僕の妹、天田梢(あまたこずえ)


幼い頃から、病気をわずらって、人生の大半は、病室で過ごしていた。


きっと、治るんだと・・・。そう思っていた。両親だって、幼い自分に、そう言い聞かせてくれた。



だから、毎日、病室へ通って。 雨でも、嵐であろうとも。


妹は、笑顔で出迎えてくれた。


「ありがとう」






「主君(あるじ)、私・・・引っ越すことになったんだ・・。遠くの方に・・・。」


春の始め、一ヵ月後に引っ越すことになった。  高原秋(たかはらあき)にそう告げられた。


目に涙を溜めて。







引越し当日。


昨日、手土産と一緒に、秋と秋の両親が訪れた。


秋は、やはり泣いていた。  でも、それは仕方のないことで、僕は彼女の背中をさすってあげることしか、できなかった。





そして、夜遅く、秋はかえらぬ人となってしまった。


連絡をうけて、崩れ落ちた。




---遠くで死んでしまったら・・・助けることなんて・・・できないじゃないか・・。


何も・・・できないじゃないか・・!---






恋人、秋が死んでから 数ヶ月が経った。  憂鬱だった頃よりは、随分落ち着いている。


梢の元へは、毎日向かっている。


いつになったら、退院するんだろうか。


もう何年、あの部屋に閉じ込められているんだろうか。


梢が喜ぶものを買っていこう。


梢が喜んでくれたら、僕は、それだけでいいから。


身近な人が、一人死んで、怯えていた。 


また、そうなるんじゃないかと。


病室のドアをそっと開ける。


梢の横に座って、今日の出来事を話して、梢が大好きなチョコレートを手渡した。



梢は、今まで見たことのない、悲しい顔になっていく・・・。


「お兄ちゃん。あのね・・・。もう、大丈夫だから。いつもいつも・・・・私のためにありがとう・・・。でもね・・・もう、大丈夫なの・・・」


 


それが、僕が聞いた。最後の言葉だった。