サラマンダーは火山。
ノームは洞窟。
シルフは天空まで届いていそうな程高い、塔の最上階にいる。
「くそっ…一番厄介…」
階段を登るにつれて、HPとはまた違った体力の方が減ってくる。
「はぁ…後、一階上がれば…」
「だらしないわねぇ。これぐらいへこたれてたら、私に勝つことなんて到底無理だわ」
「うるせぇ…自分だけ浮遊しやがって」
なんとか一階へ上がると、そこにはシルフがいた。
「ご苦労様~」
疲れた顔の俺を見て、くすくす笑っている。
「…たんま!ちょっと休憩」
「あんたねぇ…敵を目の前に情けないわよ」
頭を抱えて魔王が言った。
俺は座りこんで休憩タイム。
「仕方ないだろ!こっちは疲れてんだ」
「それが目的なんだよ~?」
「やっぱり、君の思惑か…。勇者には実技だけじゃなくて、体力も必要…と」
そんなもん言われなくてもわかっているけど。
これはかなり辛いだろう。
足が棒のようだ。
「そそーだから、休憩タイムなんてものはな~し」
「ふっ、望むところさ」
立ち上がって、シルフに剣を構える。
余裕ぶってるけど、足は限界です。
「それじゃいくよ~」
シルフが呪文を唱えると、風の守りがシルフをまとった。
暴風がシルフの目の前に。
「ていっ」
足元に落ちていた石を投げてやると、激しい風に妨げられて、石がすごい速さで跳ね返ってきた。
その石は、俺のでこに直撃した。
「いってぇえええええええ!?」
でこを抑えてうずくまる。
い、石ってお前…。
「何バカやってるのよ…」
どれぐらい強い風か確かめるためにやった、懸命な判断ではないか…。
ただ、運が悪かっただけ。
HP 30/60
「あぁああああ!?HPが半分減ってる!」
「全くもう…」
「あははっ、面白い勇者さんだね~。戦闘する気なくなっちゃうよ」
そのまま戦闘ごとなくなってほしかった。
こんな冗談を並べながら、俺はシルフの技の弱点を探っていた。
いわば、時間稼ぎみたいなもんだ。
完璧な技なんてない、どこかに抜け道が…!
「それっ」
もういっちょ石を投げてみる。
激しい風によって、先ほどと同じように跳ね返ってきた石を、頭の角度を変えてよけると。
後ろの魔王のデコに当たった。
「いったぁああああああ!?」
でこを抱えてうずくまってる。
それを呆れながら眺めている俺。
この風は、おでこにHITするんだな。
「あんた、魔王だろ…」
魔王、流れ弾で戦闘不能。
とかやめてくれよまじで。
「な、なにひゅんのよ!」
涙目で魔王が言った。
「くだらないことやってんじゃねーよ」
「あんたが避けたんでしょぉ!?」
すごい速さで目の前まで迫ってきた。
「うぐぐげっ…」
魔王の怪力で頬を左右に思いっきり引っ張られる。
「このっ…!」
「いでででっ…やめろって…」
赤くなった頬を押さえながらそう言って、ステータスを確認する
HP 10/60
「げげっ!?」
驚きとショックで一瞬固まってしまった。
ただでさえ、限界のHPが少ないってのに、なんという…。
「さすがシルフだ…。侮れない強さだな」
振り向いて、シルフを指差す。
「私、まだ何もしてないよー」
「何もしてないのに、この強さ、さすがです」
もう投げた。
「あはははっ、君達面白いねー。でも、そろそろ行くよ?」
「望むところだ!」
いやいやいや、かっこいいセリフ言いながら、シルフの攻撃を一撃でも喰らったら終わりなんですけど。
「てぃっ!」
「あんたねぇ…!」
魔王は引きつりながら肩に手を置いた。
「見てろって!」
今度は真正面じゃなくて、上へ投げた。
「日頃の成果、見せてやろう!!」
手と手を強く打つ。
「いでよ、ノーム!!」
指輪が輝いて、ノームが現れる。
「「変幻・倍化」」
ノームと俺の二重魔法陣が発動し、投げた石が大きく膨らむ。
「落ちろ!」
シルフに巨大化した石が落ちた。
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「や、やられた…意外にやるじゃない」
「これでもれっきとした勇者だ」
「うん、じゃ、力を与えてあげるわね」
ピンッと音がして、シルフの力の証が指輪になる。
「よっしゃああー!一時はどうなると思ったけど、なんとか…生き残ったぜ」
片手をかかげて喜び。
「…」
天空まで届いていそうな塔の、果てしなく続く階段を見つめる。
「魔王、乗せてよ」
「無理言わないでよ」
…。
道中の雑魚敵にやられてしまったのは言うまでもなかった。
「ハァ・・・仕方ないわね」
俺の意識は遠のいていった。
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どれぐらい意識を失っていただろうか。
体はたびたび動いている。
「んっ…。」
朦朧とする意識の中で、誰かのぬくもりを感じた。
「母さん…?」
あぁ、死んでしまった母さんが帰ってきたんだ。
そんなこと、ありえないはずなのに…。
今の俺には、そんな考えに至らなかった。
「母さん、帰ってきたんだね…」
背負われている状態で、静かに、背中に呟く。
「ごめんなさい、母さん…俺が身勝手な行動しなければ…母さんは…」
母さんの背中で、俺は泣いていた。
「モンスターに…殺されたりはしなかったよね…ごめんなさい…母さん…」
「っ…!?」
「ずっと…謝りたかった…」
そのまま、
俺は落ちていった。
「…モンスターに、母親を殺された…」
魔王は静かに呟く。
「勇者、お前はアツキという名だったな…」
その表情は、とても苦しそうだった。
「アツキ、どうしてお前は…。」
続く