アノニマス | 浮気願望、始めまし…

アノニマス

小学校三年生

合唱コンクールという忌々しい行事

俺はそんな事をしている場合じゃないんだ

くにおくんのドッヂボールをやり込みたいんだよ

山本の家にある山本のファミコンで

山本の母に出されたジュースを飲みながら

山本をコテンパンにしたいんだよ

しかし 合唱コンクール期間中

練習時間は放課後に割り当てられる

俺のくにおくん返ってくんのか?

溜まりに溜まった5時限分の若い怒りは行き場を失い

やむなく合唱で放出される不満の咆哮は

「大江戸君が1番ハキハキと口を動かしている」という

決して「1番上手に歌えている」とは言われない謎の評価へと変貌し

最前列を獲得するに至った

なんてことをしてくれたんだ

“個の表出“という死刑宣告

ベルマークも

赤い羽根募金も

私は常に左右と比較し 標準化に努めた

特段 人より優れてはいない

だからこそ 均衡に重きを置き

個の並列化に努めた

俺はアノニマスな状態で居たいんだよ

何者にもなりたくないし

何者になるのかも想像出来ないのだ

内発的な怒りは幼稚さを伴って理論化も言語化も出来ず体内を渦巻き

矛盾を抱えた合唱の咆哮は響き渡り続け隣の吹奏楽部から怒られた



合唱コンクール当日

母が用意したのは 柄の入ったクリームカラーのニットセーター

「お母さん、学級のお知らせに書いてあったよね。コンクールはみんな白のカーディガンを着て来なさいって」

「それも白いでしょ。それで行きなさい」

なるほど

俺は今日死ぬ

こんな大雑把な内輪差殺人あるのか

アノニマスの願いは不浄なものとなり

葦の原野を歩く事は最早許されないだろう

だが 生とは闘争である

私は気丈にも楯突き

父に殴られ2秒で玄関を出た

朝の7時に子供をボコボコにする父がどこにあるというのだ

安岡力也だって自分の子供にはホタテのロックンロールを歌い聞かせるぞ

学校に辿り着くと

綺麗に“陳列”された白のカーディガンが

煌々と目に映った

「あれだ!俺はあの中に入り、何者でもない何者かになりたいのだ。それなのに」

俺はアノニマスな状態で居たいんだよ

「大江戸!それ黄ばんでるじゃん!」

「白くないじゃん!」

無邪気な銃弾である

「大江戸君。これ黄ばんでるじゃないの!先生、白って言ったでしょう!?」

俺は今日死んだ

教師にまで言及され

とても嫌な気分だった

集団的かつ共感的という“ノリ”が全ての世界から追放された

黄ばみが会場のライトの黄色味を吸って

白さからさらに遠ざけた




渋谷は華やかだ

人に溢れ活気付いている

彩りを身に纏って人々が往来する

その流れの中にいると

自分も幸せになれているような気分になる

しかし 少し立ち止まって

行き交う人々の顔をジッと見ると

大枠で捉えていた彩りは鳴りを潜め

モノクロへと変わる

大人になるとは

成長とは 喪失なのだろうか

未だ 考えている