延々と続く補導されていない道を見つめながら、一つ溜息を漏らした。

初心者の村という束縛から解放されて、魔王を倒す勇者の道を、俺は一歩踏み出したのだ。

これから弱いモンスターを地道に倒して行き、レベル上げて、更に高みを目指す。

勇者というのは、古来からそういうものだろう。

「…」

時々、序盤で上級モンスターを奇跡的に倒してしまうといったような物語を見かけることがある。

それは、勇者の中に秘められた力があるというものを示している。

だが、俺にはそんな秘められた力など、持って居ない。

持っていない…はずなのに。

「勇者、次はどこへ行くの?」

露出の多い派手な格好、尖った耳、銀色に光る髪をした女性が俺の隣を優雅に歩いている。

「まだ弱いところだよ…」

「やっぱりそうよねっ~。宿は取れるんでしょうね?」

「あぁ、とりあえずそれぐらいは持ってきてある」

「やった~。一度、勇者みたいな旅がしてみたかったのよ」

ニコニコ笑いながら隣でバンザイしながら駆けてゆく女性。

傍から見ればとても微笑ましい光景だろう。

しかし、俺は笑顔すら浮かべることができない…。

「宿へ着いたら、稽古つけてあげよーか?」

「あっ!ほ、ほんとうか!?それはありがたい」

「えぇ、この技は人間なんて真っ二つに出来るほどよ」

「俺は勇者だぞ!?ゆ・う・しゃ!!そんな悪役が使うような技覚えてどーすんだ!!」

呆れがちに俺はつっこむ。

「わかったよ~。それより、あなたは私を倒す勇者なんだから、もっともっとー強くならないとねぇ~」


「…はぁ」

今の発言から分かってしまっただろう。

彼女は魔王である。

最初っから魔王を仲間にしてしまうレアな勇者なんていないだろう…というか、もう俺が勇者なのかということすら怪しい状態だ。

俺がなぜ魔王を仲間にしてしまった…かと言えば。


力を持った勇者との勝負で重傷を負ったところを無知な俺が見つけて、看病をしてしまったのだ。

それからは、俺の元へ着いてくるようになって…。

今では戦闘までちゃっかり参加してくれちゃってる。

「あのさ・・・さっきも言ったんだけど…。戦闘参加しないでくれ」

「えー、見てるだけじゃつまらないの」

「君はどーせ100レベルとか行ってるんだろうけど、俺はまだ3レベルなの!」

「勇者…3 勇者…3  勇者さんレベルって面白いね」

「…くだらんこと行っていると置いていくからな」

魔王ということを忘れてしまうようなお茶目を見せる。

こいつが闇を支配しているなんて、到底思えないんだよ…。

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宿で稽古をつけてもらった翌日、俺は基本的な四精霊の中で、もっとも力の強いといわれるサラマンダーの元へ来ていた。

普通は力の弱いウンディーネから倒していけばレベルもそれ相応に上がっていくのに…。

目の前には、燃え盛るような体を持つサラマンダーが立ちふさがる。

「そのレベルで、あたしに勝負を挑んでくるなんて…。とってもいい度胸しているのね」

今すぐにでも土下座をして宿へ戻りたいです、コテンパンにやられるのが目に見えているんですけど。

「それじゃあ、行くわよ!!」

サラマンダーが片手に炎の塊を握り締めて、俺の元へ突っ込んできた。

…昨日教えてもらった技を、今、使う時だ…!!

剣の先を相手に向けて、切り込む…!

「うぉおおおおおおおおお!!疾風剣」

しかし、俺の剣術にはまだまだ隙が多く、サラマンダーは軽く俺の攻撃を交わす。

サラマンダーはすぐ隣にいる。

「ひぃっ」

すばやく、サラマンダーの攻撃を剣で防御するものの、そのまま吹っ飛ばされて壁に背中を打ち付けてしまう。

「うぐっ…」

こんなの無理だ。やっぱり、力の差がありすぎる。

自分の不甲斐なさを嘆いてしまっている中、大きな地響きが聞こえた。

「私の勇者に手を出したわね…許さないっ!!」

一歩踏み出すと、地震が手足を伝って全身に響き渡る。

「サラマンダー、貴様を灰と化してくれよう」

「な、なんだお前は…人間とは思えない、とても強い魔力を感じる…」

魔王は今人間に化けているため、誰からも魔王とは気付かないのだ。


十秒後。

サラマンダーが土下座をして謝っている光景が、とても切なく思えた。

「勇者に手を出していいのは私なんだからね」

腕を組みながら、プンスカ彼女は不満を口にしていた。

「…結局レベル上がってないんですけど」

こりゃ、もうだめだ。

そう思いながら、俺は魔王の後へ着いていく。