次は、初心者の難関であるウンディーネだ。

しかし、三人の精霊を統べた俺に、ウンディーネなど、恐れるに足らず!
水の洞窟を抜けると、そこにはウンディーネが立っていた。


「いらっしゃーい、早速、勝負する?」

「望むところだ!」

剣をウンディーネに向ける。

さぁ、一体どんな魔法を仕掛けてくるのか楽しみだ!

とかいう戦闘大好き人間でもない。

「久しぶりに、俺から行かせて貰うぞ!!」

剣の先をウンディーネに向けて突撃する。

「せいっ!!」

剣はウンディーネの体を貫通した…。はずなのに、ダメージなど受けている様子ではなかった。

「まさか…変わり身の術か!?」

「おしぃっ!…私は水の精霊よ?体を自由自在に変化できるわ」

液状化したウンディーネの体のせいで、剣は刺さったまま抜くことができない。

「それでは、私の番ね…あら?」

液状化した体の一部だろうか、手足を縛り、身動きができなくなってしまった。

そんな俺の指にはまっている指輪を見たウンディーネ。


「あなた、三人精霊の力を持ってるのね…。じゃあ、手加減はなしでいいわよね?」

ブンブンと情けない俺は横に首を振る。

せ、精霊の本気とか…海でも突っ込んできそうな勢いじゃないか!!

レベルは多少上がったものの、そんなに強くはないぞ。

「情けない勇者ね。これは、キッチリ鍛えてあげる必要があるわね」

「くそっ…!動けない」

何度ももがいて見せるけど、水の力は強く解くことができない。

そして、目の前にいるウンディーネが何を仕掛けてくるのかが恐怖心を煽る。

「そこのあなた、この情けない勇者が身動きできない状況で、助けようとは思わないのね」

俺から視線を外して、遠くに居る魔王に話し掛けた。

「…」

魔王は珍しく何も言わず、眉を潜めるだけだった。

「お、おぃ!どうしたんだよ!?」

そういえば、一昨日ぐらいから元気がなかったような気がする。

稽古も、戦闘も上の空と言った感じ。


「くっ…!いつも助言をくれる奴がいないと厳しいぞ…」

未だに手と足を掴まれてしまっている。

「まぁ、いいわ。相手はあなたなんだし、じっくり料理にしてあげるわね」

恐怖心は更に高ぶった。

ウンディーネの体が少しずつ全身を縛り上げてくる。

「くはっ…!!」

顔まで到達すると、そこには水の空間ができた。

「私の水の中で溺れ死ぬ?」

「…これが初心者の最初の壁かよ…」

「違うわ、あなたには手加減なしっていったでしょ」

しゃべっていると酸素が抜けていく気がして、ウンディーネには返答しなかった。

この水の空間は俺の体についてまわるみたいで、出ようと泳いだとしても結局変わらない。

とてつもなく厄介で危険な状態だ。

溺死なんて苦しい死に方はしたくない。

「かはっ…」

「さぁ、どうするの?」

酸素不足が体に伝わってくる。

「そこのあなた、彼が死んでしまってもいいのかしら?」

「…」

相変わらず、無言のままその場を流す魔王。

「何やってんだよあいつは・・!!」

肝心な時に出てこない魔王。

実を言うと、俺は魔王が助けてくれるのを期待していた。

最近の魔王は少し変だったからさ。

だから、極限まで追い込んだというのに、魔王は助けてくれない。

「…まぁ、助けてもらうこと前提にする方がおかしな話か」

右足にどす黒い炎がまとう。

「せいっ」

その右足で、水の空間をぶった切ってやると水は蒸発して消えた。

「少しはやるようね」

「あんまり、精霊の力は使いたくないんだけどな…」

剣の腕が全く上がらないのだ。


肩にはサラマンダーが乗っている。

「ウンディーネ。こんなひょろ男相手に本気を出しているなんて、大人気ないわね」

「・・・一度、勇者とは本気で戦ってみたかったの、それが、少しは腕のある彼だっただけよ」

「ふんっ、まぁいいわ…。あたしはこの子を結構気に入っているから、こっち側に着かせて貰うわね」

「サラマンダー…!」

サラマンダーの言葉に、俺は感激した。

「あっ…」


「ん…魔王?」

「・・・アツキ」

魔王がそんな言葉を呟いた。

「えっ、どうして…俺の名前…」

「ほらほら、余所見していると命が危ないわよ」

距離をとっていたウンディーネが、すぐ近くまでやってきていた。

「おりゃあ!」

剣はどこかへ置いてきてしまったので、どす黒い炎をまとった足でウンディーネを蹴り上げる。

「これが稽古の成果だぁ!!」

水が瞬間的に蒸発するものの、再生を始めた。

「水はなくならないわ、色んなところに水はあるのよ。…だから、一番最強の水なのよ!!」

地面から手が伸びてきて足を掴む。

「な、何…!?」

黒い炎が少しずつ火力を失っていく。

「水は自然、しかし、あなたの火はあなたの魔力で形成されている!!それが弱点よ」

「チッ、剣はどこへやったか…」

さっき捕まっていた場所には、銀色に光る剣が転がっていた。

「と、とりあえず、あれを取りにいかなければいけないな」

俺の足を捕まえていた手は石化してもろく崩れた。

その間に、俺は剣のある場所へ向かった。

・・・くそ、精霊の力は一つ一つが強大で、魔力の消費がとてつもなく早い。

「よし、これでとりあえず」

落ちていた剣を拾い、安堵する。

これで魔力を回復しながら戦うか。

「ウンディーネ、どうしたんですか、そんなに強い力を出すなんて」

「…聞いてなかったの?手加減はなしでこの勇者と戦うのよ」

「…ウンディーネが本気を出すとは…厄介ですね…」

一つ汗をたらしたノームはそう言って、消えていった。

他の精霊がそんなことを言うなんて…。

ウンディーネって、一体・・・。

「よくわからないけど、一瞬で終わらせる」


「な、何っ!?」

瞬間的にウンディーネの後ろを取り、背中から剣を貫通させる。

「ふん、驚かせるわね…」

そのまま、体内で軽い爆発を起こして、ウンディーネはチリとなった。

「…くそ、魔力を使い果たした」

しかし、これは一度の賭けだ。

魔力はすでになくなっている。

「勇者、まだいるよ」

シルフの声がして、その場から一歩下がると・・・。

瞬く間にウンディーネが形成されていく。

「こいつは化け物かよ…」

魔力を使い果たして、膝を地につけてしまう。

「・・・くっ、なんなんだよ・・・」

無限に湧き出てくる水が、このウンディーネの生命の源だとしたら、勝ち目など最初からゼロだ。

「ウンディーネ、もうやめにしない?この勇者が死んじゃうよ!」

「これぐらいで死んでしまうのならば、魔王など倒すことなんてできないわ!」

その言葉でチラッと魔王を見る。

魔王は悲しげな表情で俺を見つめていた。

あいつ…何やってんだ・・・。

と心配するものの、今の状況では自分の身も危ない。

なんとかシルフが説得に当たってくれている。

その合間に、俺はノームの力を借りて魔力を回復させている。

「水の最上級魔法を見せてあげるわ」

「ウンディーネ・・・」

シルフはあきらめたように消えて行った。

巨大な魔法陣が輝きだして、俺の頭上に出来上がった水の塊。


それが少しずつ剣の形を成していく。

「・・・」

魔力の回復は追いつかず、俺は避けようとする。

が、しかし、いつのまにか、足を掴まれていた。


剣の形が出来上がり、立派な剣となる。

「まじかよ…」

恐怖で足がすくむ。

俺の目は、死を直視している。

「このまま、果てなさい!!」


大きな剣が振り下ろされて、俺は目を強く瞑る。


続く


誤字脱字あるかもっ