黒昏の白蛇の山で目をひらく左右にゆれるコインの叫び


 色が抜け落ちてしまった玄関に真っ赤な靴の息のあやうさ


 振り向かぬ老婆の手には空をみて口を開けてる魚の頭


 電線が風になぶられ影伸ばす老婆は闇に足をはやめる


 自販機が唸るしずかな病院で古傷だったあの人に会う


 漂った波打ち際の流木を見知らぬ人のメールと思う


 眠れない通夜の布団に寝転んだ夢をみているはずだと、夢か


 乱暴で壊れそうだと叫びたい身体の位置にすべらす愛撫


 混じりあう体温薫るSEXはスパイ容疑で逃亡の熱


 真っ暗な世界に浮かぶ真っ直ぐなガードレールではじけた狂気


 窓際で殺人犯と告白しのたうつイカの足、遠いブイ


 なけなしの金をはたいたあでやかなフカーフを巻き老婆は変る


 スカーフのような少女が褒め殺す男の目には色づく勇気


 逃亡の海で背伸びし指先が空色になるその先をみる


 正月の話しをはじめ粉雪が焦点ずらし視界が溶ける


 大切なものを失くして被害者はひとりでいいとアルバムでみる



 

吉田 修一
悪人