カール・マルクスは『資本論』で、労働力の価値と交換価値について説明しています。

以下にその要点を示します。

○労働力の使用価値:
 

労働力は、モノを役立つものに変化させる力のことです。つまり、労働者がもつ「働く」という商品のことです。
労働力の使用価値は、具体的な労働によって生み出される価値です。例えば、パンを作ることや服を作ることなどが該当します。
使用価値が高いということは、労働者の能力が高いということを意味します。


○労働力の交換価値:
 

労働力の交換価値は、賃金の額として表されます。賃金は、労働者が生活を維持するために必要な費用を支払うためにもらいます。
労働者は、労働力を売って賃金を得ます。賃金は、生活費のためにもらうのです。
労働力の交換価値は、労働力を維持するための生活費として考えられます。


○搾取:
 

マルクスは、労働者が搾取されていることを指摘しています。
資本家は、労働者から生み出される剰余価値を利用して利益を得ています。
労働者が労働力を売り、賃金を得ることで、資本主義的生産が成り立っています。
『資本論』の第1巻第6篇第17章「労働力の価値または価格の労賃への転化」で、労働力の価値と交換価値について説明しています。

この節では、①労働力の価格が労働力の生産物の価格よりも小さくなることや、②労働力の価値が労働力自身の再生産に必要な労働時間によって規定されることが書かれています。

では、①大谷翔平の労働力の価格は労働力の生産物の価格よりも小さくなっているのでしょうか?

また、②大谷翔平の労働力の価値が労働力自身の再生産に必要な労働時間によって規定されているのでしょうか?

大谷翔平選手の年俸は特殊な事例であり、単純な商品の生産とは異なります。

以下に、大谷翔平選手の年俸について説明します。

大谷翔平選手は、2023年シーズンオフにロサンゼルス・ドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円/1ドル145円換算)の契約を締結しました。大雑把に一年に直すと年収100億円です(所得税と住民税が約半分です)。
この契約は、MLB(メジャーリーグベースボール)だけでなくプロスポーツ史上もっとも巨大な契約となりました。
大谷翔平選手の年俸は、単なる商品の生産に費やされた労働時間だけでなく、彼の特別なスキル、人気、市場価値、競争状況など多くの要因に影響されています。彼は野球選手としてのスキルや知名度を持ち、多くのファンから支持されています。そのため、彼の年俸は単純な商品の生産とは異なり、マルクスらの労働価値説の枠組みだけでは完全に説明できないものとなっています。

したがって、大谷翔平の労働力で作られている商品とは何でしょうか? 直接的には大谷翔平が出場して観客に喜びや感動を与える試合でしょう。大谷翔平一人でその試合を作っているのはなく、協業ですが、生産物としてはその試合とそれに関連する様々なものでしょう。

それではその生産物の価格と大谷翔平選手の労働力の価格はどちらが大きいのでしょうか?

 

大谷は、エンゼルス時代に1年間に「グッズの売り上げや肖像権など」で2500万ドル(約36億2500万円)の売り上げを球団にもたらしたという。
 同紙は「ドジャースなら2倍は見込める」と、大谷が1年で稼ぐ金額は5000万ドル(約72億5000万円)に上昇すると予想している。

 

 

しかし、大谷翔平の契約額を年俸に直すと約100億円になります。

見込まれている約72億円では足りません。

ドジャースの支出超過です。

 

①大谷翔平の労働力の価格は労働力の生産物の価格よりも小さくなっているのでしょうか?

 

このマルクスの考えは当てはまりません。

次に、②大谷翔平の労働力の価値が労働力自身の再生産に必要な労働時間によって規定されているのでしょうか?についてはどうでしょうか?

 

年収100億円、税引き後で約50億円という年俸は、大谷翔平とその家族の再生産に必要な費用をはるかに超えているでしょう。

つまり、大谷翔平が通常の労働をしている時間で、大谷翔平の家族を何回もの生涯を経験させられることができるのです。

 

大谷翔平には、マルクスの労働価値説がまったく通用しないのです。