東京都知事選はいろんな意味で想定外だったと思う。
告示日までに48人分のポスター掲示板しか準備していなかった都選挙管理委員会。49番目以降に届け出た候補者にはクリアファイルなどを配布し掲示板の枠外にテープなどでポスターを貼るよう依頼した。
しかし、選挙期間中に対象となった候補本人が都などを相手取り計約2千万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴。複数の候補者から都選管の不備に不満が出た。
NHK総合テレビだけで計約11時間と「長すぎる政見放送」も注目されたが、女性候補がシャツを脱ぐ姿が放映されるなど一部の「奇抜な内容」に批判が集まった。
また、4月の衆院東京15区補選では、つばさの党による妨害事件があったばかりだが、今回の選挙戦でも、一部候補者の街頭演説の際に、集団で執拗なヤジを飛ばすことが繰り返された。
一枚の掲示板に何枚もの同じポスター、犬のポスター、風俗店の連絡先があるポスター、スペースが足りなくてクリアファイルを渡したことなど、ポスターと公選法の問題があった。
政見放送では、ストリップまがいの映像や通常なら放送NGの映像など無法地帯が広がった。
演説中にヤジや合唱での妨害なんかもあった。
これまで暗黙の了解だった倫理観が壊れていったのだろう。
そして、ほぼ無名だった石丸伸二氏のSNSと多数回の演説による躍進だ。
無党派層では一番多く支持を集め、この図の通り、年齢別では10代、20代、30代では圧倒的に強かった。
逆に60代、70代では支持が低かった。
街頭演説では、「政策はネットで見てください」と言い、「東京を動かそう」「かっこいい大人を見せよう」と、抽象的なスローガンを繰り返し、熱狂的な支持を集めた。
蓮舫氏が無党派層の支持を石丸氏よりも集められなかったのは共産党の支持を受けたからだという批判が始まっている。今回も読売新聞が震源地のようだ。
しかし、
共産党の小池書記局長が敗戦した蓮舫氏にねぎらいの言葉を贈りました。「最高の候補者だった。戦いはこれから。蓮舫さんがいなくなった参議院はさみしいけど、頑張って政治を変える」
と言って、共産党の小池書記長と蓮舫氏は抱き合った。
こういう姿が、ネットを通じてどういう印象を市民に与えるのか考えているのだろうか?
とんだ見せかけの友情のアナクロニズム?
東京の維新の会は結局動けず、選挙後、橋下徹氏が「石丸氏に頭を下げて勉強させてもらうべきだった」と批判していた。
政党のあり方を、ネットに親しんでいる若い世代が相手にしていないということだろう。
「裏金問題」の批判はことどとく不発に終わった。
東京都知事選が、裏金問題とあまり関係ないことくらい誰でもわかるけど、何の世論調査を信じているのか、自民党以外は裏金問題批判で票が集まると勘違いしたようだ。
東京都知事選は、放送局などの主なメディアでの政策論争もほとんどなかった。
メディアも壊れてしまっているのだろう。
でも、果たして、これからポスター掲示板ですら、どうにかできるのだろうか?
東京都知事選はいろんなものを壊したと思う。
でも、新たなものが組み立てられるとは思えない。
しかし、石丸氏をめぐってこういう場面とネットの声もあたった。
また、ゲストで出演した元乃木坂46でタレントの山崎怜奈が公約に関する質問をした際には「大変申し訳ないのですが、前提の下りが全く正しくないなというふうに感じました」ときっぱり。山崎が「教えていただけますか。すみません、不勉強で…」と詫びる場面もあった。
ネット上では「石丸さんの言ってることは嫌味ではなく、平常運行」「石丸さん 宮根さんにもエッジが効いてる」「喧嘩勃発しそう」という声や、山崎に対しての態度は「見ていてこの人怖いと思った。石丸さん、応援してたけど残念だ…」「大人としての対応ってものがあるだろうに。可哀想だった」「石丸さんって言い方が人から嫌われる言い方だとちょっと思った」などと賛否さまざまな声が上がった。
ネットで急激に熱くなった話題は、ネットで急に冷めやすくもある。
石丸伸二氏が、ポスターの不払いと市会議員への名誉棄損で敗訴したのは、石丸氏の論理が負けたのではない。
もともと市長という権力を背景にした強弁が裁判所でアウトと判定されただけなのだ。
石丸氏は蓮舫氏を上回る得票を都民の意思の可視化だと言っている。
はたしてそうなのだろうか?
この得票には、石丸氏の政策と論理立ての誤解も上乗せされているように思う。
もし、当選していても、安芸高田市と同じようなことが繰り返されたのだろうと思う。
ネットでの都議会のエンタメ化と、強弁による自滅。
当選しなかったのは都民にとって幸せだったのかもしれない。