ジャパネット岡田 | 浮気願望、始めまし…

ジャパネット岡田

昼過ぎ

諸用で北千住に出向いた俺は

用事を済ませ 荒川の河川敷高架下にいた

高架を走る電車

喧々たる野球少年達

川辺で法螺貝を吹く人

ご婦人を散歩させる犬

その光景を眺める

何かがおかしい

俺は身を屈め もう一度注意深く周囲を見回した

川辺で法螺貝を吹く人

川辺で法螺貝を吹く人

川辺で法螺貝を吹く人

トランペットかな?

指紋が無くなるほど指で目をこすったが

法螺貝

その時だった

「おにーちゃんはなに?美容師さん?金髪いいねー」

草むらから突然おっさんが飛び出してきた

ポケモンかと思い臨戦態勢をとる

「なに、法螺貝は初めて?」

勇気を出して初めて行ったエッチな店のオネーサンみたいな事を言いながら

おっさんが無音で近づく

日頃の怒りを込めた握りこぶし一個分くらいの距離感

臨戦態勢の俺に隙は無かった筈

このポケモン 只者ではない

「おにーちゃん名前は?」

「大江戸です」

「変わった名前だなぁ。でも覚えやすくていい名前だねぇ」

警戒しすぎだろうか

気さくな近所のおっさんなのかもしれない

「俺の名前なぁジャパネットタカタの岡田。ジャパネット岡田」

0.1秒で脱出の体制に入る

しかし俺はハッとした

何故今まで気が付かなかった

ここは

足立区

身ぐるみはサロンパス一枚まで全て剥ぎ取られ

区のフリーペーパーではオレオレ詐欺の求人が掲載され

アスファルトは吸殻で見えなくなり

ブラジル人が早朝からパチ屋の抽選券配りに並び

川沿いに法螺貝を吹く謎の人物が現れ

ジャパネット岡田に遭遇する

常在戦場の地だ

俺はどうにも収まらない後悔と失意に駆られたが

西麻布のフレンチで杏に告白されるという妄想を0.5秒で再生し

冷静さを取り戻した

しかしその間にもおっさんは大江戸の精神領域を侵犯してくる

若い頃にハーバードに行こうと考えていたというおっさん

もし卒業してたら世界を動かすアイビーリーガーですね と応答すると

野球じゃねえよハーバードだよニイチャン と力強く言い放つのだ

絶対ショー◯Kの経歴詐称問題をワイドショーで見て覚えただけだなという

確信すら追いつくことは叶わず

絶対おっさん時空域 すなわち

『ユア・タイム』が形成されつつあった

相原くん目黒さんおめでとうございます!

おっさんは留まるところを知らない

なんか面白い事を言おうとする度に

高架橋に電車が通り

ただの口パクおっさんと化す

「@○×△☆♯♭●□▲★※!!」

おいおいゼンマイ人形みてーじゃねーかどうなってんだ

もはや話す内容など超越している

法螺貝が遠くに聞こえ

ジャパネット岡田が現れ

話のヤマで電車が通過し

短いスパンでむせるおっさん

もはや現実では無いのではないか

ここから虚構空間が侵食し

世界はバラエティに染まるのか

俺はこの状況を打開すべく

ていうか杏って既婚者じゃねーかざけんな!という怒りを原動力に

荒川河川敷を脱出

満身創痍の身のまま公用車に乗り

湯河原へと向かったのだった













~完~