現在、地域ごとに適切に最低賃金が設定されています。

しかし、全労連と日本共産党は全国一律1500円の最低賃金のアップを掲げて運動しています。

 

1.最低賃金の効果

 

前回のブログで経済学は最低賃金についてどう考えているのかをスティグリッツやクルーグマンの見解も紹介しました。

 

 

 

一言でいうと最低賃金は設定の仕方によっては、労働者にとってプラスになりますが、高く設定しすぎると企業の人件費コストの圧迫により、倒産とその企業の従業員の失業を招くというものです。

 

では、実際に日本ではどうなっているのでしょうか?

 

 

上の図を見てもわかるように2015年の平均798円、2021年の平均930円最低賃金の設定によって、最低賃金あたりの賃金は上昇しています。

 

これは、下の図の均衡賃金以下の設定による効果だといえるでしょう。

 

 

 

2.最低賃金は正規労働者と非正規労働者のどこに影響があるか?

 

では、この最低賃金は誰にとってプラスになっているのでしょうか?

 

下の図は、正規労働者と非正規労働者の年齢ごとの賃金です。

 

 

見て分かるのは非正規労働者は女性に多く、賃金が低いのは男女ともに20~24歳台ということです。

つまり、女性と学生など若年労働者にとって最低賃金は意味が大きいと言えます。

 

 

3.非正規労働の多様さ

 

では、その人たちはどういう理由で働いているのでしょうか?

 

単数回答、複数回答ともに「自分の都合の良い時間に働きたいから」「家計の補助・生活費・学費等を得たいから」が多い。現在の仕事が最優先というわけではなく、ほかの制約の中で収入を得たいとの希望がくみとれる。それと密接に関連する選択肢として「通勤時間が短いから」がある。実はこの理由が重要な意味をもつ。

 

 

 

これはリクルートワークスの2022年の調査ですが、これらの労働者は、現在の仕事が最優先というわけではなく、ほかの制約の中で収入を得たいとの希望がくみとれます。家計の補助、学費等という理由と密接に関連する選択肢として「通勤時間が短いから」のです。

 

このリクルートワークスの調査では最低賃金と離職の関係も示しています。

 

 

それでは、最低賃金の引き上げは良いことだけなのだろうか。実は、最低賃金の引き上げが雇用の喪失につながるとの主張も存在する(注3)。たとえば、最低賃金によって賃上げが必要になるのであれば、企業としては賃上げが必要な層を中心に人員削減を行う可能性もある。そこで、最低賃金からの乖離額と、解雇や雇止めといった会社都合退職の発生確率との関係について分析しよう。

図2には、区分ごとの雇用者の会社都合退職の発生率を比較できるよう示している。最低賃金からの乖離額が200円未満の層では、最低賃金が賃上げに直接的に影響を及ぼさない層(最低賃金との差が400~999円)と比較して、会社都合退職の発生率が0.28~0.46倍低い。

 

つまり、日本の場合、最低賃金を上げるとその辺りの従業員を増やし、賃金の高いところを補充しない、または解雇しているということなのでしょう。

 

このことは、このグラフからもわかります。

 

 

最低賃金を上げるとその辺りの労働者が増えるという現象になっているのです。

これは人件費を上げることができない企業が多いということの表れでもあります。

 

 

4.近年の倒産の増加は何が原因か?

 

では、どうしてこうなるのでしょうか?

 

昨年度は9年ぶりに倒産件数が増加しました。

それは人手不足が原因ということでした。

 

人手不足倒産してしまう会社の多くは、資金面での不安を抱えているなど、体力不足であることが挙げられます。

2024年問題に対応するため、大手建設企業や物流企業では、社員確保を急ピッチで進めています。

しかし中小企業は賃金など条件面で大手と見劣りする場合が多く、人材獲得が困難な状況です。

人手不足で外注委託が増えてしまい、借入金が膨らんで手元の資金も足らなくなり、債務超過に陥り倒産してしまうケースもめずらしくありません。

 

 

 

最低賃金を均衡賃金以上に設定すると、こういうことがさらに加速します。

賃金を上げることのできない企業から倒産していくということです。

 

 

5.地域による最低賃金の格差

 

倒産を地域別にみると、件数は関東が圧倒的に多いのですが、増加率を見ると北海道、北陸、中部、九州が高いのがわかります。

 

 

都市部と地方ではどれくらい賃金分布が異なるのでしょうか?

東京都と徳島県を比べたグラフがあります。

 

 

これは2002年と2017年の比較ですが、どちらも最低賃金のところにべったりと労働者が張り付いている状態です。

しかし、その額は東京都958円、徳島県740円と200円も差があります。

 

 

全国一律1500円の企業倒産に与える衝撃はかなり大きいと思えます。

 

この現象について、日本は生産性が低いからであって、だから賃金が上げられないのだ。そういう生産性の低い企業は市場から退出すべき、会社の新陳代謝があってしかるべきだという経済学者もいます。

 

全労連と日本共産党の主張は中小企業の保護のようですが、そういう経済学者の主張と同じ結果を招くことになるのがわかっていません。いえいえ、実際に賃金アップとともに保護策を講じよとも言っていますともいうでしょう。

 

しかし、そんなことをするなら1500円一律要求という現実離れし、なおかつ倒産を増やす政策を改めるべきでしょう。

 

このように現実と経済学の原理を無視する全労連と日本共産党はどうなのでしょうか?

 

でも、まあ、そういう現実離れした案に賛同する人が多いのは、今がマルクスの分析したのと同じ資本主義の市場経済が主流の世の中だからでしょう。

資本主義は、経済格差を生みやすく、暴走しやすい経済システムです。言うならば、うまく手を入れないとポンコツの機械のようなものです。

だからマルクスの理論を引っ張り出す日本共産党や斎藤幸平のような人に今でも一定の支持が集まったりします。

 

しかし、ソ連・東欧の社会主義の失敗や、中国・ベトナムのように資本主義経済をうちに抱える政策に転換した社会主義国もあります。もう純粋の社会主義国というのはキューバと北朝鮮(これを何主義というかは議論がありますが)くらいでしょう。

 

社会保障など社会主義的な政策を今の社会に取り入れることもありますが、あくまで北欧のように資本主義経済の原理を考えるべきでしょう。

 

日本をどういう社会にしたいのか?

世界が歩んだ歴史と経済・社会を分析すべきです。

そして倫理的な資本主義のあり方を検討するのは、多くの人々がもっとも健康で文化的に生きる選択肢なのです。