シンプルに波紋拡げる水面は凍らぬ限り複雑である


 積みあがる埃をときの肉として夜の水路はすべてのみこむ


 美しい涙は乾き悲しみの汚れちまった俺をのこして



ヨシフ ブロツキー, Joseph Brodsky, 金関 寿夫
ヴェネツィア―水の迷宮の夢

 目覚めると道は水路になっていた

 街が映った水面のうえにはボート

 空が映った水面を進む

 何年が過ぎても水面に埃が溜まることはない

 

 オールをあげて陽に輝く水飛沫

 あっという間に水面に落ちて

 あの水飛沫を飲み込んだ

 何年が過ぎても水面は一体化しているまま


 悲しい日には人知れず

 涙を流し

 水面は飛沫をあげて

 なにもないかのように

 空を映して

 ただそこにある


 人は遠い遠いむかし水だった

 そう聞いたことがある


 霧が深くなってきた