これまで、未来社会としての共産主義国家を、中華人民共和国の事例でまず考えてみました。

かつては、資本主義を批判し、共産主義の国家を待望するという時代がありました。

資本主義を批判し、マルクス、エンゲルスの考えた「共産主義」の国家を実現しようとしたのが、レーニンでした。その革命はどこか間違っていたのか、それともマルクスの考えたユートピア思想自体が間違いだったのか?

ヨーロッパの共産党と日本の共産党の出した結論はなぜか違うようです。

 

いずれにせよ、ソ連の消滅、東欧諸国の崩壊という形でヨーロッパでは終わりました。

でも、中国ではまだその実験が続いています。

ただ、理想とする未来社会はまだ見えていません。

 

 

1.現状の不幸の原因をもとから変える共産主義ではなく、理想の状態を追及するウェルビーイングで考える

 

資本主義社会で人間に起きる不幸の原因はすべてこの社会の経済システムにある。

つまり、資本家階級に属する一部の人間が労働者階級に属する大多数を支配するからだと考えたのがマルクスでした。

そういう国家が大きくなると帝国主義国になり、他国を支配するようになると考えたのがレーニンでした。

すべてそれが原因で民族抑圧や戦争が起きるので、それをもとから変えようと思ったのです。

 

確かに今起きているシリコンバレーの企業での大量解雇、日産の下請法違反、ロシアのウクライナ侵攻など、起きていることやその原因は100年前とあまり変わっていないようにも見えます。

 

しかし、社会をもとから変えればいいと思っていたソ連、東欧諸国では、革命によって共産党と特権階級による支配という新たな社会システムを生み出しました。資本家階級がいなくなった社会主義社会が、計画経済の失敗による餓死や政治犯の収容、表現の自由の制限など資本主義社会よりも人間を不幸にする現実を示しました。

 

 

ロシア革命により財産を没収され、自由も抑圧される人々を描いたドクトル・ジバコという映画がありました。

今でもときどき上演されています。

 

 

いったい人間はどうすれば幸福になれるのでしょうか?

 

そもそも幸福とは何なのでしょうか?

 

最近、「ウェルビーイング(well-being)」という言葉をよく聞きます。

 

ウェルビーイングとは、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と厚生労働省では定義しています。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000467968.pdf

 

社会的に良好な状態とは、他者との関係が良好であることを意味します。

これだけではウェルビーイングについてわかりにくいかもしれません。

 

どのような状況だとウェルビーイングなのでしょうか?

ウェルビーイングを構成する5つの要素を表したPERMA(パーマ)の法則というものがあります。

 

PERMAの法則

 

ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリングマン氏が提唱しています。PERMAは5つの要素の頭文字をとったものです。

・Positive Emotion
・Engagement
・Relationship
・Meaning and Purpose
・Achievement/ Accomplish


「P」はポジティブな感情のことです。嬉しい、面白い、楽しい、感動、感謝といった前向きな感情を持つ人は幸せです。

「E」のエンゲージメントは「没頭」と訳します。なにかのめり込んで没頭できることがあるかどうかという意味です。

「R」は良好な人間関係のことです。家族や友人と助け合う関係を築くことでウェルビーイングの状態に近づきます。

「M」は意味や目的を持って生きているかどうかを意味します。生きがいを意識することで充実感が生まれるとされています。

「A」は達成感のことです。公私を問わず何かをやり遂げることで達成感を感じる人は多いのではないでしょうか。

この5つを満たす人はウェルビーイングである、というのがPERMAの法則です。

 

 

 

しかし、このウェルビーイングの考え方を幸福度として有名にしているのはギャラップ社の調査結果を、国際連合(国連)が「世界幸福度ランキング」として発表したからでしょう。


「世界幸福度ランキング」もウェルビーイングの指標のひとつです。

ギャラップ社が示す「評価」を軸とし、毎年国連から発表されている「世界幸福度報告」を元に各国ごとにスコアを出し、トップを決めてランキング付けされます。

 

ギャラップ社によるウェルビーイングの「5つの構成要素」

 

世界的な調査やコンサルティングを行うギャラップ社は、ウェルビーイングを構成する5つの要素を提唱しています。

 

Career well-being(キャリア ウェルビーイング)


仕事でのキャリアから、私生活で継続していることまでを含めた総合的なキャリアの幸福度です。仕事の経歴や実績、役職のほか家事、育児、ボランティア活動、趣味なども要素として含まれています。

Social well-being(ソーシャル ウェルビーイング)


人間関係に関する幸福度です。家族、友人、職場の同僚、上司など自分を取り巻く人々と、信頼関係や愛情のある深い関係を結べているか、広い交友関係があるかなどが指標となります。

Financial well-being(フィナンシャル ウェルビーイング)


経済的な幸福度です。安定した収入を得ているか、資産を確保しているかなどの要素が含まれます。

Physical well-being(フィジカル ウェルビーイング)


心身に関する幸福度です。身体は健康か、仕事にやりがいはあるか、前向きな気持ちで日々を過ごしているかなどが指標となります。

Community well-being(コミュニティ ウェルビーイング)


地域社会での幸福度です。家族、友人、学校、会社、部署など自分が属しているコミュニティとの幸せが測られます。
 

 

仕事、人間関係、経済、心身の健康、地域コミュニティでの幸福を測っているのです。

 

 

 

 

その2023年度版ランキングがこちら。

 

 

北欧5カ国が上位10以内に入っています。

日本は47位。

 

北欧諸国は来たるべき未来社会で幸福を実現しようとするのはなく、今すでに幸福を実現している国々と言ってもいいでしょう。

 

 

そういうなかで、現在幸福度のランキングが世界でも高く、人間が住むユートピアに近づいていると思われるのが北欧の福祉国家の諸国です。

 

日本とは規模も歴史も違う国々です。

でも、日本の未来社会を考える上で、ヒントになるところは多いのではないでしょうか?

 

 

2.国の規模、経済などの北欧と日本の違いと共通性

 

 

日本と北欧を比較するにはまず規模の違いがあります。

人口が1億2000万人以上いる日本に比べて、北欧ではスウェーデンが1000万人、ノルウェー、デンマーク、フィンランドは500~600万人、アイスランドは37万人と小規模な国です。北欧全部合わせても日本の4分の1くらいです。

国力が違いすぎるので比較対象にならないのでは?と思う人もいるでしょう。

 

 

しかし、一人当たりのGDPでは、ノルウェー2位、アイスランド8位、デンマーク9位、スウェーデン12位、フィンランド18位に比べて、日本は32位です。

国民にとって経済的には北欧のほうが豊かと言えます。

 

 

実質賃金も停滞している日本よりもフィンランド、デンマーク、スウェーデンのほうが着実に伸びています。

 

 

3.女性活躍社会ってなに?

 

 

では、現実的にその違いはどういうところから起きているのでしょうか?

 

 

ジェンダーギャップ

 

ジェンダーギャップ・レポートが、2006年から公表されています。

「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」の4つの分野で男女間の格差について調査され、賃金、教育環境、健康寿命、閣僚の人数などについて男女の差を比べています。

男女平等への達成率を数値化。「男性100%」とした場合の女性の比率を示しており、数値が小さいほど、ジェンダーギャップは大きいと言えます。

 

【ジェンダーギャップ指数 2023年版】

 

調査対象146か国のうち、男女平等が最も進んでいるのはアイスランドでした。達成率は91.2%で、14回連続の首位です。2位はノルウェー(87.9%)、3位にフィンランド(86.3%)、4位にニュージーランド(85.6%)、5位にスウェーデン(81.5%)が続き、北欧の国々が上位を占めました。最下位は、アフガニスタンの40.5%で、中国は107位、日本は125位でした。

 

この順位は、女性の国会議員の指数順位と似ています。

現象的にはこういう絵柄になります。

なんか一目瞭然ですね。

 

 

高齢男性が政治を支配する日本と、若い女性が支配するフィンランド。

それはジェンダーギャップの問題でもあります。

 

これは汚職の問題ともつながっているのかも知れません。

裏金がどうしたこうしたで国会が止まるアジアの国が日本です。
それに比べて、デンマークやフィンランドは政治家の汚職が少ない。

 

 

2023年の腐敗認識指数では、180カ国・地域中、デンマークが1位、フィンランドが2位で、日本は16位でした。

社会主義国の中国とキューバは76位、ベトナムは83位、ラオスは136位、北朝鮮は172位という結果です。

 

 

 

 

男女の賃金格差

 

これは賃金格差にも表れています。

この格差は日本の場合、正規社員が男性に多いからこうなります。

 

 

 

賃金格差は、管理職に占める女性の割合が低いのも日本の課題のようです。

 

政府関係者はこうした問題の背景について「いわゆる『ガラスの天井』と言われる現象で、女性が組織内で高い地位に就きにくいとか、子育てなどで退職すると正規(雇用)の職に戻りにくいといったことがある」と説明。正規のみならず非正規も含めた男女間の賃金差を明らかにすることで、課題解決を狙う。

 

 

 

ジェンダー役割の問題

 

もうひとつは育児についての男女の役割分担です。

男女で家事・育児などの無償労働での男女比較という調査があります。

 

 

 

 

この結果について、社会学者の本田由紀・東京大学大学院教授はこう語っています。

 

どの国も女性が男性より長いが、日本の男性の無償労働時間は1日41分。データのある30カ国中最少で、上位のデンマークやオーストラリアなどと比べるとわずか4分の1だ。

 また、日本の男性の仕事時間は、先進国の中では非常に長いというデータもある。つまり、日本ではいまだに「男性(父親)は仕事、女性(母親)は家事育児」という性別役割分業が強く残っているのが、大きな特徴になっている。

 「無償労働は家事育児だけではなく、高齢者や、障害者などへのケアも含まれます。しかし、こうした人への生活保障やケアは、福祉国家であれば公的制度が担うべきものです。日本型福祉社会は、これらの責任を家族、特に女性に押し付け、さらには日本の『美風』として称賛してきたのです

 

 

 

(つづく)