1.各国の収入構成はどうなっているのか?

 

どうして、北欧は教育、社会保障にあんなお金をかけられるのか?

 

 

日本と比較すると、8デンマーク、6フィンランド、12スウェーデン、14ノルウェーは社会保障負担率より税負担率が圧倒的に多いのがわかる。

 

 

では、その税負担ではどうなっているのだろうか?

日本の収入構成はドイツに似ている。

スウェーデンと日本を比べるとこんな感じだ。

 

個人所得税 日本8.8%<スウェーデン18.1%

法人所得税 日本5.5%>スウェーデン4.4%

消費課税  日本9.9%<17.9%

資産課税等 日本3.9%<スウェーデン9.0%

 

  

社会保障負担はノルウェーが高く、個人所得税はデンマークが極端に高いが、北欧はどこも日本と比べると所得税と消費課税が高い。

 

つまり、所得税と消費課税を国家収入の基軸に置いている。

 

 

 

 

1990年以降の日本と欧米の収入推移は下のようになっている。

 

 

世界で見ると日本の消費税は最も低い水準になっている。

 

 

 

北欧では1990年代に25%になっている。

 

 

一方、法人税を上げよという野党の声はあるが、日本はすでに高水準になっている。

 

 

ただ、所得税を上げるには、賃金アップも必要だ。

GDP成長率、賃金伸び率ともに日本はギリシアに次いで悪い。

 

 

この賃金の伸び率の低さも幸福度の低さに影響を与えていると思われる。

 

 

2.経済格差の問題

 

所得格差と経済格差を表すジニ係数の相関をとると、日本は北欧諸国と比べて、ジニ係数が高く、一人当たりGDPが低くなっている。

 

 

 

この経済格差の問題は、日本では生活保護の利用が少ない、最低賃金が低い、年金額が低いことなどが要因と言われている。

 

 

人口比に占める生活保護利用率は、日本1.6%、北欧のスウェーデン4.9%より低い。

 

これには、捕捉率(ほそくりつ)といって、生活保護制度の対象となる人の中で実際に利用している人の割合は2割から3割といわれている。制度の必要な知識が大多数の国民に届いていないのが現状の課題だ。

それは、生活保護制度の詳細を知る機会、教わる仕組みがないことが原因の1つだ。

これは生活保護に限らず、確定申告のやり方や失業給付などにも共通していえることでもある。

 

 

 

最低賃金についても、日本は世界各国より低い。

 

 

このあたりの問題も所得税、消費税の値上げによって解決できると思う。

 

そのためには、国民への納税教育が必要だろう。

所得税や消費税を納めることを世代間、所得間格差をセーフティーネットで補うことだという理解が国民になかになければ実現しにくい。

 

消費税、所得税を上げて、医療、社会保障、教育を限りなく低負担にしていくことが北欧をモデルとするメリットになるだろう。

 

北欧三国は税金や社会保険料が高いものの、「国が責任を持って国民の面倒をみる」という考えの下で政策が行われています。
 
学費や医療費の無料化、各種手当や援助など、国民に分かりやすい形で社会サービスが提供されているため、負担が大きくともリターンが実感しやすくなっているのです。
 
また政府や役所の透明性が高く、高い負担率にも関わらず不満が出にくいと考えられています。
 
これに対し、日本では税金の使途や増税の理由が明確になっていないことが課題となっています。待機児童問題や年金受給開始年齢の引き上げ、生活保護費削減など、国民が公的サービスを実感しにくく生活に不安を持ってしまうことも解決すべきポイントといえるでしょう。

 

 

そのためには、生活保護や最低賃金のようなベーシックインカムのような整備も必要だろう。

 

 

日本国民が貯蓄に向かう、日本企業が内部留保に向かうのはどちらも将来不安によるものだろう。

 

国民の不安をなくすことは、貯蓄より納税に向かうだろう。

 

また、経済の国際競争力を高め、リスクを恐れず企業や設備投資、製品開発を活発にすることが内部留保より企業を投資に向かわせることができると思う。

 

 

3.国防費と国家の支出

 

野党のスローガンに、軍事費削って社会保障にとか、教育にとかいうものがあるが、それはどうなのだろうか?

 

 

日本では、国防費をGDP比2%にするかどうかで議論になっている。

 

 

北欧では、1990年代にGDP比3%水準の国もあったが、徐々に下がってきていた。

しかし、2000年頃から増加に転じている。

 

 

ロシアのウクライナ侵攻があってからは軒並み2%を超える水準になっている。

ロシアがGDP比6.1%という戦時経済体制にしている以上、それもやむを得ないことなのだろう。

 

 

 

日本もまた、ロシアの隣国である。

実際に戦時経済を続けている北朝鮮とも、軍事大国の中国とも日本は隣国である。

 

 

このことも無視できないし、北欧のフィンランドが去年、スウェーデンが今年、NATOに加盟した。

フィンランドはEUには加盟していたが、NATOとは距離を置いていた。

それはロシアとの二度の戦争を経験しており、ロシアとの中立を意識してのことだった。

 

それらの国々が軍事同盟を意識しなければならない世界情勢になっている。

2015年のノルウェー、2018年のスウェーデンに続いて、今年、デンマークも女性を徴兵の対象にする。

人口の少ない北欧が自分たちの国をそうやって自国を守ろうとするのは、教育や社会保障で国民に安心を与え、経済格差を作らないようにする政策と互助の精神が共通するのだろう。

 

北欧はウェルビーイングを重視する国々である。

 

4.投票率の高さ

 

それは、「今、ここ」で健康で文化的で平等な世界を作ろうとする試みだ。

資本家階級がいなくなれば、やがてみんな自由になるユートピアが待っているという共産主義の考えとは違う。

 

北欧はどこも国政選挙の投票率が高い。

 

 

北欧以外の上位の国々(オーストラリア、ルクセンブルグ、ベルギー、トルコ、オランダ)では強制投票制度が採用されている。もしくはかつて採用されていたので、純粋に自発的な投票における投票率という意味では、北欧諸国の投票率が国際的にみて非常に高いことがわかる。

 

どういう人々が投票するのか、もしくは投票しないのか?

 

 

デンマークの例でみると、高齢者とそうでない年齢層で日本との違いがわかる。

 

日本では若い人ほど投票に行かないのだ。

この違いは、学校教育にあるそうだ。

 

北欧は「政治家と市民の距離が近い」と言われており、小学校~大学まで、学生が政治家と直接話す機会は非常に多い。学校生活の中で「社会へ影響を与える方法」や「議論の仕方」などが伝授されていくのだろう。

そうした小さな政治的な成功体験の一つに、写真のようなポスターやプラカードの製作があげられる。メンバーで集まって社会課題解決を訴えるメッセージを手書きして、街中に貼ったり、抗議活動に参加したり、SNSで広めたりすることによって、メディアで報道されて注目を集める。こうした一連の体験が「自分は社会に変化を起こしている」実感を得る機会につながり、政治や選挙への関心につながっていくのだ。

 

 

 

日本と違い北欧では学校で政治の教育をする。

日本の場合、どうしてそうならないかは、池上彰氏によると、1960年~70年代の大学や高校の学園紛争で学校も保護者も極左の政治に触れることを恐れて、学校と政治に境をつくったからだそうだ。

 

----どうして、日本では若者が政治に興味を持ちにくいんでしょう。


 実は、北欧だけではなく、アメリカだって高校生や大学生で政党の活動家になる人が、ごく普通にいるんだよね。日本の場合、1960~70年代に学生運動がものすごく激しくなってしまって、当時の政府がこれをなんとか抑えようと、高校生のうちから政治意識を持つとまずいと抑圧してきた部分があったんです。1969年には高校生の政治的活動を制限・禁止することが法律で定められました(2015年廃止)。あるいは、「うちの子どもが過激な学生運動にかかわって人を殺したり、殺されたりしたら大変」と、親も必死になって政治と関わるのを止めるということがずうっと続いてきました。
 そういうものが相まって、高校生で政治についていろいろ言うと、「意識高い系」なんて揶揄するような状態になってしまったんだね。結果的に、日本の若者たちは、世界でも極めて特異な、政治について話をしない、話をするとまずいなという同調圧力によって支配されているという現実があるのです。

 

 

 

5.終わりに

 

これまで、共産主義国家としての中華人民共和国とウェルビーイングの国としての北欧諸国を見てきた。

 

中国が考える共産主義国家、それは資本主義を生産手段で階級社会であると捉え、その階級を廃棄することこと人間が自由になると考える共産主義思想の国家を目指すことだ。

そのためには生産力を向上させるために資本主義的生産も活用しないといけない。それで、中国は資本主義的企業を国家のなかに抱えて、共産党による管理国家を形成している。

経済格差を示すジニ係数が高いのは共産主義への過渡期であるという説明だ。

 

これまで中国では、鄧小平が「一部の者や地域を先に豊かにさせ、その後豊かな者が貧しい者を助ける」という「先富論」を進めてきたが、習近平政権のもとでは「共同富裕(少数の人の裕福ではなく人民全体が裕福になること)」の実現に向けている。

 

しかし、今のジニ係数は高く、騒乱が起きるラインだとも言われている。

 

 

しかも、資本主義的開発独裁の初期のようにその格差は拡大している。

 

 

 

 

けれど、共産主義モデルの中国はこの方向を続けることになるのだろう。

ソ連・東欧の社会主義が失敗した後、プロレタリア社会の実現のためにはこれが残された唯一の方法だろう。

ベトナムも似たような路線を歩んでいる。

 

イスラム系のウイグル人を監視するという名目で、中国では監視カメラが世界一の水準で国民を見張る。

プロレタリア社会の自由を目指しているにもかかわらず、表現の自由は、資本主義の復活防止のために制限せざるを得ない。

しかし、9000万人を超える共産党員を育成し、社会の隅々に共産党の思想とボランティア精神を浸透させる。

共産党員は頭脳が優秀なだけではなれない。国家に奉仕する精神が必要なのだ。

それが、目指すべきユートピアとしての共産主義国家である。

 

 

一方、資本主義システムを管理できる経済システムとして、経済格差も縮める方法がウェルビーイングの北欧モデルと言えるだろう。

互助の精神を国民全体で共有する。

そのためには教育、医療、社会保障を限りなく無償にする。

一方で公共精神の税負担は重くする。

そして、有権者の全世代が経済や政治に関心をもつこと。

それは民主主義の第一歩であり、ウェルビーイングの入り口なのだろう。

 

どちらが困難な道なのかはわからない。

 

われわれが中国や北欧から学ぶことは多いと思う。