アツキ・・・ありがとうね・・・」
いつも通りの口調に戻った魔王。
「さぁ、次へ行くぞ」
「うんっ!!」
こうして、二人はまた、次の目標を目指して歩き出したのだ。
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「てか、魔王は何で俺の名前知ってんの?」
教えたことなんて一度もなかったよな。
「魔王に知らないことはないのだよ」
「なるほど・・・で、魔王は何て言うのさ?」
「私?私はね」
アルタルト・ラズベリー
彼女の名前を聞いた時、俺はとても驚いた。
なぜなら、その名前は母親と同じものだった。
「・・・ラズベリー、俺の母親と同じ名前だよ」
「えっ、本当?」
「知らないことなんて、なかったんじゃないのか?」
「ふんっ、うるさいわねぇー、魔王にも知らないことの一つや二つあるわよ」
「言っていること全然ちげーじゃねーか!」
「でもまぁ・・・綺麗な名前だよな」
魔王は一歩先を進んで、笑顔で振り向いた。
「ねぇ、ラズベリーの花言葉、知ってる?」
「さぁ・・・知らないな」
「・・・深い後悔よ」
「なんだそれ、かっこつかねー花言葉だな」
でも、すごく俺に似合ってる気がした。
「でも、愛情ってのもあるわね」
「最初っから、それ言えよ!」
と突っ込みながら果てしなく続く道を行く。
俺の事を見守ってくれる魔王は。
母さんの生まれ変わりのように思えた。
深い後悔も、愛情も・・・。
全てが、今の俺を繋ぐモノなんだろうな。
終わり
なわけない!!
続きまーす。