腐敗した汚職警官の懐のような夕闇。
 パトカーの赤いサイレンが
 フリージャズの不協和音で振動する壁に飛び散った無言の血液と重なり、
 何事もない日常として通り過ぎる。
 硬直していく死体を覆う朝陽がくちびるに鮮やかな色をあたえる。
 
 売人に銃を向ける警官は麻薬組織のひとり。
 そうなら、その売人は警官というのが物語の約束。
 そんなシナリオを作りながら麻薬組織のボスと検事が、
 ワインを手に語り合うステーキハウス。

 そのことを探り当てた捜査官の手に、
 歪んだ世界が遠くまで見渡せる望遠鏡のような注射針を刺した無数にある跡。
 警部から捜査官に渡される白い粉。 


 腐敗した汚職警官の懐のような夕闇に捜査官が横たわる。
 フリー・ジャズのサックス奏者の名前が彫られたブランコが、
 風がないのにキーキーと揺れている。


 

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