この世界には何百というモンスターが、人の村を襲ったり、悪さをしている。
俺はそいつらを倒すために立ち上がった、若い勇者だった。
「てやぁっ」
今日も剣を片手に、地道にモンスターを狩って行く。
まだまだ見習いだが、俺は絶対に魔王を倒そうと思う…!!
「ふぅ…」
スライム一匹を狩るのに、こんなにてこづってしまうなんて…。
大きな口叩いておいてなんだが、俺が魔王を倒せる日なんて来るのだろうか。
「ねぇ、ちょっと」
足に冷たくて柔らかい感触がして後ろを振り向くと、先ほど退治したスライムがつついていた。
「なんだよ。やられたモンスターは大人しくやられてろよ」
「…その、僕を仲間にしてくれないだろうか」
「え?」
「僕も、君と一緒にこの世界旅してみたい。どうか、仲間にしてくれないだろうか」
いつもの笑顔で、スライムは俺に申し出た。
「…スライムのくせにかっけぇこと言いやがる…」
呆れた顔を浮かべながら、俺はプニプニのスライムの肌を撫でた。
「いいよ。俺もまだ駆け出しだからさ、一緒に旅すれば何かと心強いだろう?それじゃ、行こうか」
と、生意気な事を言いながらも、一人で旅をするのが心細くて、ホッとしていた。
アーチャーとかヒーラーとかの方がいいんだけどな。
「ありがとう!!戦闘も協力するから」
スライムはそう言った。
「あ た りまえだ」
そして…ここから二人の旅始まる。
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「てやぁ!」「えいっ!」
なんとか地道にレベル上げて、レベル5である、ツチノコを倒した。
「ふぅ…、結構、俺等いいコンビだな」
「そうだね。旅をしていくうちに、戦闘の仕方が身に付いたよ」
「俺も同じだな」
二人は笑顔で勝利の喜びを分かち合う。
「うらやましぃ…」
すると、後ろからやられたツチノコの声が聞こえてきた。
「俺っちも…君らみたいな旅をしてみたい…。こんなひ弱な敵で終わりたくない…。」
その言葉に、俺は立ち止まって振り向く。
「ツチノコ、俺等も最初はそんなもんだった…。」
一旦置いて、ツチノコの瞳を真剣に見つめる。
「だけど、俺等と一緒に厳しい旅を耐え抜く覚悟があるのなら…一緒に来るか?」
すると、ツチノコは口を開いて喜んだ。
「うん、俺っちにはきちんとした覚悟があるよ!!君たちと旅をしたい」
「いいよ。それじゃ、行こうか」
「うんっ!!」
これで、旅の仲間は三人となった。
俺の仲間はみんな弱い、雑魚と言われてきた奴ばかりだ。それは、俺も含めてだろう。
だからこそ、俺達は強くなると願ったんだ。
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「ツチノコ、横に避けろ!!そいつの攻撃を喰らったら一定時間凍ってしまう」
「了解!」
指示通りに動き、ツチノコが元いた場所には氷の塊が転がっていた。
「スライム俺の背中に乗って、あの連携プレイだ!」
「わかった!」
最初のボスであり、水の精霊のウンディーネへと走る。
「かかってきなさい」
ウンディーネと距離が近くなったところで、俺とスライムは二手に分かれてた。
スライムの攻撃と、俺の攻撃が、ウンディーネの左右で放たれるところだったが。
連携プレイであるこの技を、ウンディーネは軽々と受け止めた。
「くっ…」
「あなた達はまだ未熟者です、そんなあなた達に与えてあげる力など…」
「そりゃあ!!」
ウンディーネの両腕が塞がったところで、ツチノコが土の中から攻撃を仕掛けた。
「あっ!?」
両腕の力が緩んだと同時に、俺とスライムは、ウンディーネに攻撃をして、初めてのボス戦は幕を閉じた。
「ふふ…あんな戦い方を見たのは初めてです。あなた達は面白いですね」
水の精霊であるウンディーネが笑顔を見せた。
「力を与えてあげると同時に、あなた達に同行しようと思います…」
軽く聞き流そうと俺は頷きかけた。
「いやっ、だめだろ!?」
ウンディーネの申し出を俺は断ろうとする。
いや、だって…君はここのボスでしょう。
「大丈夫です。分身の私がいつでもここにいます」
「は、はぁ…」
「精霊を仲間にするなんて、とても珍しい旅人達です」
「あんたが勝手に仲間になっただけでしょ!?」
とつっこむと、ウンディーネは笑顔でスキップを始めた。
「気にしない~気にしない~」
洞窟を出ても、ウンディーネはスキップで付いてきた。
「ふん~♪、あぁ、久しぶりの外です…」
「まぁ、上級モンスターを仲間にしてしまった敵とかでいいか…」
精霊なんて、仲間にするかどうかの以前の問題なんだがな。
これで、仲間は四人となった。
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それからも、俺達の旅は続いていった。
倒したモンスターの数はもう底知れない程となった。
どれぐらい長い距離を歩いてきたのだろうか…。
もう、最初の村には戻れない。
なぜなら、俺はここで死んでしまうかもしれない…から。
「魔王!!出て来い!!」
闇に包まれている城の最上階までたどり着いた俺は、勇者の成すべき道を通ろうとする。
「ふははははっ!!!!ちっぽけな人間ごと…って…」
魔王は俺を見た瞬間固まってしまった…いや。
正確に言えば俺の後ろ仲間だろう。
…倒してきたモンスターはもう底知れない程となったのだが、倒していくたびに、なんらかの理由をつけてモンスター達は仲間になっていった。
それが重なっていき…。
スライム、ツチノコという雑魚的から、精霊であるウンディーネやサラマンダー、シルフにノーム。
上級モンスターであるサキュバスやメタルスライム。
多分、生息している全土のモンスターがついてきてしまった。
これだけの数が集まってしまえば、もう魔王には勝ち目がない。
城を埋め尽くすモンスターの数。
「魔王、これでお前の野望も終わりだぁああああああああああああ!!」
百種類をも越えるモンスターとともに、俺は魔王へ立ち向かっていった。
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五秒後、魔王の野望はついえた。
「やった…おぃ!魔王を遂に倒したぞ!!」
仲間のモンスターから、数々の歓喜の声が上がり始めた。
「うぉおおおおおおおやったぁー!」
「勇者、僕達の夢は叶ったんだね!」
「素晴らしいです。あの頃とは成長しましたね!」
ゾクゾクと上がる中。
「お前達の活躍は、耳にしていた」
魔王の声が聞こえた。
「魔王は孤独である。それは、我と同じように、モンスターも同じなんだ。モンスターも一人で歩いてゆくからこそ、一人前と呼ばれる…」
「しかし、お前達は違った。力を合わせるからこそ、本当の力を生むというものを証明して、種族を超えた絆を生み出したのだ。」
「ま、魔王…」
「我はお前達が羨ましかった……孤独に生き続けた我にはとても眩しかった…」
魔王は、自分の胸のうちを悲しい顔で語った。
「魔王、お前はそんなことを思っていたんだな…」
「我も、お前達と旅をしてみたい」
「…いいよ。俺は、「旅をしたい」そう言ってくれモノ達の覚悟を認めて、ここまで絆を深めたんだ」
「勇者…」
「魔王、お前も永遠に続く俺達の旅についてくるか?」
「…あぁ、我も、お前達が生み出した絆の一員になってみたい」
「よし、それじゃあ行こう!!」
「「「おぉおおおおおお!!」
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勇者の身が滅びるまで、の旅は続いた。
今ではモンスターとの共存はあたりまえになってきている。
それは、一人のひ弱な人間と雑魚敵として有名なスライム達から始まった、絆の旅。
勇者は、この世界に、生きている者が手と手をとって生きていくことを教えてくれたのだ。
そして、勇者の死に涙を流したものは、数知れないという。
END....